二人の王女、火花散らす③
そして夜が明け、朝日が昇る。
飛竜の谷、そびえたつ渓谷の隙間から、日の光が見え始めた。
街にはレースを一目見ようと人が溢れ、渓谷の上にも腰を下ろしている者も多くいた。
観客たちはレースが始まるのを今か今かと待ちわびている様子だった。
「え――――、皆さま本日はお越しいただきありがとうございます!これより竜姫対、竜女王のレース大会を始めます!」
突如、大きな声が響く。
空に舞う数頭の飛竜、そのうちの一頭の背中から発せられたものだった。
谷のライダーの後ろには、拡声器を持った編集長と記者が乗っていた。
編集長は記者から拡声器を奪い取ると、大きく息を吸い込む
「幼い頃より飛竜の谷を駆け抜けた竜姫、対するは先日大陸横断を果たした竜女王!今、間違いなく女性ライダーの最高峰たる二人がぶつかる時が来たァァァァァ!!美しき女の意地と誇りをかけた戦いが今!始まァァァァァるッッ!」
「わああああああああああああ!!」
大歓声が上がり、観客たちは総立ちで手を叩いた。
編集長は歓声が収まるのを待って、更に続ける。
「谷の入り口、その先端をご覧下さい!」
そう言うと、編集長を乗せた飛竜は谷の入り口付近へと飛ぶ。
その横にはエメリアに乗ったミレーナの姿。
青色の騎竜服、フルフェイスの騎竜兜が朝日を弾き、きらりと光る。
その目はまっすぐゴールを見据えていた。
「見えますか皆さま! 朝日に雄々しく並び立つ二人の勇姿! 左に立ちますはやたらと金ピカなド派手な飛竜!名は体を表すのか、体に名を表したのか!竜女王駆る、ゴールデンゴールド号だーーーっ!」
おおおおおおおおおお!と上がる歓声。
「巨体を生かしたパワープレイだけでなく、常に谷を飛び続けた熟練の技が炸裂するのかーーーっ!?」
岩壁の上には金装飾で彩られた飛竜、ゴールデンゴールド号の上に腕組みをして立つシャーレイの姿。
真っ赤な騎竜服、フルフェイスの騎竜兜を身に纏い、不敵な笑みを浮かべている。
「対するは!最近グングン評価を伸ばして来ている期待のライダー!あの『おっさん』の飛竜!竜姫駆る、エメリア号だーーーーッ!」
わああああああああああ!と、上がる歓声。
声援の量は互角だった。
「小柄ではあるがやたらと機敏で反応がよく、どんな狭いところでもすり抜けるように飛ぶ!超絶テクニックは竜姫にも受け継がれているのかーーーっ!?さぁさぁ二人とも、二頭とも、始まりの時を今か今かと待ち構えております!」
観客全員の視線が二人に集まる。
観客の中にはメイドに肩車をしてもらっている子供がいた。
緑髪のツインテールのメイドと銀髪の少年。
少年は手に双眼鏡を持ち、ワクワクしながら二人の様子を見守っていた。
「いやぁ、飛竜ってのはいいね。男のロマンだよ。そう思わないか? アイシス」
「おやおやースヴェン様も意外と男の子なんですねー。うんうんわかりますよ。かっこいいですもんねー」
アイシスと呼ばれたメイドはニコニコ顔で頷く。
「うん、それに戦略兵器としてもすごいんだあれは。ただ数が少ないのがネックなんだよな。もっと量産できれば……」
「スヴェン様ー、竜女王が何か言うみたいですよー」
一人の世界に入り込むスヴェンの下で、アイシスはのんびりとした様子で指をさす。
「あー、あー、てすてす」
シャーレイは腰に下げていた拡声器を口元に当てる。
キィーーーンと機械音が鳴り、丁度いい音になったのを確認し口を開く。
「私の勇姿を見る為にこれだけの人間がよくぞまぁ集まったものですわ!きっとこの中には様々なドラマを期待している方もいるでしょう!手に汗握るハラハラドキドキの熱い戦い…とかですがそんな事は何も起こりません。この私、竜女王がただ勝つべくして勝つ!それだけのつまらない戦いですわ!水が高いところから低いところへ流れるように、太陽が東から昇って西へ沈むように、女王が姫に勝つのは、当然の事なのですわっ!おーっほほほ!おーーーーっほっほっほ!」
高笑いするシャーレイを見て、観客がどよめく。
その殆どはあまりの自信過剰ぶりに呆れ果てていたが、しかし一部では熱狂していた。
「竜女王!竜女王!竜女王!」
数か所で一糸乱れぬ熱烈な竜女王コールを送る。
仮面で顔を隠しているが、その正体はローレライのシャーレイ親衛隊である。
その両手には『竜女王』『華麗』『優雅』などと書かれた大きな旗が握られており、手にしたそれを振っていた。
その一団の中に白髪の執事に肩車された、モフモフのファーを着た少女の姿。
