Episode07 「今度はヤローの出番だな!」
中央銀河評議会に未加盟のその惑星は、現地では違う名で呼ばれているが、登録名をガテンと言う。
そこでは宇宙開発が始まってまだ、一世紀半しか経っていない、科学水準もまだ未発展に分類される、重力に逆らえずにいる低文明な星。
住民の大半が、噂話程度でしか異星人を感じる事がなかった。秘密裏に銀河評議会と接触する、ごく一部の機関の高官や科学者以外はだ。
人が住まう中で最も大きな大陸の、そのまた東にある列島国家には、古来より権力者を陰から支えてきた、秘密の諜報機関が存在する。
特殊な体術や技を用いる“クサ”と呼ばれるフウマ一族は、人類が自力で宇宙に出るより以前から、仕事を請け負い評議会との接点を持っていた。
中にはコスモ・テイカーとなり、里を抜けて宇宙に出る者もいた。
「カーティス、参りました」
カーティス=リンカナムは4歳の頃から、諜報員になるための過酷な訓練を続け、10歳で里の外での実地訓練を受けるようになり、半年もしないうちに単独活動をするようになった。
「入れ!」
呼び出された所属部隊の詰め所では、部隊長が1人で電算機を操作していた。
「指令書? ……宇宙ですか?」
「そうだ。星を出たお前は能力を使って、拠点の電子機器を抑える特殊工作員として、里を離れて活動してもらう。上層部からの命令だ」
「はっ! 拝命しました」
いつもは腕に巻いた電子端末に、直接命令が送られてくる。
こんな風に部隊長が自ら指令書を渡す理由が分からず、カートは顔をしかめる。
「お前は銀河評議会の隠密として、里を出ることになる。まったく、上はいつもそうだ。実力や能力ある若者を道具のように売り払う。俺はお前を預かった時から、こんな日が来ると思っていたよ」
なるほど直接面会をして、上に知られないように考えを伝える為だったかと、カートは理解した。
「明朝の出発だ。部屋に戻り、ここを出る支度をしろ」
「はっ!」
カートは詰め所を出て、自室へと向かった。
一人前と認められた諜報員は、最初に教えられる事が幾つかある。
これもその一つなのだが、里は評議会から様々な優遇措置を受ける替わりに、フウマの人材を提供している。
数年前までは、里の工作員としては能力値の低い者でも、宇宙ではかなり重宝されていたので、どんな人材でも受け入れてもらえていた。
だが数年前、そう言った位の低い者を選定している事実を評議会に知られ、優秀者も選定の枠に入れる配慮を求められるようになった。
カートの特殊能力、“イズライト”は確かに里よりも、行動の自由度が高い
コスモ・テイカーの方が活躍できるだろう。
部屋を出て行くカートに、隊長は最後の言葉として送った。
「呼び出しだったんですってね?」
「ヘレンか、何か用か?」
「用なんてないわよ。強いて言えば、顔を見に来た。ってところかしら」
ヘレーナ=エデルート、年はカートの一つ上。幼い頃からの付き合いの、姉とも言える存在だ。
「ここを出て行っちゃうんだね」
「また覗き見か?」
ヘレンは諜報員として、里の中央発令所の末端で、電子端末作業員をしている。
彼女は超一流の電算士、所謂“ハッカー”というヤツだ。
里の中枢の奥底にまで潜り込み、知らされていない合い言葉も、自力で突破する事が出来る。
それが彼女の特殊能力。国家機密も隠し通せない能力は、機械を使っても止める事はできない。
しかも彼女は自ら、厳重注意や罰則を受けても、懲りることなく覗き見を続けてしまう。
それでもヘレンを任務から外すことはできない。それ程に有能なのだ。
「そんなだから、隔離部署に回されるのだろう」
電脳空間で全ての作業ができれば、もっと楽になるもののを、無接続端末で、仕事を書面に移した書類で受け取り、終わった情報を紙に印刷して中央に戻している。
「そんなの何の意味もないって、いつになったら分かるのかしらね」
彼女がその気になれば、どんな小さな端末からでも、中央に接続できてしまうのだから。
「私がカートの情報を、見逃すわけが無いんだから」
