不動が見た未知の世界
俺の名は不動仁王。
その名の通り不動明王だ。ちなみに星野天使の実兄でもある。
明王の仕事は怒りを以ってガキ(人間)共を正しき道へ導くこと。
今日も俺は私欲にまみれたガキ共を往生させて殺る。
俺は夢を見ているのだろうか。
視線を逸らし、もう一度奴を見る。
だが、そこには先ほどと変わらない奴の姿があった。
俺の前に立つ黒い大きな瞳に黒のストレートに前髪を眉の上で切りそろえている――色素の薄い白い肌、セーラー服を着た女――美少女の部類に入ることは間違いないだろう――だが、奴はおかしなことに自分の性別を男だと主張しているのだ。
「全く理解できん。お前はガキなのか、それとも女なのか!?」
すると奴は口を尖らせながら言った。
「だ~か~ら~、僕は男の娘だよ!」
「どういう意味だ!」
「漢字で男の娘って書いて男の娘って読むの。つまり、女装した男の子だよ」
「何ッ!?」
その発言に、俺は思わず間合いを置いた。女装した……男だと?
あり得ぬ。奴の造形は人間のガキ共が見たら9割は美少女だと答えるはずだ。
現にこの俺でさえ、女だと思ったほどなのだ。なんという奴だ……俺はたった今、この瞬間まで宇宙には男と女、オスとメスという性別以外存在しないと思っていた。だが、男の娘たる種族が独自の進化を遂げ、生き続けていたとは、さすがの俺も驚愕してしまった。これは星野も知るまいから、テレパシーで自慢すれば、兄の威厳を示すことができるはずだ。
『星野、お前は男の娘を知っているか?』
『当然です。女装した男ですよね』
『……知っていたのか』
『どうしたんですか、不動兄さん声が急に暗くなりましたね』
『気のせいだ』
どうやら、俺の自慢は失敗に終わったようだ。




