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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *三章 新たな仲間

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07

     *


 ナユが入れられている牢屋の前に立ち、思っているよりもよい待遇にミツルはほっとした。

 牢屋の作り自体はミツルが自警団の詰め所で入れられていた牢とあまり変わりはなかったが、うっすらとした明かりがともされていたし、じめっとはしてなくて清潔で掃除もされていた。

 牢の中には硬そうではあるが寝台があり、きっちりと布団も掛けられていた。

 鍵を開け、中に入る。

 ゆっくりとナユに近寄ると、気持ちよさそうに眠っていた。

 起こすのは忍びないとは思ったが、ミツルは寝台の横に移動して、頭の横にひざまづいた。


「ナユ、起きろ」


 少し遠慮がちに声をかけると、ぴくりと反応があったが、それだけだった。

 まさか寝起きが悪いのかと思ったが、もう一度、名前を呼んでみた。それでも起きないところを見ると、深く眠っているのだろうか。

 こんな状況なのに意外に神経が太いなと思ったが、今度は頬をつついてみることにした。

 つんつんとつつくと、思ったよりも柔らかい感触にミツルは思わず息をのんだ。

 これは大変マズい。

 一度、手を離して眠っているナユを見た。

 目を閉じているので瞳はもちろん見えないけれど、寝ていても美少女だというのが分かった。

 小さな鼻に小さな赤い唇。頬はふっくらとしていて、今、少し触れただけでも柔らかで手触りがよいのが分かった。

 閉じた瞳を縁取るようにあるまつげがとても長い。牢内のほのかな明かりを受けて、きらきらと光って見えた。

 ミツル本人は自覚はなかったが、ユアン曰く、ミツルは面食いだ。しかも気の強い女性が好きなのだから、ナユはミツルの好みど真ん中だ。

 ミツルがもう一度、ナユに触れようとしたところ、邪魔をする無粋な声。


「アニキー、いましたかぁ?」

「お……おぅ」


 ナユに伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めてミツルは立ち上がり、ナユを背に隠すようにベルジィとアグリスに身体を向けた。


