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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode08 「俺より、よほど良い環境じゃあねえか!」



 チーム・マテラブラザーズ。パルレギラ兄弟が、評議会に登録している名前だ。


 それをこの度チーム・カートマテラと改名し、初の仕事は大成功、兄フーレもご機嫌だった。


「カートお前、よく俺達を待ってたな。ここんとこお前が俺様に合わせてくれていいかんじだ。楽に仕事がこなせるってモンだ」


 フーレは短気だが頭の切れる男だ。一回り以上も年の離れた少年の実力を素直に認め、前衛を任せることも多くなった。


 臆病者の弟ボーラは彼らの船、マークホープ号からの支援に専念させる事で、兄弟が2人で現場を走り回っていた時よりも、効率よく動けるようになった。


 なによりカートがフーレと足並みを揃えてくれる事で、より危なげなく任務を遂行できるようになった。


「アジトを襲うのは危険も大きいが、短期間でポイントが稼げて、報酬もデカい。そんな依頼を選べるのもカート、お前のイズライトと、バカみたいに強いお陰だな」


 カートの頭をポンポンしながらガハハと笑う。


「まったく兄貴の言うとおりだ。カートのお陰で俺たちももうすぐランクアップなんだぜ」


 上機嫌でお酒も進む兄の隣でも、普段より陽気に振る舞う弟は、いつもより上質の肉の塊にかぶり付いている。


「そこでだ、ちょっと大きな仕事があるんだけどよ」


 仕事の依頼を獲ってくるのは、弟ボーラの役目のはず。


「大丈夫なのか、ボーラ?」


 カートはただ、思った事を口にしただけなのだが、フーレの気に触ったようで。


「大、丈夫だ! こいつは警察機構軍がらみの仕事だ。俺達は潜入して中で騒動を起こすだけだ」


 弟に渡そうとしていたデータチップを引っ込めて、がなり立てる。


「カートの力でこっそり潜り込み、ファイターズギルドの武器庫の一つでもド派手にぶっ飛ばしてやればいい。ただそれだけの仕事よ。成功報酬ってことで前金なしだが、入ってくる金もポイントも破格なんだぜ」


