悪役令嬢は護衛の追求を受ける
「…で?お嬢さまはなぜ俺の正体を知っていたのでしょう?」
ピンチです。
オルコット学園からの帰り道、いつかのように馬車の壁際に追い込まれて私はダラダラと冷や汗をかいていた。
護衛バージョンのダグラスではあるものの、取り繕うのをやめたダグラスは以前にもまして迫力がある。
壁ドン再び。
その逞しい両腕に囲われ、私の逃げ場は無い。
「もっ、黙秘しますわ!」
この状況で嘘も誤魔化しも難しいと思った私は思わず取り調べを受ける犯罪者のように叫んだ。
「へえ。黙秘が通じると思ってるんですか?」
蛇に睨まれた蛙、それはまさしく今の私の状況だろう。
「黙秘の権利は誰にでも認められているはずです」
「俺はお嬢さまの前ではシャツで汗を拭くなんて横着はしていないはずですけど?一応お嬢さまもご令嬢、ですしね」
くっ…。
暗に私のことを令嬢とは思っていない、と言いたいのかしら?
「痣の存在は王家の中でも秘密中の秘密。それをいくら王太子の婚約者である公爵令嬢とはいえ知るはずがありません。ましてや痣の場所は人によって違う。たとえライアン殿下の痣の場所を知っていたとしても、俺の痣が同じ所にあるとは限らない」
そう。
ライアンの痣は鎖骨の下、左胸の上部にある。
もちろん直接見たことがあるわけではなく、攻略本情報だけど。
「それをなぜ知っていたのか、大変興味がありますね」
顔!
顔が近い!!
今にも吐息がかかりそうなくらい近くにダグラスの顔がある。
ダグラスとしては私のどんな反応も見逃さないためなのかもしれないけど、私にしてみれば心臓に悪いことこの上なかった。
うう…。
美形の圧に負けそう。
ダグラスはおもむろに指を伸ばすと、私の顎をクイッと持ち上げる。
どんな嘘も許さないような黒瞳が覗き込んできた。
顎クイを、まさかこんなところで体験するとは!
漆黒を宿す瞳にすべてを暴かれてしまいそうで、私は頭の中であえて少しズレたことを考える。
耐えろ…耐えるんだ。
焦った時とか気持ちを落ち着かせたい時、前世の友人は素数とか円周率を数えていたっけ。
ここは一つ私も数えてみるべき?
そんな風に気持ちをそらしていたら、やっとダグラスが手を離してくれた。
「まぁ、今のところはいいでしょう」
今のところは?
「いずれ、必ず教えてもらいますからね」
ダグラスの瞳がキラリと光った気がした。
やる。
この男は必ずやる。
言ったことを実行しないなんてあり得ない。
ひー!
助けてー。
私は誰にともなく助けを求めた。
もちろんその声に応える者はいないわけで。
馬車がウェルズ邸に帰り着くまで、私はダグラスからの圧にひたすら耐えたのだった。
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