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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
四部*一章 冥府編

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112/129

01

 ミツル曰く、壁には骨が埋まっているという。


「しかもこれ、ずっと奥まで続いてるぞ」

「ひぃっ」


 ナユとシエルは抱き合って震えているが、ミツルは特に怖いとも思わない。

 むしろ動く死体の方が怖い。


「ゃ、それよりも、なんでミツル、周りが見えてるの?」

「……え?」

「もしかして。ミツル、ちょっと顔を見せて」


 シエルに言われ、シエルの顔に近づける。

 こうしてみると、シエルも美人のうちに入るんだなとミツルは今、どうでもよいことを考えていると、シエルの視線が瞳に固定された。


「暗くてよく見えないけど、ミツルの瞳の色って何色だった?」

「灰色だが?」


 灰色の瞳は珍しいとよく言われる。髪の毛も灰色なので、若干、年上に見られることが多い。


「そのね……瞳の色がその、どう見ても、紫、なのよ」


 シエルの言葉に、今度はナユがミツルの顔を覗き込んできた。

 ナユの碧い瞳がよく見える。


「うーん……。紫に見えるような、見えないような。というか、なんか瞳が光って見える!」

「まぁ、なんでもいい。今はこの暗いらしい中が見えるのだから、問題ない」

「前向きね……」


 シエルの呆れたような声に、ミツルは返す。


「ここでぐだぐだしてても問題解決にはならないだろう」

「そうだけど」

「で、結局、ここは明かりはあるのか、ないのか?」

「分からないわよ……」


 となると、少しでも見えているミツルが明かりを探すことになったのだが。

 入ってすぐのここはそれほど広くはないが、広場のようになっている。少し行くと、坂道があるようだった。ただそこは、洞窟のように周りが壁に囲まれていて、やはり壁には無数の骨が刺さっているように見えた。

 もしもこの骨がすべて光れば、かなり眩しいかもしれない。

 ミツルはそんなことを思い──側にあった骨に触れ、インターの力を少しだけ込めてみた。

 途端。


「わっ!」

「眩しいっ!」


 壁に刺さった骨が金色に輝き始めた。しかもそれは連動して、壁に刺さっている骨すべてが金色に光り始めたのだ。

 ミツルもあまりの眩しさにとっさに目を閉じて、さらにはそれでも眩しくて手のひらで目を覆った。

 しばらくして、ミツルはゆっくりと手のひらを外し、目を開けた。

 薄暗い中で見たときよりもくっきりはっきり見えるからか、気持ちいい景色とは言えないが、思ったよりは気持ち悪くはない。


「シエル、一つ聞いて良いか」

「答えられることなら」

「おまえは冥府に来たことがあるか?」

「ないわよ。ただ、あたしの本体はここにあるわ」


 そういえば、ソルに浮島から落とされたとき、身体と魂がバラバラになったと言っていたことをミツルは思い出した。


「じゃあ」

「道案内は無理よ。あ、でも! あたしの身体があるところになら案内出来るかも!」

「それでいい。きっとそこにソルがいるだろうから」


 そう、冥府にわざわざ来たのはソルと対決するため。それはきっと、向こうも分かっているだろう。

 妨害は必ず入ると思っておいた方がいいだろう。

 とはいえ、こちらはミツルしか戦力にならない。

 ナユは……円匙(スコップ)さえ使えなさそうだし、シエルはスケスケのときはなにやら魔法は使えたようだが、今は穢れたとかで使えないだろう。

 ミツルは円匙を握りしめ、シエルとナユを見た。


「おまえらに戦力は求めてない」

「ま、当たり前よね」

「酷いわ、戦えるわよ!」

「ナユはともかく、ケガをしないように立ち回れ」

「りょーかい」

「シエルは……いいか、とにかくなにもするな! おまえもナユと一緒で、ケガをするな!」

「えーっ」


 これなら、ここには一人で乗り込んだ方が良かったのではと思ったが、浮島に二人を残しておくのも心配ではある。

 デュランタを倒したとはいえ、ふとした瞬間に復活してきそうで怖い。そう思わせるなにかがあの男にはある。生き返ってこなかったとしても、なにか罠を仕掛けてそうで、それも怖い。

 結局、ミツルの選んだのは、三人で行く、だったのだ。

 それがどれだけ大変でも、だ。

 

