Episode09 「ネットダイヴ、やっぱハンパねぇ!」
ウェブダイヴしたカートの最初の仕事は、いつだってセキュリティーシステムからとなる。
そしてなぜか大半の場合は、ドラゴンの姿をしたプログラムが現れる。ここは草原ステージ。
「今回の敵は今までにない大物だな」
竜型のレベルは大きさと色で判別ができる。
「黒いのもデカイのも初めてだな」
ガテンのように文明レベルの低い星の、一般回線のセキュリティーなら緑。
同じくガテンの国家レベルの物なら青色をしているし、大型の獣と大差はない。
評議会加盟文明の一般回線では黄色、企業サイトで橙色、大企業や政府のラインで赤、評議会の運用システムが深紅。大きさもモビールサイズとなる。
「黒なんて初めてだ。色が濃くなるほどに強くなるんだよな。だったら最初から全力でぶつかろう。様子を見ている暇もないからな」
大きな体をしながら、黒竜の動きはするどい。全力で突っ込むカートに反応している。
「流石に簡単にはいかないか」
スピードで負けやしないが、一番相手をしてきた赤竜とは、比較にならないほど素早い。
「くそ、堅いな!」
鎧のように堅い鱗に刀が通らない。
カートは火の氣力を練った炎の槍を生み出し、関節部分に捻じ込んだ。
黒竜が吠える!
「ダメージはあるようだけど、致命傷にはほど遠いな」
身を隠す場所もなく、カートは動き続ける。
次に狙うは竜の眉間。他よりも鱗の密集度が低い、刀が奥まで突き刺せそうな部分。しかしその分だけ危険も大きい。
「狙いは悪くないはずだ。けどどうやって技を届かせるか?」
ネット内は現実世界と時間の進み方が違う。
ボーラがモニターしてくれているはずだが、カートの動きに追い付けているわけはない。
だがしかしまさかのタイミングで、外部から黒竜のデータが転送されてきた。
『遅れて悪い。ダイヴナビの調整に手間取った。俺もお前の能力を借りて、マークホープからだが、フォローをしてやる』
思いがけない援軍に、カートの動きが変わる。
黒竜の口から放たれる火球を避け、後ろに回り込むと、勢いよく背中に飛び乗り、頭めがけて駆け登っていく。
『貫く場所は赤く光らせてある』
「了解だ」
脚が太く、胴の丸い、手は短い架空の獣。羽は大きく長い首を持つ黒竜。
「こいつだな。ボーラ、グッジョブだ!」
マーカーはこのプログラムの数少ない急所、竜の首の根元にあった。
1人で戦っていたら、いつ見つけられたか、分かったもんじゃない。
「いけ!」
深く突き刺した刀は竜の急所をつき、跡形もなくプログラムは霧散した。
「ダミープログラムも正常に稼働、メインシステムを掌握する」
『入り口が開いた。フーレが侵入、扉を閉めてくれ』
「了解、ボーラが色々やってくれるから、今回は楽でいいよ」
正直、最初は研修なんて面倒だと考えていたカートだが、この兄弟とならコスモ・テイカーとして生きていくのもアリかと、頭によぎったあり得ない妄想に苦笑した。
『なんだ、なにか良い事でもあったか?』
褒められて上機嫌のボーラは、調子に乗ってカートを仏頂面に戻してしまう。
「監視カメラの映像……」
『ああ、いつもは静止画にしてるんだったな。今回は俺の方で入れ替えておいた。このクオリティーならバレるリスクも下がってるはずだ』
細かい操作ができるわけではない、カートのイズライト。
欠陥だらけの能力だが、効果はかなり高い。
今のままでも十分と思われていた、里でも誰も考えなかった事を、ボーラはやってくれた。
『おっ、フーレが武器庫に到着したな。頼むっ!? だぁーーー!!』
「どうし!?」
何もしていないのに頭に激痛が走る。思いげけない衝撃にカートは膝をついた。
「ボーラ!」
『す、すまん、カート……』
「何かあったのか?」
頭痛の原因はネット内ではない。カートは直感的に、ボーラかマークホープ号に何かがあったと悟った。
武器庫のロックを外してネットから出る。
「おい、ボーラ」
『カート、よかった無事だな』
心配するその声こそが不安になる。
『ネットを抜けてくれてよかった。ダイヴナビの影響で、お前にもダメージが行ったはずだ』
お前にも? と言う事はやはり。
「何かあったんだな」
