悪役令嬢は王宮を行く
結局、王太子とのお茶会は終始会話も弾まず、はっきり言って時間の無駄では?と言いたくなるようなひと時だった。
初めての事態に困惑する王太子を横目に見ながら『ざまあみろ』と思ったことは内緒だ。
貴族令嬢としてあるまじき言葉遣いだしね。
よし。
今日のことは『静かなるお茶会』としてノートに記入しておこう。
私は庭園を抜けて王宮に入り、家に帰るための馬車乗り場まで歩いていた。
無駄に広い王宮内を歩くのはなかなかの運動量だ。
知らなければ迷子になってしまう入り組んだ道も、すでに通い慣れているエレナにとってはどうということもない。
なんなら考え事をしながらでも歩ける。
次はどんな手を打っておくのがいいかしら?
今日王太子に会ったから、次は兄?
それとも、デュランのところで事業の話を進めるべきか。
デュランのところに行けばもれなくミラに会えるわよね。
癒されたいわー。
ミラ発のマイナスイオンを浴びに行きたい。
ああでも、そんなのんきなことをしていてもいいのかしら。
時間は刻々と過ぎていくというのに。
「お嬢さま、眉間に爪楊枝でも挟む気ですか?」
突然のダグラスの問いかけに私は思わず足を止め、そして再び歩き出した。
「あら。それだけ彫りが深い顔ってこと?」
「しわが深いの間違いでしょう?」
ダグラス、令嬢に向かってしわが深いってどういうこと?
だいたい、この西洋的世界に爪楊枝ってあるの?
『あんこ』といい、ちょくちょく出てくるザ・日本の名称に若干萎えるわぁ。
「お前の目には変なフィルターがかかっているのよ。一度眼を診てもらったらどうかしら?」
「先日視力チェックに行ったばかりなので遠慮しておきます」
ああ言えばこう言うという典型的な会話に思える。
ただ、最近ではこういう会話も嫌ではなかった。
なんというか割と前世での素でいられる気がするからだ。
そういう意味ではデュランのところも変な話エレナの家よりも居心地が良い。
私はどこまでいっても庶民なのよね。
煌びやかで質の良い家具に囲まれたエレナの部屋。
お姫様のような生活に憧れる子なら楽しいのかもしれないけれど、私にとっては寛ぎにくくもある。
正直、うっかり割ったらどれくらいするのかわからない壺とか、気が気じゃないのよ。
なぜ自室でビクビクしながら過ごさないといけないのか。
理不尽だわ。
この環境に慣れることはあるのか。
そう思っているうちに、気づけば馬車乗り場まで辿り着いていた。
思考がかなり前世に流れていたけれど、ちゃんと貴族令嬢らしくダグラスの手を借りて馬車には乗り込んだわよ。
ここは王宮。
どこに誰の目があるかわからない、魑魅魍魎の世界だから。
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