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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
三部*一章 消えたナユ

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01

 ベルジィとアグリスは二人で夜の城下町を歩いていた。

 城下町に来るのは初めてではないが、サングイソルバに比べるとなにもかもが大きいし、広いし、戸惑ってしまう。妙に着飾った人たちが多く行きあっているのを見て、場違い感が募った。そうなると二人の足は自然と慣れた町に似た空気を持つ場所へと向いていく。

 裏路地らしきところをのぞき込むとそこにも店があり、明かりがついていた。

 なんとなく馴染みのある空気に二人は知らずにほっとして、そちらへと足を踏み入れた。狭い通りにはそれなりの人通りがあるが、表と違い、着飾った人たちはいない。

 二人は夕食を食べられそうな店を探して通りを進む。ふわりと柔らかな風が美味しそうな匂いを運んできた。


「アグリス」


 ベルジィの呼び声にアグリスは無言でうなずいた。

 匂いの元を探して歩んでいると、ふと目の前に塊が転がっているのが見えた。酔っぱらって道で寝てしまったのか。サングイソルバではよく見かけた光景だが、それにしても少し時間が早すぎではないだろうか。

 とはいえ、二人にしてみれば絶好のカモだ。親切に助ける振りをして財布を抜き取ってしまえ。

 ──とそこまで考え、いや、もうそういうのからは足を洗ったんだからやっては駄目だと自ら突っ込みを入れた。

 しかし、このまま放置しておくのもいくら城下町で治安がいいとはいえ、自分たちのようなヤツラのカモになりかねない。今までの自分の悪行は棚に上げ、ベルジィは足下に転がっている塊に声をかけた。


「おーい、大丈夫かぁ?」


 声を掛け、どうにも見覚えがあるような気がしてアグリスに視線を向けた。


「そのマント」

「うん」

「暗くてよく見えないけど、髪の色も」

「……ん?」


 アグリスの指摘にベルジィはしゃがみ込み、肩を掴んで顔をのぞき込んだ。薄暗くてよく見えないが、これは間違いなく……。


「アニキっ?」


 道ばたで転がっていたのは、ミツルだった。


     *


 ミツルがどうして道で倒れていたのか分からないが、二人は見た目と違って重たいミツルをひいひいといいながら抱えて本部まで戻った。細いように見えるが、抱えてみるとしなやかな筋肉がついていて、そのせいでどうやら重たいようだった。インターの本部内にあるミツルの私室に寝かせると、二人は会議室へ戻った。


「それでミツルはどこにいたのですか」


 会議室に入るなり、ユアンは二人に迫ってきた。それにたじたじとする二人を見て、ミチがすかさず横から口を挟んだ。


「ユアンったら、恋人の私が妬くくらい、ミツルのことになると見境なくなるんだから」

「いや、しかし。ミツルは本部長ですし……」

「ええ、そうね。あなたがミツルに固執してるのは彼が本部長だからなのよね」

「…………」

「ミツルのお下がり・・・・の私を大切にしてくれるのは、少しでもミツルに近づきたいからなの?」


 なんだか今度は違う方向で雲行きが怪しくなってきて、ベルジィとアグリスは最後の望みとノアを見た。

 いつもならノアは傍観しているところではあるが、さすがに夜になってきたのもあり、とっとと終わらせて休みたいという気持ちが強く、口を挟んだ。


「本部長は素晴らしいと思いますし、ユアンさんの気持ちも僕はすごく分かります。でも、ミチさん。ユアンさんを本部長より格下と思うのは間違ってます! あなたはお下がりなんかではないですよ!」


