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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *四章 ナユを探すための手がかりを求めて

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01





お待たせしました、更新、再開します。

※完結まで書き切っています。





     *


 警ら隊の第三部隊長のラベリア・セレンとミツルは合流した。

 セレンは見るから硬そうな茶色の髪に蒼い瞳をしていて、顔もそこそこ整っていた。さらには、さすが警ら隊の隊長というだけあり、均整のとれた身体のうえ、なによりもナユの好む筋肉がほどよくついていた。

 気のせいか、ミツルの周りはいつの間にか筋肉だらけになっている。やはり鍛錬しないと周りに負けてしまうと危機感を募らせたが、今はそれどころではなかった。


 サングイソルバにラディクを連れて行くのは危険と判断したミツルは、朝早くに出かけていったベルジィたちの動向の確認もしたかったため、本部に一度、戻ることにした。

 本部へ戻る道すがら、ラディクはすでにセレンと打ち解けたようで、自分がどうして村を出て、本部に来たのかという境遇をセレンに話して聞かせていた。


「そうだったのですか」


 ラディクが語り終わったあと、セレンはそんな一言を口にすると、大きくため息をついた。


「実は、私の姉がインターなんです」

「お姉さんが?」


 セレンの告白に、ラディクは何度か瞬きをした。一歩前を歩いていたミツルにもセレンの言葉が聞こえていて、足を止め、振り返った。


「祖父が亡くなって、そこで初めて姉がインターであると分かりました。姉は初めてにも関わらず、祖父を立派に地の女神の元へ送り届けることができました」


 そう口にしたセレンはなんだか誇らしげで、ミツルは眩いものを見るかのように目を細めた。


「私の家族はそのことに驚きましたが、インターが出やすい家系と知っていましたし、自慢の姉がインターだったということに、あまりおおっぴらにはいえませんが、喜んでいたのです」

「……喜んでいた?」


 ミツルが今まで見てきたのは、インターというだけで虐げられてきた人々ばかりだった。だからセレンの一言はかなり驚きであった。


「世間では、インターを死神のように扱っていますが、私はそうではないのを知っています。むしろ、インターがいるからこそ、私たちはこうして何事もなく生きていけるのです」


 この国で生きている人たちみんながそんな考えであれば、インターはもっと楽に生きていけるのに、と、セレンの一言にミツルは思わずないものねだりをしてしまった。

 だけど、口を開けば思わず憎まれ口が出てしまうのは、それまでの癖。


「ま、知られていようがいまいが、俺たちはどちらでもいい」

「ミツルさん……」


 ラディクの悲しそうな声に、ミツルは視線をあげ、空を見た。


「明日も変わらずこうして空を見上げられたら、俺はそれでいい」


 もしもここにシエルがいたら突っ込みが入ったであろうが、ここにはいない。


「空……ですか」

「今は時間がないからぼんやりと空を見ることができないけれど、昔は暇さえあれば、ずっと空を見ていたな」


 そうやって空を見ていたからこそ、シエルと出会ったのだが、そういえば突然、理由も告げずに姿を消したシエルはどうしているのだろうか。

 そんなことを思いながら、ミツルは空を見上げた。

 城下町の建物の隙間から見える空は狭かったけれど、相変わらず蒼かった。


     *


 ミツルが気まぐれのように思い出したシエルは、ナユの身体の中にいたとき、外から話しかけてきた男の行方を追っていた。

 といっても、シエルは声しか聞いていないため、そいつがどんな見た目をしているのかさえ分からない。

 分かるのは、声と気配のみ。

 そんな曖昧なものを手がかりにして、シエルは超高速でウィータ国内を巡回していた。

 今の今まで、地に力を奪われたことに対して、特に不便だと感じていなかったのだけど、いざというときに思ったような結果を得られないことに歯がゆく感じていた。

 本来ならば、こんなことをしなくてもすぐに見つけられていたと思われるのだが、シエルの力の大半は地に奪われた上、身体を地の奥深く──人々はそこを冥府と呼んでいるらしい──に封印されているため、非効率であったけれど、地道にこうして探すのが、今のシエルにとっての一番の近道だった。


 こうして探し回って目的の男を見つけるのが早いのか、地の元に行って力を奪い返してから行動に移した方が早いのか、妙な焦りを感じたシエルには判断が付かなかった。


 だけど、シエルがもう少し冷静であれば、どうすることが最前の方法か分かっていたはずだった。

 ──あのとき、シエルの存在に気がつき、話しかけてきたという事実をシエルが冷静に判断をしていれば、どうするのが一番なのか分かったはずだ。

 シエルがそれをできなかった理由。

 それは、男の気配を追いかけていると、なぜか一緒にナユの気配まであったからだ。

 ナユのことはミツルに託してきたのに、どうして男の気配とともにナユの気配まであるのか。

 シエルが男のことを追いかけているのを知って、攪乱しているのだろうか。それとも──。


 シエルには判断が付かなくて、とにかく、一刻も早く男を捕まえて、ナユのことも含めて、はっきりさせたかった。


     *


 本部に戻ったミツルは、ミチを捕まえて、サングイソルバに行っているベルジィたちの動向を聞いたが、まだ戻ってきていないから分からない、とのことだった。

 ラディクはこのまま本部で待機するように伝えて、ミツルはセレンを伴って、サングイソルバへ向かうことにした。

 前にサングイソルバに行ったときは、ナユと一緒だった。

 でも、今日は筋肉なセレンと一緒ということに、なんとなく納得がいかない。

 それにしても、ナユはどこにいるのだろうか。

 ナユのことを考えるとイライラするが、今はそれよりも他にやらなければならないことがある。

 ミツルは頭を一度、軽く振るって、セレンを見た。セレンはミツルの視線に気がつき、首をかしげた。


「なにか?」

「いや、おまえの姉は今、どうしている?」

「インターとしての役目をすると言って、旅に出ました」

「旅に?」

「はい」


 それならば、どこかで会って本部に引き込むのもいいかもしれないという考えが浮かんだ。


「連絡は取れるのか」

「向こうからたまに手紙は届きますが、こちらからは」


 旅に出ているのなら、こちらからコンタクトを取ることは難しいと言うことか。


「最新の手紙にはどこにいると書かれていた?」


 ミツルの質問に、セレンは首を振った。


「場所は分からない、と」

「はい」


 いい人材を見つけたと思ったのに、行方は分からずということに、ミツルはしかし、諦められなかった。


「見た目は?」

「私と同じ茶色の髪に蒼い瞳をしています」


 特徴を聞いても、インターは顔を覚えられないようにフードを被っていることが多い。それでも、なにかの拍子に会うことがあるかもしれない。


「放浪の旅をするくらいなら、インターの本部で働いてくれると助かるんだがな」

「インターの本部で、ですか?」

「あぁ。人手が足りない」


 それに、と続ける。


「宛のない旅に出られていては、家族も心配だろう?」

「えぇ、そうですが」

「家には戻ってこないのか?」

「戻ってくる気は無さそうです」

「もし、戻ってきたら、俺が探していたと伝えてくれないか」

「分かりました、戻ってくることがあれば、伝えます」


 それから二人は黙ったまま、サングイソルバへと向かったのだった。

 

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