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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 王都へ

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03

 ナユの一言に、ミツルは焦った。

 絶対これ、誤解されている!


「ぁ、いや、ナユ、なんか勘違いしてるみたいだが」

「なに?」

「俺が好きなのは、ナユだけだからな?」

「そっ、そう? まぁ、あたりまえよね! こんな美少女ですものっ!」


 ナユもだいぶ、ミツルへのあしらいが分かってきたらしい。

 しかし、残念ながらミツルにはそれは効かない。


「ほんと、マジ美少女。こっちが本物の女神さまじゃないかと思うほどだ」

「あらやだ、ミツル。女神がいいなら、ほら、ここに本物が」

「いや、おまえのような駄目女神……略して駄女神は要らん」

「あー、そういうことかぁ」

「いや、だから!」

「もう! とにかく! 帰るわよっ!」


 ナユの一言にそうだったと思い出し、三人は祈りの間を抜けて、神殿を出た。

 やはりあちこちに死体が転がったままだったけど、この浮島自体が墓場だと思えば、むき出しなのはいただけないがここはそういう場所と割り切れば、案外、悪くない……かもしれない。

 ミツルは駄目元でインターの力を使ってみたが、力自体は発動するがまるで手応えがなく、冥府への道は閉ざされた……というか、なかったものになったのだなと悟った。


 来た道を戻り、そして浮島の端まで来て、そこでアレ? となった。

 来たときは確か、なにか透明な壁があったはずだが、今はなくなっていた。

 気がつかなかったら危うくそのまま地上に落下するところだった。

 この場合、落ちても死なないのだろうか、と疑問に思ったが、試す勇気はない。


「端を歩くのは危ないから、もう少し中に戻るか」


 ということで、少しだけ引き返して、金色の箱があるはずの場所まで戻った。

 ちなみに白い霧のようなものは少しだけ後退していて、浮島のぎりぎりのところにあったため、寒い思いをして進むということはなかった。

 しばらく歩いていると、ミツルの記憶のままに金色の箱は残っていて、ホッとした。


「金色の、箱。確かに」

「これもね、隠し機能なの」

「おまえはどんだけ隠したいんだ」

「えっへっへー」


 ミツルは軽く、シエルの頭にゴツンと拳を当てた。もちろん、痛くない程度にだ。


「いたっ!」

「軽く当てただけだろう!」

「あぁ、これが噂の、愛のあるお仕置きってヤツね!」

「まったく違う」


 これからもずっとこの女神さまの面倒をみないといけないのかと思うとゲンナリしたミツルだが、そのうちこれにも悲しいことに慣れてしまうのだろう。


「とにかく! さぁ、中に入って!」


 シエルに急かされて箱の中に入る。やはり中も金色で落ち着かない。


「ところで、なんで金色なんだ?」

「そこは任せたから、分かりません!」


 シエルの指示ではないらしく、分からなかった。


「じゃあ、ナユ、これに触れて!」


 金色の台の上にある透明な丸い球を指さし、シエルはナユに指示を出した。

 ナユは警戒しつつも素直に触った。

 行きの時はインターの力を使ったが、起動させるためのなにかは必要ではないのだろうか。


「それ、ナユでも動くのか?」

「あ、これね! 穹の民の血に反応して動くんだけど。……そういえばミツル、あなたこれ、どうやって動かしたの?」

「穹の民の血……? えっ? 俺にも流れてるのか?」

「ううん、まったく、一滴も! だから変だなーって」

「インターの力を使ったんだが」

「あー、なるほどね。女神の力に反応したのね!」


 そういうことか、と合点がいったが、となると本当にここに来られる人は少数ということなのか、と改めて分かった。

 ナユが触れてしばらくして、球は金色に光った。そして、ゴゴゴと音がして、ガタンと動き出した。


「わっ!」


