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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
 *六章 シエルの罪と罰

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07

 三人は神殿らしきところを出て、ミツルの案内の元、墓地へと向かう。

 ウィータ国の墓地は薄暗くじめっとしたところにあることが多いが、だからこそ陰気くさい雰囲気はある。

 浮島の墓地はそういった感じはないのに、近づくにつれ、なんとなく鳥肌が立つような異様な空気を醸していた。

 それが冥府へと続く道だからと言われれば納得ではある。

 たどり着いたのは、ウィータ国でもよく見かける墓地となんら変わりない。それでも薄気味悪くて、ナユは無意識のうちにミツルの服の裾を握っていた。


「あ、ズルい!」


 それを目ざとく見つけたシエルはそうツッコミを入れたが、そもそもナユは死を連想するものを苦手とするのだ。顔を青くして、ぶるぶる震えて反論もしない。


「別にいいだろう」


 ナユには甘いミツルは、むしろナユの手を取り、手を繋いだ。


「扱いに差がありすぎるっ!」

「なにを今さら」

「ミツルの子を産むのは、あたしなんだからねっ!」


 そう宣言されても、ハイハイとしかミツルは返さない。

 シエルとしてもその一言でミツルが甘くなってくれるとも思ってないし、なられたらそれはそれで戸惑っただろうから、通常運転ではある。

 とはいえ──。


「あ、あたしだって覚悟を決めて言ってるのに!」

「おまえの場合はやさしくしてほしいだけだろう? ソルが駄目なら、身近にいた俺ってだけだ」

「ちっ、違うもんっ!」

「同じだよ」


 ミツルは薄気味悪さを感じながら墓地の中に進み、止まった。


「それで、シエル。墓地まで来たが、ここからどうやって冥府に行くんだ」

「あ──。え、えとね。大きな樹があるはずなんだけど……」

「樹?」


 墓地に来たが、中は探索しなかったし、怖くなってすぐに逃げ出した。

 今だって怖くて逃げたい気持ちは変わらない。

 それが死への恐怖なのかと思えば歯を食いしばって耐えられなくはないけれど、できればこんなところからとっとと退散したい。

 ミツルはざっと墓地を見回したが、樹らしきものはない。


「あるように見えないが」

「うーん、そうね。おかしいわね。大きな樹があって、そこからソルがきたから墓地にしたんだけど」

「おい、シエル。その話は何万年前だ」

「やだ、そんな昔じゃないわよ! 経ってても数千年よ」

「どっちにしたって大昔の話じゃねーか!」


 時間の長さ(スケール)が違いすぎて話にならない。

 とはいえ、その樹を見つけなければ冥府へは行けないわけで。


「ねーねー、ミツル」

「なんだ?」

「わたしの勘違いじゃなければ」

「うん」

「この地面、土じゃなくて樹じゃない?」

「ん?」


 言われて、ミツルは地面を蹴ってみた。あの慣れない土の感触ではなくて、慣れた木の板の感触に似ていた。


「もしかして」

「長い年月で樹が枯れて、切られたけど根っこが残ってるんじゃないの?」

「あー、それはありえるな。シエル」


 ミツルは少し離れていたシエルの名を呼び、手招きした。


「なに?」

「探してるという樹は、これじゃないか?」


 コツコツと靴で地面を蹴れば、シエルは目を見開いた。


「確かに樹だわ!」

「ずいぶんと大きな樹のようだが」

「それは冥府に繋がってるんだもの、大きいわよ」


 そういうものか? とミツルは思ったが、口には出さなかった。


「それで、どうすれば?」

「ほんと、ミツルがいてくれて、助かったわ」

「俺?」

「冥府への鍵はね、インターの力なのよ」


 シエルはあちこち見て回り、ようやく入口を見つけたようだ。ミツルとナユを手招きした。


「ここから入れる」

「いや、入れるって言っても、扉もなんもないんだが?」


 どこをどう見ても、樹がへこんでいるようにしか見えない。ミツルの言葉に、シエルはケラケラと笑った。


「そんな、いかにも扉ですって態をしてたら、誰も彼もが冥府に行けちゃうじゃないの」

「いや、まあ、そうなんだが」


