04【完結】
ナユを家に送り、シエルとともに本部に戻った。
ナユの家から本部までの道すがら、シエルはミツルの腕にしがみついていた。
ミツルはほどくのが面倒くさくなり、シエルにされるがままだ。
本部の玄関に入り、階段を上がってまずは事務室を覗く。
さすがにだれもいない。
その足でユアンの部屋に行くと、分かっていると言わんばかりに鍵を渡された。
「ぉ、ぉぅ?」
「シエルさんの部屋でしょう?」
「さ、さすがだな」
「ミチの隣の部屋です」
「分かった」
何から何まで手配済みのようだ。
「ということで、だ」
「はい」
「ここがシエルの部屋になる」
「えー、ミツルと別なの?」
「おまえな」
「一人なの?」
「……そこでその淋しがり屋を発揮すんなよ」
部屋の前で話をしていると、ミチが顔を出してきた。
「あら、お帰りなさい」
「おう」
「シエルさん、部屋の使い方など案内が必要ですか?」
「あ、それ、してくれるか? 助かる」
「分かったわ」
さりげなくシエルをミチに押し付けた。
「そいつ、淋しがり屋だから、今日は一緒に寝て、とか言い出すかもしれないが、一人で寝かせていいからな」
「まぁ、そうなの? 今日だけなら一緒に寝てもいいわよ」
「ほ、本当っ?」
シエルはミチに抱きついていた。
この女神さまには人との距離を教えないと駄目か? と思っていると、シエルはミチの胸の感触に気がついたようだ。
「この、柔らかな感触は……!」
「あら、触りたい?」
「ぶっ」
「ミツルもいつでもいいわよ」
「……いや、遠慮しておく」
一時期は確かに恋人だったが、今はもう解消している。
確かに至福の触り心地ではあるが。
……いや、もうそれは忘れよう。
ナユもシエルも……これ以上は言うまい。
そんなことをミツルは一瞬考えたが、真面目な顔でミチを見た。
それからふと先ほどまでいたボディムにいた人たちのことを思い出し……。
そこに差異があることに気がついた。
「あー」
「どうしたの、ミツル?」
「……いや、なんかずっとおまえら見てて違和感があるなと思っていたんだが」
「えぇ」
「なるほど、ユアンが言っていた意味が分かった」
「?」
「インターの周りに黄色い光が見えるって、前、ユアンが話してただろう?」
「言ってたわね」
「それが……見えるみたいなんだ」
「ふーん」
ミチはシエルに胸を揉まれながら聞いていたが、シエルも満足したのか、手を離した。
「それじゃあ、シエルさん。案内するわ」
「はぁい。……いやぁ、至福の時だったわ」
「楽しんでいただけたようで、よかったわ」
前から思っていたが、ミチが分からない。
ナユに顔を埋められても特に嫌がっていなかったし、良く分からない。
「それじゃ、ミツル、おやすみなさい」
「じゃあねっ!」
そう言って、二人は部屋の中へ消えていった。
シエルはミチにも懐いた、と。
ミチは面倒見がよいから、安心して任せられる。
心配なのは、シエルに変なことを教えないかだが、もうなるようにしかならないから、手を抜けるところは手を抜く!
そう考えて、ミツルは自分の部屋に戻った。
*
それからのミツルは、忙しかった、の一言に尽きる。
そういえばまだ王に報告をしていなかったことを思い出した時に呼び出され、話せる範囲で報告をして、それから埋葬士としての仕事の許可もついでにとりつけた。
そうなれば後は人手を確保して──インターを優先的に雇ったが、そうでない人も雇い入れた──、必要なことやものを確保したり交渉したり。
幸いなことにそういうことに明るいアランがいたのでかなり助けられた部分もあった。
今まで虐げられてきたインターだが、理が変わったおかげでだいぶ受け入れられるようにはなった。
しかし、一度壊れた関係を修復するのは難しく、親子関係や家族が元に戻る例は少なかったため、そういう人たちのために本部は役立った。
ミチも悲しいことに修復は難しく、本部で働いてくれた。
ユアンはすでに両親を亡くしているし、他の者たちも似たり寄ったりで残っている。
最初からいた人たちの入れ替わりはなかったが、後から来た人たちは入れ替わり立ち替わりだった。
今はまだ無理だが、ミツルはそのうち、インターだった人たちも結婚できるようにしたいと思っていた。
それはもちろん、一番は自分のため、ではあったが。
ユアンとミチが正式? に引っ付いて子どもが出来たり、ミツルは忙しいながらにナユに想いを告げて受け入れてもらったり。
シエルはというと、昼間はふらりと本部から姿がなくなるが、夜には帰ってくるという生活をしているようだった。
埋葬士の仕事も軌道に乗ってきて、やはり金の匂いを嗅ぎつけた人たちが後追いしてきたりとあったが、それなりに順調だった。
それから何年か経ち、今ではすっかり地面を掘ってそこに死体を埋めるということが定着してきた頃。
ようやく、コルチカム・ガウラに極刑が処された。
まさかこんなに長引くとは思っていなかったが、なかなか真相を話そうとしなかったために予想以上に長引いたらしい。
なんで急に真相を話したのかは不明だったが、そこに少なくともシエルが関わっていたらしい。
昼間、ふらっといなくなることがなくなったから、シエルの用事は終わったようだ。
「なぁ、シエル」
「んー?」
「おまえ、あのガウラになにかしたのか?」
「ちょっと、ね」
と誤魔化されたが、関わったことは否定されなかった。
なにをしたのか知りたいが、怖くて知りたくないのもあるので、シエルが話すまで触れないことにした。
そして、真相なのだが。
──ここでまた、鈍色の男こと、デュランタの名前を聞くとは思っていなかったのだが、ガウラ曰く、デュランタから聞いたとのこと。
あのデュランタが教えたというのも驚きだが、殺されていないのもまた驚きだ。
デュランタの碧い瞳にはガウラがどう写っていたのだろうか。
それから、そのデュランタなのだが、なんとカダバーにまで接触していたという。
カダバーには火の魔法陣を教えていたらしく、それで見たことのない魔法陣だったのかと納得したが、どうしてまた、カダバーに教えたのかは、もちろん、分からなかった。
だが、一歩間違ったらナユを失うことになることを知っていたら、果たして教えていたかどうか。
そこはもう、分からない。
結局のところ、シエルとソルとの出会いから始まる、ウィータ国中を巻き込んだ騒動なのだが、これでいったん、終了となる。
ミツルは、ナユと、はた迷惑な女神であるシエルの二人の間に何人かの子をもうけた。
その子どもたちは大きくなるとウィータ国中に散っていき、途切れると思われた女神の血脈は続くことになった。
それから──。
インターの本部は形を変え、埋葬業を営む商会として生まれ変わった。
ミツルはある程度の基盤を整えると、早々に引退して、ナユとシエルの三人でウィータ国を巡り歩いた。
ミツルは罪を許されず死ぬことはなく、そしてそれにシエルがナユを巻き込んで、三人でいつまでも末永く暮らしたという。
【終わり】