 それでいいのか? とベルジィとアグリスは思ったが、これまでのことが分からない以上、下手に口を出すのは危険なのは分かっていたから黙っていた。

 少しの間、しんと静まりかえったが、ミチがくすりと笑ったことで場の空気が動いた。


「……うん、ありがと」


 ミチのはにかんだ笑顔にノアは嬉しそうに笑顔を返した。ユアンはそれを見て、表情を緩めた。

 場の雰囲気が緩んだところでベルジィはミツルを見つけた経緯の状況を口にした。


「あの路地ですか。確かあそこにはミツルが気に入っている飲食店がありましたね」

「ボディムなら何度か行ったことがあるわよ。そこそこ美味しかったわ」


 店名を告げられて、ベルジィはそれらしき看板を見ていたのでうなずいた。


「昼はともかく、夜にあそこにひとりで行くなんて、珍しいわね」

「そうなんすか?」


 結局二人は倒れていたミツルを見つけて本部に運んできたので夕飯は食いっぱぐれている。店からいい匂いがしてきたのを思い出すと二人のお腹が情けない音を立てた。


「あなたたち、食べなかったの?」

「不案内の町で食べられそうな店を探していて、アニキを見つけて……」

「食べられなかったと?」

「はぁ」

「じゃあ、肝心のミツルがいないのなら、今日はこれで終わりにした方がよさそうね」


 ミチのその言葉により、今日は解散となったのだが……。

 ベルジィとアグリスは会議室で途方に暮れた。


「なあ、アグリス」

「……うん」


 みなまで言わなくてもベルジィが言いたいことが分かるのは、それなりの月日を一緒に過ごしてきたおかげと、二人とも同じことで困っていたからだ。


「オレたち」

「……うん。どこで夜を過ごそうか」


 ぼそぼそと相談していたのをノアがちゃっかり聞いていた。


「それなら、本部に泊まればいいと思いますよ」

「うをっ?」

「ユアンさーん、客室、いくつか空いてますよね」

「空いてますが、インター用の部屋は客室の一つ下に用意してますよ」


 妙に大きな建物だと思っていたが、まさか宿泊施設まであるとは思っていなかったため、二人は驚いた。


「私たちもここで寝泊まりしてるのよ」

「それでは、僕が案内します!」


 とノアが案内を買ってくれたため、二人はノアについていった。

 二人で一部屋だったけれど、思っていたよりも広いし快適だし、文句はなかった。

 結局、ノアも夕飯がまだだということだったので、一緒に食べに出掛けてその日はそれで終わりのはずだった。


     *


 三人が夕飯から帰ってくると、インター本部の玄関口で争う声が聞こえてきた。ノアを見ると、困ったような表情を返された。


「こういうことは?」

「たまにですがあります」


 人は昼夜関係なく亡くなるので、夜に駆け込んできて頼まれることはそれなりの頻度であるようだ。本部には四人しかいないので、話を聞いて交代で出掛けるという。インターというのはかなりの重労働だと思う。

 しかし、中に入るとどうも思っていた状況と違うようなのだ。思わず三人は顔を見合わせた。

 ちなみに、夕食を食べながら軽く自己紹介をしたところ、ベルジィとノアは同じ歳ということが分かって、かなり打ち解けていた。

 声がするところへと向かうと、ユアンとミツルの声がした。


「アニキ、気がついたんですか!」


 ベルジィの嬉しそうな声にミツルの動きが止まった。それからユアン越しに鋭い視線を向けられた。しかし、そんなもので怯むベルジィではない。不機嫌な理由が分からないベルジィは首を傾げつつ、ミツルをまっすぐに見た。ミツルはベルジィから視線を外さず、口を開いた。


「おい、ベルジィ。ナユはどこだ・・・・・・


 ミツルの問いかけにベルジィはさらに首を傾げた。


「ナユ……? なんっすか、それ」


 ベルジィの疑問の声に、ミツルは大きく目を見開き、それから力なくユアンにもたれ掛かった。ユアンはミツルの身体をかろうじて支えられたが、ふらついた。ミチが見かねてユアンを横から支えた。

 ミツルの口からは呻くような声。

 それを聞いたベルジィはミツルが路地に倒れていたのはどこか身体の具合が悪いからではないかと思ったのでノアを見た。


「アニキ、どこか身体が悪かったりするのか?」

「いえ? 殺しても死なないくらい丈夫だと認識してるけど?」


 しかし、そういう人物に限っていきなりというのもあり得る。それに実際、倒れていたのだ。ここに運び込んでから医者を呼ぶなどの対処はしていなかった。

 どうすればいいのかと悩んでいると、ゆらりとミツルが身体を起こした。

 ミツルはふらりとユアンから離れると、力なく階段を上りはじめた。

 ミツルの様子をその場にいる人たち全員で見守っていたが、廊下を通って見えない場所に消えてしまった。部屋へ戻ったのだろう。

 ミツルの姿が消えたことでなんとなく解散となり、それぞれの部屋へと消えていった。


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