悪役令嬢は訪問する
ティミード伯爵家にはエレナと同い年の令嬢がいる。
私はその令嬢宛に彼女の家に訪問したい旨を記した手紙を出した。
日程的に急ではあったが、さすがに王太子の婚約者であり公爵令嬢でもあるエレナの願いを無下にすることはできなかったのだろう。
すぐに許諾の返事があった。
デュランの妹はティミード伯爵の三男に連れ去られている。
それはゲームの中でも触れられていたので間違いない。
三男には、連れ去られた子が恐怖に苛まれる姿を見て楽しむという悪癖がある。
その上で最終的には殺害してしまうというのだから、もはやサイコパスだろう。
…怖っ!
幸いなのかというのは疑問が差し挟まるものの、デュランの妹はまだじわじわ恐怖を与えられている状況だ。
心の傷はいかばかりか想像するのも辛いが。
「手筈は整っているわね?」
「もちろんです」
ダグラスの返事に満足して、私はティミード家の門を叩いた。
「エレナ様にご訪問いただけるなんて光栄ですわ」
ティミード家のご令嬢、マリーが迎え入れてくれるのを私はしっかりと観察する。
彼女は微笑んではいるものの、その手がかすかに震えているのに気づいた。
それで確信する。
彼女もまた、三男の暴挙を知っているのだ。
なぜそんな男が放置されているのか、非常に腹立たしくはあるものの、その家の娘であるマリーがそのことを正すことも告発することもできないのは想像に難くない。
それほどまでに、貴族令嬢は無力だ。
「最近流行りの舞台はもう観られたかしら?」
「いえ。まだですわ。なんでもチケットを取るのがとても大変だとか。もう観られたなんて、さすがエレナ様ですわね」
正直全然興味のない世間話をしながら様子を窺う。
と、同時にこれは時間稼ぎでもあった。
マリー嬢に渡すためのプレゼントを馬車に忘れたので護衛に取りに行かせる。
そう言ってダグラスを離席させたのだが、普通であればそんなわけあるかというような説明だ。
護衛は基本的に護衛対象の側にいなければ守ることはできないのだから。
馬車には御者が残っているので侍女に取りに行かせればいいはず。
そのことを指摘されなかったのは、私が彼女よりも高位貴族であり意見などもっての外と思われたからか、それとも現在家の中で起こっていることに気づかれないか心配だからか。
私はゆったりと紅茶を楽しみながら合図を待つ。
そしてほどなくして、その合図は出された。
ガッシャーン!!!
屋敷中に響き渡ろうかという音。
窓が砕け散るその音が、ダグラスの立てた音だということを私だけが知っていた。
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