「さて、行くか」


 そう言って前に進もうとした途端、進行方向からガチャガチャという音がしてきた。嫌な予感しかしない。

 ナユとシエルを守るように前に出たが、シエルがミツルの腕を取った。


「ミツル」

「なんだ」

「あたしも」

「却下」

「なんでよっ!」

「身体が重たいとか言って動くのも大変な奴が戦えるのか?」

「うっ」

「それに、戦う武器もないだろう──がっ!」


 出てきたのは、予想どおりのがい骨だった。

 ミツルは手にした円匙をがい骨に叩きつけ、崩していく。

 しかし、がい骨というのはお約束のように復活してくるわけで──。


「こんなお約束、いらないっつーの!」


 ミツルはがい骨をまとめてなぎ倒していくのだが、復活してくる。


「ミツル、腰骨を抜くのよ!」


 シエルの助言に円匙で抉るようにがい骨の腰骨を狙って抜いていく。

 いったい、何体いたのか分からないが、ようやくがい骨は復活しなくなり、骨の山ができた。


「この調子で俺の体力、続くのか……?」

「ミツルなら大丈夫よっ!」


 根拠のない大丈夫にミツルは顔を引きつらせながら、しかし、先に進むという選択肢しかないため、通路に入っていくことにした。

 左右は骨の突き出した壁に囲まれた回廊のような場所で、緩やかに回りながら下っていく。

 途中、当たり前のように罠があったりするのだが、冥府の色を得たからなのか、ミツルの目にはそれは丸見えだった。


「これを作らせたのがソルならば、相当、歪んだ性格をしてるな」


 何個目か分からない落とし穴を飛び越えながら、ミツルは口を開く。


「ナユはともかく、シエル、気をつけろよ」

「悪かったわね、さっきははまりそうになって」


 落とし穴といっても、中に落ちると死ぬとかいう類いのものではなく、本当にただの落とし穴だ。どういう意図があって掘られたのか、分からない。ただの嫌がらせにしか思えない。

 そうかと思えば、また大量のがい骨が襲ってきたりと、本当に意図がわからない。


「──ちょっと待てよ」


 ミツルは何個目かの落とし穴を見て、ふとよぎるものがあった。

 それは、コロナリア村での出来事。

 カダバーが笑っている姿をなぜか思い出した。


「もしかして……!」


 ミツルは視線をあげて、通ってきた道の地面を見る。落とし穴は等間隔に空いている。


「くそっ、これも罠かよっ!」

「えっ、罠?」

「地面に模様を描いて魔法陣替わりにしてるんだよ!」

「でも、呪文を唱えないと発動しないはず──」


 そのとおりであるのだが、絶対になにかしらそうではない仕掛けが施されているはずだ。


「がい骨っ!」


 ナユの声にミツルは舌打ちをしつつ、腰骨目掛けて円匙を振るう。

 最後の一体が壊れたところで、偶然なのか仕掛けの一部だったのか、そのがい骨の指が壁に刺さったがい骨の指と絡んだ。


「っ!」


 壁の指がゆっくりと、まるでスイッチが入るかのように動いた。


「くそったれ!」


 ミツルはとっさに壁に円匙を突き立ててそれを破壊したが、すでに遅かった。

 上からゴゴゴという音が聞こえてきて、それは明らかにこちらに迫ってきている。

 それがなにかは分からないが、ミツルたちにとっていいものではなさそうだ。


「とにかく、降りられるとこまで降りるぞ!」


 上に戻るのはどちらにしても選択肢としてはなし。

 それならば、下に向かうしかない。

 ナユを先頭にして、シエル、ミツルと続く。

 地面はデコボコはしているがそこまで歩きにくいことはない。だが、緩やかな坂道で、しかも回転しているのだ。微妙に見通しが悪く、急ぐといってもそこまで速度は出ない。


「ミツル、分かれ道!」


 ここに来て、道が分かれているとか、正気じゃない!


「好きな方に飛び込めっ!」


 ミツルもすでにヤケである。

 ナユはとっさに右側に飛び込んだ。シエルも右側に続く。

 ミツルは分かれ道の分岐点に立ち、上から来るものを見極めるため、円匙を構えた。

 ゴゴゴといいながらやってきたのは、大きな丸い岩だった。


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