 シエルの言うとおりではあるが、ミツルもナユもなんとなく納得していない。


「あとねー、これだけは先に言っておくわ。入口を開けた者は冥府の色に染まるわ」

「そうか」

「えっ、そんなあっさりっ?」

「シエルとナユに影響がなくて、俺一人がそうなるのなら、特に問題はない」

「えっ、だって、冥府の色だよ? 紫色になっちゃうんだよ? いいの?」

「今さらなにか増えたところで、問題ない。というかだ、そこを解決(クリア)しないと、どのみち、冥府には行けないんだろう?」

「そうだけど」

「だったら、そうするしかあるまい」


 ミツルの淡々とした態度に、シエルは頬を膨らませた。


「もうちょっと焦ったり困惑したり動揺したりして欲しいわよね」

「よほどのことでもない限りはないな」


 ミツルは不機嫌な表情でシエルを見て、


「で、どうやればいいんだ?」

「あー、えっと、そこにほら、把手みたいなのがない?」

「把手?」


 シエルの指を指す方向を見れば、樹がへこんでいるところに把手というよりは嗄れた紫色の皮膚をした手が刺さっているように見えた。


「これ、手じゃないか?」

「把手というより確かに手ね」


 不気味ではあるが、ミツルはその紫色の手に手を伸ばした。

 それはミツルの手を認識すると伸びて、絡みついてきた。


「っ!」

「ミツル、それにインターの力を注いじゃって!」


 シエルに言われるがまま、金色の光を出して、半ば叩きつけるように注ぎ込む。するとそれは枯れ葉のようにパラパラと砕け散り、風に吹かれて消えた。


「把手のあった隙間に手を入れて、開いて!」


 隙間は狭く、ミツルの片指しか入らない。それでも無理やり押し込み、広げると重たかったが少しずつ開いた。両手が入るようになってからは楽だった。

 限界まで開き、シエルを先頭にして、ナユ、ミツルの順番で中に入った。

 三人が入ると同時に扉は閉まった。


「さて、と」


 中は樹をくりぬいたといった感じではなく、地面を掘った洞窟のような場所だった。外から見たときは暗く見えたが、中に入ると思ったよりも明るい。


「ミツル」

「なんだ?」

「なんか違和感とかない?」

「? 特になにもないが」


 手のひらを見ても、頭に触れてみても身体を見下ろしても特におかしなところはない。

 シエルとナユの顔も()()()()見える。


「…………?」


 特に違和感はない。

 ないはずだ。

 だが、なにかがおかしい。


「真っ暗でなにも見えないんだけど、シエルとミツル、いる?」


 ナユの声にミツルは首を傾げる。

 暗くて見えない? 薄暗くはあるけれど、見えなくはない。半歩先にナユの金色の頭が見えるし、その先にはシエルの茶色い髪の毛も見える。


「暗いか?」

「真っ暗じゃない! って、きゃっ! て、シエルか。えっ、ちょ、どこ触ってんのよっ!」


 少し先でシエルとナユがじゃれているのはミツルの目にはハッキリと見える。シエルがたまたまなのか、わざとなのか分からないが、ナユの胸に触っているのもしっかりと見えた。


「あ、ごめん、ナユ。ちょっと目測を誤って。……それにしても、暗くて見えないのは困ったわね」


 二人の会話にミツルは違和感を覚えた。

 ミツルの目にはハッキリと周りが見えるし、二人も見える。


「……ちょっと待て」

「なに、ミツル?」

「ここは暗いのか?」

「そうよ、暗くてなんにも見えないんだけど。ミツルはどこに?」

「俺ならここにいる」


 ナユとシエルがいる場所に行き、二人の頭をぽふんと撫でた。


「っ! ちょっ! 後ろからとか!」

「仕方がないだろう、最後に入ったんだから一番後ろにいて当たり前だろうが」


 暗くて見えていないのなら、前からでも後ろからでも驚かれるのには変わりない。

 いや、そうじゃない。


「暗いと言うが、薄暗いくらいだろ?」

「違うわよ、真っ暗よ。なんにも見えない」


 灯りを持ってくれば良かったのかと思ったが、すでに遅い。


「俺は見えるんだが」

「えっ?」

「それにしてもここ、趣味が悪いな。壁から骨が生えている」


 ミツルの一言に、ナユとシエルの二人は固まった。

 

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