フォーリンラーメン
「『美味すぎ注意! 究極ラーメン!』って、随分大きく出たわねえ……」
秋の夕べだった。聖痕十文字学園中等部二年、炎浄院エナは店先にデカデカと飾られた立て看板を前にして、ツインテールをヘニョらせながら溜息をついた。
謎のJCラーメンブロガー『なえタン』の中の人として、今日もラーメン取材に余念のないエナだったが、地元聖ヶ丘の新店『とろとろ亭』を前にして入店前から早くも気持が萎え始めていたのだ。
ネオンでギラギラの店構え。『究極ラーメン』なる安直なネーミング。
概してこういう店の出すラーメンは究極とは縁遠い味なものだが、今月最後の「宿題店」となれば致し方ない。
「これで大したことない味だったら、ブログでギタギタに酷評して晒し上げてやる!」
などと良からぬ事を考えながら、引き戸を開けて店に入ったエナだったが、
「いらっしゃいませー! あ、エナ!」
カウンター越しに声をかけて来た店員に、
「コータくん! こんな処で、何してるの?」
エナは目を丸くした。 厨房に居たのはエナのクラスメート、ツンツン頭の時城コータだったのだ。
「へへ。従兄のソウイチ兄ちゃんがラーメン屋を始めたんだ。今日はバイトが風邪ひいて、俺が代わりに手伝ってるんだ」
そう答えるコータと、
「お。この子がコーちゃんのG・Fか。じゃあ何かサービスするか!」
笑顔でエナを出迎えるイケメンの店主。
「うう……」
エナは厨房の中で洗い物や麺茹でをする作務衣姿のコータを見て、胸の鼓動が速まるのを抑えられなかった。
働くコータくん……格好いい……。
そうこうしている内に、
「エナ、そろそろ来ると思ってたぜ。これ、試してみろよ俺の考えた日替わりラーメン!」
まだ注文もしてないのに、コータがエナの前に出来立てのラーメンを運んできたのだ。
「い、いただきます……」
思いもよらぬ展開にしどろもどろのエナが、具と背脂が三倍になったコータ特製メニュー『アルティメット究極ラーメン』に箸をつけた。
ズルズルズル。おずおずとラーメンを啜るエナ。
脂がギタギタ、化学調味料たっぷりのお世辞にも上品とはいえない味だったのに、
「うん……美味しい、です、これ……」
エナは頬を赤らめながらコクリと肯き、小声でコータにそう応えた。
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翌日エナのブログにアップされた『とろとろ亭』の評価記事は、辛口で有名な彼女のブログでは異常ともいえる程の高評価だった。
口さがないラーメンファンの間では『なえタン』と特定ラーメン店との黒い癒着が囁かれたりもしたのだが、そんな事は一向に気にならないエナなのであった。