『……しまったな。フーレなら絶対気付いてないだろうによ』
息が荒いとか、苦しそうだとかは感じない。
『おお、心配はいらねぇ。けどちょっとよくない展開だ。マークホープは大破した。ここの連中の仕業だとしたら、俺達の侵入はバレてるってこった。ところで本当にダメージはないんだな?」
「何かあるのか?」
『ダイヴナビで繋がった俺らは、どうやらどっちかに何かあると相手にも伝播するようなんだ』
「なるほどな、さっきの痛みはそう言う事か。なら問題ない。ダメージでもなんでもないからな」
『そうか。ならお前はフーレと合流してくれ、俺は別の船を探す』
流れはいつも通り、全てはスムーズに進んでいた。
もちろんマークホープだって、光学ステルスを使っていた。
それが見つかり破壊されたとなると、作戦は失敗したのだろうか。
ボーラやフーレの事は心配だが、カートはもう一度ダイヴした。
「セキュリティーはまだ普及されていない。外の様子はどこで見られるんだ?」
監視モニターのシステムに潜り込み、宇宙空間を確認する。
「警察機構軍がいない。失敗を察知して引き上げた? にしても早すぎる。くそ! 何も分からない。……フーレと合流するか」
ボーラはなぜか回線を切ってしまっている。それにフーレも武器庫には居らず、小部屋で動きを止めている。
「カメラが設置されてないのか? ……行くしかないか」
久し振りに諜報員本来の技術で、内部工作行為を実行する。
「フーレ、何があった?」
通信回線が開いたのは兄の方だった。
『カートか?』
「何かあったんだな。直ぐに行く」
『来るんじゃあねぇ。こいつは……』
通信は途切れた。もうどちらにも繋がらない。
二度目のダイヴでシステムを滅茶苦茶にしておいた。通信傍受や妨害はできないはずだ。
「スタンドアローンで作動する、ジャミング装置を使っているのか?」
しかしおかしな電波は探知していない。
フーレが来るなと言うなら、本当に行くべきではない。
カートを疎ましくしていた頃も、そういった裏切りをした事はない。
「ここの図面は手に入れた。……ここから行けば、誰にも見つからないか」
ボーラが船を用意したとして、どうやって合流するかの問題もあるが、先ずはチームリーダーの今の状況と、作戦の成否を確かめなくてはならない。
フーレは捕まり、椅子にロープで括り付けられている。
見張りの数は3人。手配書に見た事がある犯罪者だ。
「大物はいないが、これで全部ではないだろうな」
通風口から見下ろす室内に、変わった物はない。
クロークがあり、その中には武器が隠されているはずだが、このエアーダクトにはメンテナンス用の小さな端末がある。
システムは潰したが、この部屋のロック機能くらいなら、作動させられるはず。
全てにロックを掛ければ、外からの増援もなくなる。
念のために通風口の隔壁も閉じた。
「フーレ、お前も一緒に寝ちまいな」
重力は働いている。カートは飴玉くらいの黒い小さな玉を、5個ほど落とした。
「なんだ、今の音は?」
犯罪者が音に反応するが、もう遅い。
黒い玉は床にぶつかった衝撃で粉々になり、中の睡眠薬が拡がった。
「効き目は十分だな。フーレも寝たか」
2メートル下の床に転がる3人と、椅子に縛られる仲間の脳波は睡眠状態。
カートは睡眠薬が効力を失う、1分が経過したところで下に降りる。
「フーレ、起きろ」
布にしみ込んだ気付け薬を鼻と口に押しつけると、軽く呻った後に覚醒、カートの顔を見て大声を上げそうになる。
「静かに」
「……何で来たんだ。俺は来るな。と言っただろ」
「ああ、ボーラの方も船をやられて、別の物を探している。作戦は失敗だ」
「そうじゃあねぇ、今回の件はそもそも……」
カートは抜刀し振り返った。
ロックしたはずの扉が開いたからだ。
「ボーラ!」
「よ、よぉ……カートも、兄貴も、無事だ、ったか」
と言う弟はボロボロになって、今にも気を失いそうだ。
「このガキがそうなのか?」
「はい、間違いありませんよ。偽装空間内で好き勝手やってくれましたからね」
「偽装、空間だって?」
カートがネットダイヴをし、奪ったと思っていたシステムは、それそのものが罠だった。
つまりはこの依頼は最初から仕組まれた物だったのだ。