「おっ、おまえら、いいいいい、今から起こすからっ」

「アニキ、なんでそんなに挙動不審なんすか?」

「うううう、うるさいっ!」


 邪な気持ちを見透かされたような気がして、ミツルは思わずどもってしまった。

 牢の外からにやけた表情で二人が見ているのを痛いほど感じながら、ミツルはもう一度、ナユに身体を向けて、ひざまづいた。

 そっと手を伸ばしナユの頬に触れると、柔らかくてつるりとした感触に、鼓動が早くなった。

 まずい、とミツルは思った。

 不用意に触れてしまったことで、もっと触れたいという欲求が膨れ上がり、暴走しそうになった。

 早く起きてくれないと、大変マズい。

 だから必死になって起こそうとしたのだが、外野から煽るような声が掛けられた。


「アニキー、姫さんを起こすには、やっぱり接吻キスが一番ですよーっ!」

「ぶはっ」

「あ、真っ赤になってる。アニキ、もしかして、初めて?」

「ななななっ」


 人の気も知らないでと思うのだが、どさくさに紛れてそれもありかもしれないなんて不埒なことを考えていたところで、ナユの目がパチリと開いてミツルは慌てふためいた。

 ナユは身体を横たえたままミツルをじっと見つめている。それを見て、これはナユではないと気がつき、少し顔が赤いままではあったが見下ろした。


「やっぱりミツルだ」

「……あぁ」

「あたし、しばらくの間、留守にするから」

「は?」

「なにかあったら呼んでね」


 そう言って再び目を閉じようとしたので、ミツルは慌ててシエルを止めた。


「ちょっと待て。シエル、俺はおまえを何度か呼んだぞ」

「うん、知ってる。でもね、行きたくても行けなかったの」

「なんで」

「んー。はっきり分からないから詳細は省くけど、ちょっとまずいことになってると思うのよね」

「……相変わらずわかんないな」


 詳細を省くどころかまったく説明になっていなかったが、それを求めたところで返ってこないのは明らかだった。


「呼ばれたら行く努力はするけど、囚われてしまったら、ごめんね。でも、そうなったらあたしのことは気にしなくていいから」

「おい」

「大丈夫よ、あたしのことはほんとに気にしないで」

「おまえな」


 はぁ、とため息をつかれ、シエルは笑みを浮かべた。


「うん、少しでもあたしの身を気にかけてくれるだけで嬉しい」

「馬鹿だな、おまえ」

「そうね。自覚はあるわ。でも、他人に感心のないミツルにちょっとだけでもそうやって心配されたから、すごく嬉しいの」


 そう言われるとミツルは反論できない。

 今まで他人に関心が持てなかった。シエルがいきなり消えても、気配があるから大丈夫だと探したり、名を呼んだりしなかった。

 だけど少しでもシエルのことを心配できるようになったのは、ナユのことが好きだと自覚したからかもしれない。


「あなたのこと信頼してるから、ナユを預けるわ」

「なんだ、それ」

「だってナユは、あたしの大切な子孫なんですもの」

「────は?」


 呆気にとられているミツルにシエルは満足して、笑みを浮かべるとさらに爆弾発言を残した。


「ナユもあなたのことを憎からず思ってるわよ。自信を持って告白しなさい」

「な……っ!」

「あと、たまにはナユにご褒美を与えなさいよ」


 それだけシエルは告げると、じゃあねと囁き、ナユの身体からするりと抜け出した。


『じゃ、ちょっと行ってくるわ。ミツル、好きよ。またね』


 シエルは好き勝手にそれだけ言うと、ふわっと弾けて消えた。


 最後の告白にミツルは呆気にとられてると、もぞもぞと動く気配がして、次には力強く指先を捕まれたことで、引き戻された。


「ちょっと、ミツル! なんでわたしのほっぺたに触ってるのよ! 美少女が寝てるところを襲おうなんて、百万年早いわよ!」


 久しぶりに聞くナユの声に、ミツルはほっとため息を吐いた。


「おう、ねぼすけ。王子の接吻キスがないと起きないと煽るヤツがいるから、不本意ながらしてやろうとしていたところだ。ありがたく思え」

「なぁにが王子よ! あんたみたいな男、こっちからお断りよ!」


 きゃんきゃんと牢内に響く声にミツルはなんとなく恍惚の表情を浮かべつつ、名残惜しいとばかりにナユの頬をどさくさに紛れてべたべたと触れておいた。


「もうっ! 止めなさいよっ!」


 ナユに手を叩かれた挙げ句、どんっと強く胸を押されて追い出された。そんなくらいでよろけるようなミツルではなかったが、わざとらしく大げさによろけて見せておいた。


 そんなじゃれている二人を牢の外から見ていたベルジィとアグリスは胸焼けを起こしていた。二人は顔を見合わせ、やってらんねーという表情を浮かべた。


「アニキっ」


 いたたまれなくなったベルジィは、ミツルにそう声を掛けたことで思い出した。


「あぁ、目を覚ましたからここから出よう」


 とは言ったものの、夜は更け、疲れていた。


「出ると言っても、今からどこか行く宛ては?」

「あー、ないな。ということは、朝までここで過ごすか」


 ナユは牢の外にいる見たことのない二人に視線を向け、それから呟いた。


「筋肉だ」

「あんっ?」

「筋肉!」


 ナユはそう叫ぶと寝台から飛び降り、裸足のままで牢の外へと飛び出すとベルジィに飛びついた。


「うわっ?」

「きゃあ、筋肉よ、筋肉! うわぁ、すごい! 筋肉だぁ」


 美少女がいきなり飛びついてきたかと思うと、筋肉、筋肉といいながら身体を遠慮なくぺたぺたと触ってきて、ベルジィは戸惑った。

 しかも牢内にいるミツルから恐ろしいほどの殺気を感じて、ベルジィはおろおろしていた。

 このままでは殺されてしまう!

 ベルジィは身の危険を感じて、ナユの身体をそっと引き剥がした。

 ナユはそこでようやく正気に戻ったようで、ベルジィとアグリスを交互に見た。


「あの……どちらさまですか?」


 それはベルジィとアグリス二人にも同じことが言えた。


 

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