偽りの普通
俺の名は不動仁王。
その名の通り不動明王だ。ちなみに星野天使の実兄でもある。
明王の仕事は怒りを以ってガキ(人間)共を正しき道へ導くこと。
今日も俺は私欲にまみれたガキ共を往生させて殺る。
そのガキは、目立たないように振る舞っていた。
勉強も運動も平均で、顔立ちも冴えず、背も高いほうではない。
つまり、俗にいう風景に隠れそうなほど印象の薄い男であった。だが、俺の目は誤魔化せはしない。俺は早速ひとりで下校中の奴の前に姿を現した。
「ガキ、そろそろ己の本性をさらけ出すがいい」
「何の事です。
俺はこの通り外見も学校の成績も冴えない、ごく普通の高校生です」
その言葉に、思わず頬が緩む。
「普通? お前のどこが普通なのだ、ガキ」
「あなたには俺が普通に見えませんか?」
「見えん」
瞳の殺気を強めると、奴は高笑いを始めた。
どうやら本性を現す気になったようだ。
「どうやらあんたにゃ誤魔化せねぇようだなぁ。そうとも、俺はその気になれば成績もオール5が取れ、女にモテモテ、家は大富豪でおまけに全てを破壊できる異能の持ち主だ! だがありのままでいると好感が持てないんでな、普通の高校生を演じているという訳さ!」
「なるほどな」
「リアクションがねぇなぁ。あんた面白くねぇから、消えちまえよ」
奴は得意の異能力で俺を消そうとするが、何も起きなかった。
「なんだ、不調か!?」
突然の出来事に奴は狼狽する。
「ガキ、お前は俺に会った時点で既に敗北している」
「ど、どういう意味だっ」
「そのままの意味だ」
「訳わかんねぇよ!!」
奴は自暴自棄になり、能力を全開にさせ建物を破壊し、全てを無に変えようとする。だが、それは無理な話だった。なぜならば、俺と相対した瞬間に奴はただのガキになっていたのだから。
「俺は不動仁王。お前のように私利私欲に溺れた人間を地獄へ往生させるのを仕事にしている明王だ……」
ガキは恐れをなしたのか、接近する俺に合わせるように後退していく。
「なんだよ、俺が何をしたって言うんだ。普通に振る舞ってただけじゃねぇか!」
「お前は、己の実力を偽り、普通を装いつつ内心では自分より劣る他人を見下している心の歪んだガキだ。その癖、自らの能力を過信し最強だと思い込み、他人の気持ちを考えずに傍若無人な振る舞いを続けてきたのだから、タチが悪い」
ここで俺は己の殺気を放ち、奴と対峙する。するとガキは先ほどの威勢はどこへ行ったのかと思えるほど怯えだし、一目散に踵を返して逃げ始めた。
「『井の中の蛙大海を知らず』とはよく言ったものだ」
奴を背後から捉え放り投げる。そして必殺技を見舞った。
「不動倶利伽羅落地!!」
近頃は、広い海に出る勇気を持たずに狭い井の中で満足し、その中に住んでいる自分より弱い生き物を見下している蛙のなんと多いことだろうか。
だが、そんな奴らが海に出たところで、きっと死んでしまうだろう。
願わくば、もう少し冒険心のある蛙が現れてほしいものだ。