「フーレよ。今の俺達なら、そんな危ない橋を渡らなくても、今年中にランクアップはできるぜ」


「来年だって? 俺達がカートを預かる期間は来年の中頃過ぎだ。そんな悠長な事言ってられるかよ」


 Aランクになれば、依頼一件の報酬も今の倍になる。


 名も売れて大きな依頼が増えれば、あっという間に目標額も稼げて、3人の目の前にあるオンボロ船、マークホープ号も新品同様にしてやれる。


 そうなればカートがいなくなったとしても、売れた名前を落とさずやっていける事だろう。


「確かに、こいつのレストアは急務だとは思うけどよ」


「なんだったら、新品に買い換えられるくらいに、稼いでやろうぜ」


 夢見るフーレを見てボーラは熟考する。


 兄の意見は尤もだ。カートは研修期間を終えれば、生まれ故郷に帰ると言っている。


 カートが抜けた後の穴を埋めるのは、並大抵ではない。


 他のテイカと組む手もあるが、フーレは人と群れるのが苦手で、若い頃に追い出されたチームの数も、片手では足りない。


 今後も2人でやっていくのには、強力な装備が必要だ。


「なっ! 今はやるべき時なんだよ」


 いつも短絡的なフーレがここまで考えているのなら。


「契約も既に結んできてるんだな」


 ボーラは兄の顔を凝視した。


「……はぁ、マジか」


「だ、だってよ。相談なんかしてたら、他の誰かに取られると思ってよ」


「しょうがねぇな」


 後付けかも知れないが、フーレの意見も理解できる。


「どうだ、カート?」


「俺は構わない。やれないとも思わない」


 軍の陽動があるのなら、騒ぎを起こすのも、さほど危険でもなくなるだろう。


 カートの能力で敵のシステムを無力化し、同時に武器庫も見つける。


 中へ潜り込み、誰にも見つからずに目的地に到着すれば、依頼も9割は達成したようなもんだ。


「俺の隠密能力があれば、そう簡単には見つからねぇ。問題なんかどこにもねぇよ」


 認識を阻害するイズライトを持っている兄、フーレマテス=パルレギラ。


「お前が自作の小物でフォローしてくれる。パーフェクトじゃあねぇか」


 イズライトはないが、アイテム製作に長けた弟、ボーラマテス=パルレギラ。


「分かったからそのチップをよこせよ兄貴」


 フーレの手から奪い取った依頼の詳細を、モニター画面に映し出す。


「なになに、……人身売買をしている犯罪組織が相手か」


「今ならパスパード開発に、人手はいくらでも必要となるからな。資金源にはもってこいってなもんだ」


 どんな都市型惑星にも、孤児が肩を寄せ合うスラムはあって、そこから人がいなくなろうと、気にする者はいない。


 人身売買は闇の世界から、消えることはない。


 子供の一人や二人がいなくなったからって、いちいち警察は動いたりしない。


 しかし今回のターゲットは、市場規模を大きくしすぎた。


 かつて、ノインクラッド統合軍が壊滅を果たした、犯罪シンジケートに匹敵する、巨大なファイターズギルドの名前にボーラは怖気づく。


「ただ横流しするだけでなく、個々に磨けるところまで磨いてから売るとか、徹底してやがる」


「警察機構軍にとっては、厄介な犯罪者を生み出す温床になっているわけだな」


「なにを吞気な!」


 ボーラはあまりにハイリスクハイリターンが過ぎるのに唖然となるが、兄も少年も相手を知っても、気合いが下がる様子もない。


「誰もミスをしなければ、何の問題もないさ」


 難しい事は何も求められていない。自分の分担をこなすだけ。


「分かったよ。俺も腹をくくるよ、兄貴」


 作戦遂行までの短い時間、ボーラはカートを連れて、下調べを可能な限り繰り返すのだった。






 警察機構軍の包囲は完了した。当然犯罪者も応戦体制を終え、両者は睨み合いを続けている。


 ここまではプラン通り。


 次はカートマテラが、監視の目が薄い箇所をついて潜入する番だ。


 ボーラがカートのイズライトが、どんなモノかを知ったのは、ほんの数週間前にすぎない。


 電脳世界に潜り込み、ゲーム感覚でセキュリティーを突破する。


 ただシステムを乗っ取ると言っても、電源の入切や、扉の開閉のような、単純な事ができるようになるだけだ。


 その程度の事がバカにできない事は、カートの働きを見れば誰だって理解できる。


 どんな凄腕でも、それなりの時間が必要なハッキングを、あっという間にやってのける能力。


 その方法は、防御システムをゲームキャラのようにイメージ化し、それを電脳空間の自分、アバターに倒させる。


 カートの戦闘センスなら、アバターが特別製でなくても、最強キャラの大ボスも瞬殺できた。


『作戦開始5分前だ。兄貴は敵の目を眩ませながら、一番大きな弾薬庫に時限爆弾を設置してくれ。カートは俺の作ったダイヴナビを使って、俺からの通信に従って、フーレをカバーしてやってくれ』


 ようはいつも通りだ。


「なぁ、カート」


「なんだボーラ、無駄話をしている時間はないぞ」


 カートにはボーラが作れる最強のアバターを渡した。


 ダイヴナビを通して、カートとアバターはリンクする。


「まだ3分ある。なに、聞きたいのは一つだ」


 コントローラーを操作するように戦っていた今までと違い、自分の体のように戦える。


 時間にも余裕ができるはずだ。


「お前は現場研修の制度で、2年の実地訓練を受けに来たんだよな」


「ああそうだ。何を今さら」


「けどお前は研修なんていらないくらいに優秀だった。俺達から学ぶ事なんてなにもなかっただろ」


 流石にもう余裕はない。だが船を出ようとするカートを引き留め、ボーラは続けた。


「俺はお前が不気味で怖かったよ。今は違う、悪く思うなよ」


「いや、それがまともな反応だろう。むしろ、なんの警戒もしないで受け入れてくれたフーレがどうかしている」


「そいつは兄貴の特技だよ、本当に人を見る目があるんだ」


「もう、行くぞ」


「研修が終わっても、俺達とやっていかねぇか?」


 ボーラは意を決して訪ねた。


「今すぐ答えてくれなくていい。続きは任務を果たした祝勝会でしよう」


 少なからずカートは動揺した。


「……後でな」


 少年は船を出て、アジト内の端末に取り付き、気持ちを切り替えてネットダイヴした。

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