傍らには大きな白狼が、やはり各々旗を持っていた。
「シャーレイお姉さまー!フレフレなのだわーっ!」
「アーシェ様、ここではシャーレイ様は竜女王で通っておりますので、名を呼ぶのはマナーに反します」
「はっ!そうだったのだわ!……こほん、ではフレフレ竜女王!頑張れなのだわーーっ! ほらセバスも! モッフルも!」
「ガウ!ガウ!」
アーシェと呼ばれた少女はパタパタと一生懸命小さな旗を振る。
セバスと呼ばれた執事は空いた方の手で、モッフルと呼ばれた白狼は口に咥えた旗を振っていた。
ローレライ一行の応援に気づいたシャーレイは、彼らに微笑み手を振った。
「フ、来なくて良いと言ったのに、困ったコたちですわね。……それに比べて貴方の応援は……」
ちらりとシャーレイが送る視線の先には、アルトレオから駆け付けたメイドA率いる一団がいた。
その先頭ではメイドAが『大漁』と書かれた旗を振っていた。
「竜姫《プリンセス! ほい、竜姫《プリンセス!》 そいや、竜姫《プリンセス!」
謎の掛け声と共に軽々と巨大な旗を振るメイドA。
それに続くように、ケイトが、リリアンが旗を振る。
「てーかさ、なにこの『大漁』っての?意味がよくわからないんですけどーっ!?」
「彼女のご祖先様がよく使っていた言葉らしいな。必勝を祈願するものらしいが……」
「絶対違うってこれーっ!わざと誤用して遊んでるんだーっ!」
「……如何にもありそうな話だ」
怪しむ二人の後ろでは、アルトレオの兵たちが同様に旗を振っていた。
その中の一人、赤い髪の少女がぼやく。
「うぅ……なんで私まで……」
その横では青い髪の少女が全力で旗を振っていた、
「竜姫!ファイトぉぉぉぉ!うおおおおおおお!!」
長い前髪で目を隠したような内気そうな少女だが、それに似合わぬ動きだった。
「な、なんでそんなに張り切ってるの?ローラ」
「だって久しぶりの出番ですもの。張り切るに決まっているわ。ねぇセーラ」
ローラと呼ばれた青い髪の少女は、赤い髪の少女をセーラと呼び笑みを浮かべる。
「ちょ、なんで睨むのよローラ!?」
「さぁてなんでかしら。さて頑張らないと。次はいつ出番があるかわからないし。ふふ、ふふふ」
「出番って何!?なんの話!?ちょっと目ぇ怖いよローラっ!?」
長く伸びた前髪の下で、ローラの目が怪しく光る。
セーラはそんなローラの様子に怯えていた。
そんなアルトレオ勢を見て、シャーレイはくすりと笑う。
「フ、見ていられませんわね」
シャーレイは勝ち誇ったようにミレーナを見る。
「てんでバラバラ……応援で勝負が決するとはいいませんが、程度は知れますわね?それを束ねるあなたのも……ねぇ竜姫?」
そんなシャーレイを見もせずに、ミレーナは答える。
「応援はどのような形であれ、ありがたいものです。それを貶める貴女こそ程度が知れるというもの……そう思いませんか、ねぇ竜女王?」
「む……!」
「私にはあなたのような確固たる自信はありません。ですが、勝たねばならない理由があります。今回の戦い、私はドルト殿から手取り足取りご教授頂きました。そんなドルト殿の期待を裏切るわけにはいきません」
ミレーナの視線はゴール地点、ドルトのある方は注がれていた。
それに気づいた観客たちが、にわかにざわめき始める。
ミレーナはシャーレイを睨み付けると、拡声器を口元に近づける。
「だから、私は勝ちます!」
ミレーナの言葉にシャーレイは微笑を浮かべた。
――――面白くなってきましたわね、そう唇を動かした。
「いいですわ、ミレーナ。その目、その顔、その心意気! そうでなくては私のライバルとしてふさわしくありません。いいでしょう。本気でやり合いましょう!」
エメリアが、そしてゴールデンゴールド号が飛び立つ姿勢を整える。
今か今かと合図を待つ。
緊張の一瞬、二人の前で合図係が大きく旗を振り上げる。
そして――――
「それでは、竜姫VS竜女王、スタァァァァァァァトォォォォォォ!!」
フラッグが振り下ろされ、飛竜二頭が飛び立った。
■■■
時を同じく、ガルンモッサでも陸竜が並んでいた。
満足げなレビルと今にも死にそうな顔をした副長が見下ろす中、こちらでもフラッグが振り下ろされた。。
新作を書きましたのでよかったらどうぞ読んでやってください。
第七王子に転生したので、気ままに魔術を極めます。
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