悪役令嬢は護衛をたしなめる
ライアンたちを見かけはしたものの、声をかけることもかけられることもなく食事を済ました私はクレアと一緒にクラスまで戻ってきた。
クレアの性格もあるのか思いの外話が盛り上がり、これはもしかしなくてもお友だち第1号なのでは!?と心弾ませていたことは私だけの秘密だ。
そして教室の入り口には仕事放棄をした護衛が待っていた。
「あら。転職したのかと思いましたわよ」
「あー…申し訳ございません。少し呼び出されておりまして。護衛に支障が出たこと、謝罪いたします」
ダグラスが珍しくも殊勝な態度で謝る。
呼び出し…ねぇ。
王太子の婚約者であり公爵令嬢でもある私の専属護衛を呼び出せるくらいの者っていったい誰かしら?
「誰が呼び出したのか聞いても?」
「申し訳ございません」
ふーん。
私が聞いても答えないと。
でもこうなったダグラスは絶対に口を割らない。
少なくとも、そのことがわかるくらいのつき合いがあった。
「まぁいいわ。今回は大目に見るけれど、あなたの仕事が私の護衛だということは忘れないように」
「肝に銘じておきます」
別に私もダグラスを四六時中縛り付けておきたいわけではない。
ただ、彼の仕事は私の護衛で、授業時間以外は勤務時間なわけだから、もしどうしても離席しなければならないなら報告の義務がある。
ダグラスは合理的な性格なので今までそういったことで注意をすることはなかったのだが…。
まぁ、済んでしまったことはしかたない。
これから注意してもらえばいいわ、そう思ったところで、不意にダグラスの視線がクレアに向いた。
「ああ、お友だちができたんですね」
…んにゃー!!
なん、です、って!!!
その瞬間の私の心を表す適切な言葉はなかった。
あのダグラスが。
あのいつでも無表情に近いダグラスが、ちらりと微笑んだのだ。
ちょっとそこの奥さん見まして?
ダグラスさんが微笑んだわ!!
動揺のあまり心の中に住む架空の奥さんに話しかけちゃったよ!
私は目を剥いてダグラスを凝視した。
ただし心の中で。
私の表情筋は素晴らしいポテンシャルを発揮して、たぶんほんのりと微笑んでいただけだろう。
たとえ心の中にブリザードが吹き荒ぼうとも、表情とは連動しないのだ。
今回ばかりはエレナの表情筋に感謝だわ。
ここで動揺も露の顔をしていたら周りに何を言われるかわからないもの。
「ええ、そうよ。こちらはクレア様。今後一緒に刺繍をすることになるから、覚えておいてね」
勝手に友だち認定して言ってしまったけれど良かったかしら?
「エレナ様の護衛の方ですね。私クレアと申します。今後よろしくお願いいたしますわ」
クレアはお友だちの部分に突っ込まなかったので、やはりその認識で良いらしい。
やったー!
念願のお友だちをゲットしたわよ!
正直、かなり嬉しかった。
もちろん顔には出していないわ。
だからダグラス。
小さい子を微笑ましく見るような目で私を見ないでちょうだい。
数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。
よろしくお願いします。