 ナユは驚いて球から手を離した拍子にバランスを崩して倒れそうになったのをミツルがとっさに支えた。


「あーっ、あ、ありが、とう……」


 ミツルも隙があればナユに触れようと必死なので、いい機会だったようだ。

 どさくさに紛れて抱きしめようとしたが、シエルに阻止された。


「ミツル、ナユに抱きつこうとしない!」

「ぅっ!」


 見破られてしまったので、ミツルはあきらめてナユから離れた。


「そっ、それにしても」

「うん」

「これ、動いてる、の?」

「そうよ、下に向かってるの」


 乗っている物が上下に動くなんて動きはないため、不思議な体験だ。


「地上に落ちた穹の民の救済のための装置なの」

「それで隠し機能と?」

「そう」

「でも……浮島から落ちたら、普通は助からないよな?」

「そうなんだけど。これもまぁ、この日のことを昔のあたしはなぜか知っていて、作っておいたのよ、きっとね!」


 そのおかげでミツルは浮島に行けたのだから確かに助かったが、どうにもシエルの言うことに納得がいかない。だけどここで問い詰めるのも無粋なのかもと思い、ミツルは止めた。


「浮島、かぁ」


 ナユの呟きにミツルが視線を向けると、ナユは少し照れたように笑った。


「昔、おとぎ話かなにかでチラッと聞いたことがあったの」

「俺はシエルから聞いたな」

「そういえば、話したかも!」


 シエルはミツルに興味をもってもらいたくて、とにかく色んな話をしたような気がする。


「まさか本当にあったうえに、わたしがここの最後の民だなんて思わないじゃない? やっぱりわたしは特別なのねっ!」


 いつものナユの言葉に、ミツルは笑った。


「そうだな、ナユは特別だよ」

「そうよね!」

「ということで、ナユ」

「うん、なぁに?」

「そういえば、返事を聞いてなかったな」

「ぇっ、な、なんの?」


 ナユは分かっていながら分からない振りをしたが、ミツルにはバレバレだったようだ。


「俺の子を産んでくれないか?」

「っ!」


 シエルにはその必要性のなさを説いたのに、ナユにはまだその手で迫るんだ。もうそれ、無効なのではないかとシエルは思ったが、あえてツッコミは入れなかった。

 ミツルの必死さが楽しかったのもあるが、困っているナユを見るのもそれはそれで楽しい。


「やー、あのぉ」

「それとも、だれか好きな人でもいるのか?」


 少しだけ切なそうな瞳を向けられて、ナユはうっと言葉に詰まった。

 好きな人。

 そんな人はいない……と思った後、なぜか目の前にいるミツルのことが頭によぎった。

 いや、好きな人ではない、目の前にいたからだ!

 ナユは自分にそう言い聞かせて、それから口を開いた。


「ナユさまは特別だから、だれかの特別にはならないわ」

「かなりはぐらかされたが、要するに特に好きな人はいない、と?」

「まっ、まぁ、そ、そういうことねっ!」


 それはそれでミツルは悲しいと思ったが、そんなことでめげるほど軟弱ではなかった。


「それなら別に、俺の子を産んでも問題ないな?」

「……いや、だからっ!」

「そういえば、ナユの自称・父親とか言ったヤツにはすでにその辺りのことは言ってあるから!」

「はっ?」

「ナユが俺の子を産むのは予約済みだって」

「なっ、なんてことをっ!」


 その前に言われたとんでもないことはさすがにナユには伝えない方がいいだろうと思って口にしなかった。ちょうどあのときはシエルも魔法で固められていたから、聞いていないはずだ。

 それに聞いていたとしても、さすがのシエルも言わないだろう。


「ということで、ナユ」

「ぃ、ぃゃ、あのっ」


 ナユもナユでいつものようにきっぱりはっきり言えばいいのになぜかそうしないからミツルも増長するというのになぜ気がつかないのか。


「お楽しみのところ申し訳ございませんが、着きましたわよ?」


 シエルのわざとらしい言葉にナユはホッとし、ミツルはムッとしかめっ面をした。

 ガタンと音がして、少しだけ揺れて止まった。今度はナユは揺れることなく大丈夫だった。

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