悪役令嬢はヒロイン劇場に巻き込まれる
「ごめんなさい!!私…私そんなつもりはなかったの!」
顔を上げたエマの瞳に大粒の涙が光る。
「私貴族になってまだ日が浅いからよくわかっていなくて…。いつもみんなには仲良くしてもらっているから応援の気持ちを込めて刺繍したハンカチを渡しただけで、そんな決まりがあることを知らなかったの!」
そこまで言い切ると、わっと泣きながら両手で顔を覆った。
わざとらしい。
当然私はそう思うが、単純おバカどもは気づかない。
「エマ嬢!君が貴族のルールや学園のルールをまだしっかりと知らないことはわかっている!これから知っていけばいいことだから、そんなに泣かないでくれ」
「そうだ!知らないことは知ればいいし、間違ったことは改めればいい」
「わからないことは聞いてくれれば教えるよ」
男どもはなぜあれが嘘泣きだと気づかないのか。
エマはきっと嘘泣きがバレないように顔を両手で覆っているに違いないのに。
そしてお前たちがフォローしなければならないのはそこの非常識女ではなく、各々の婚約者だろう。
呆れ果てる私に、ライアンが責めるような視線を投げかける。
「エレナ嬢、前にも言ったようにエマ嬢はまだ貴族社会のルールに疎い面がある。そこをフォローしてあげるのも王太子である私の婚約者の務めではないのか?」
おっと、飛び火してきた。
…っていうか、腹立つわね。
そもそも常識外れはそちらなのになぜ責められないといけないのか。
そしてフォローに関してはすでに断っている。
だいたい、婚約者の務めにそんな内容が入ってるなんておかしいのよ。
「ライアン様!いいのです。私が悪いのですから、エレナ様を責めないでください!」
顔を上げたエマが涙に濡れる瞳でライアンを見つめる。
「エマ嬢…君は優しいんだね。こんな状況でもエレナ嬢のことを気にかけるなんて…」
…は?
いやいや、ライアンくん、頭はたしかかね?
おかしいのはあなたたちの方!
いやだわ。
完全にヒロイン劇場に巻き込まれている。
利用されて、エマの株を上げる手伝いをさせられているようなものだ。
「もうすぐ大会が始まりますが、結局婚約者の方々のハンカチは受け取られるのでしょうか?」
混乱を極める現場に、クールな声が割り入った。
ダグラスだ。
本来なら王太子も含む会話の中に護衛が口を挟むなど許されない。
しかし今は助かった。
はっきり言って私はハンカチなんぞ渡したくないのだが。
しかしそれではクレアも渡しづらいに違いない。
「そうですわね。ライアン様、私のハンカチを受け取っていただいても?」
もはや早く用事を済ませたい私はライアンに問いかけた。
「…あ…ああ」
ライアンが頷くのを見てさっさとプレゼントの包みを渡す。
「そうそう、オーウェン様はまだクレア様から受け取られていないでしょう?」
そしてクレアが渡しやすいように声をかけた。
「ああ。そうだな」
オーウェンの返事に、クレアがそっと近づくとプレゼントを差し出した。
「あまり上手じゃないかもしれないけれど、頑張って刺繍したの。大会、怪我のないように楽しんできてね」
クレア…なんて健気なの。
あの現場を見てもそんな言葉をかけられるなんて。
「ありがとう」
ちゃんとお礼を言えるオーウェンはまだマシね。
ライアンなんて無言で受け取っただけよ。
しかもまだエマのすぐ側にいるし。
気づけばベイリーはソフィと何か言葉を交わしている。
あれ?
もしかしてこの3人の中で男として一番ダメなのはライアンなのでは?
そう思いながら、私はクレアとオーウェンのやり取りを見守ったのだった。
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