フウマの里に生まれた子供は、物心のつく前に親元から離され、一生家族の名も知ることはない。
里の者は全てが家族、そう言った考えを植え付けられる。
ヘレンですら、親の顔も名前も調べられないでいる。そもそも情報が残されていないのだ。
なので、共に訓練を受けた者達は、それぞれが兄弟愛を抱き、家族の大切さもその中で学び育つ。
「寂しくなるわね。あんなに私の後を追っかけて、甘えていた子がいなくなるのは」
「俺の記憶にない事を、さも事実であるように言われても、実感はないし、感情の向けようもないと、何度言わせるんだ」
「連れないわね」
カートは感情の表現が上手くない。
この性格は恐らく、生来の気質なのだ。
「嘘を言っているとは言わんが、お互い幼子では無いんだ。時間が惜しい、他に用がないなら、支度の邪魔になるから出て行ってくれ」
「そう言う意地悪を言うのね。私はこんなに別れを惜しんでいるのに」
「……俺はいつまでも、どこにいてもフウマの“クサ”だ。骨を埋める場所を変える気はない。お前が里を抜けることがないのなら、また会うこともあるだろう」
「……そうね。行ってらっしゃいカート」
「……ああ」
彼女が出て行くのを目だけで見送り、カートは支度を調えて就寝した。
翌朝カートは1人で宇宙に出る。11歳になる直前の、ある夜の出来事を越えて。
「カート! てめぇ、また独断専行かぁ!? ああ!」
カートがコスモ・テイカーになるために預けられたのは、2人組のパルレギラ兄弟。
兄のフーレマテスは、またも命令を無視したカートに噛み付く。
「兄貴、カートのお陰で、いつも通り楽々システムを乗っ取ってくれて、しかもお尋ね者も取り押さえてくれたんだ。そこまで怒鳴る事もないだろう」
興奮状態の兄を羽交い締めにする、弟ボーラマテスもこうは言っているが、内心はカートの身勝手な行動に頭を悩ませていた。
「ふぅ~」
評議会が付けるランキング、Bランクのパルレギラ兄弟は、Bランク超えが受けられる、指導員の資格を持っている。
後進指導の報告書を提出すれば、ちまちまと仕事をするよりも、より効率よくランクポイントが稼げる。それに目を付けたのだが……。
預けられたのは難癖だらけの少年。
最初の模擬戦で、カートにこてんぱんにされたのが良くなかった。
チームリーダーの言う事を聞かないカートに、兄フーレが苛立つのも分からなくはない。
「カートよ。俺はお前の能力の高さは買っているんだがな、せめて行動前にどうするとか、俺達にも教えてくれねぇか?」
怒りを収めぬまま出て行ったフーレにも困ったものだが、一番の問題はこのまだ11歳になったばかりの謎の少年だ。
「評議会が時々、特例を認めるガキがいるってのは聞いていたけどよ。お前は規格外にも程があるよ」
ボーラは思い出していた。最高ランクのテイカーで、自らの娘と預かるガキが特例を受けて、自慢しているなんて話を。
向こうはこちらと違い、業界では名の売れたベテランではあるが。
「まさかハンパなBランクテイカーの俺達に、そんなのと同じ、いやそれ以上の逸材が廻されてくるなんてな」
気は短いが、色んな事に頭の回るフーレと、生真面目だが臆病な性格で、どことなく抜けているボーラ。
手に余る天才を前に、自然と溜め息が洩れてしまう。
「俺が厄介だというなら、事務局に押し返せばいいだろう?」
「それがな、兄貴がお前のその性格を気にしてな、お前のガキっぽい所を引き出してやるって言ってさ。俺もそいつは見てみたいって思ってよ。だkらもう少し付き合うことにした……」
「ボーラ! てめぇ!? 下らない事を言ってんじゃあねぇぞ!!」
「よう、兄貴」
カートが「押し返せばいい」と言った辺りで戻ってきたフーレは、出て行った時よりも真っ赤な顔で弟に詰め寄った。
「物好きだな」
チームリーダーの動揺を見た少年は苦笑を浮かべた。
「お、お、お、お前はそういう所が可愛くねぇ~、って言ってんだよ!」
やかましい連中だが、テイカーとしての腕は悪くない。
見習い現場はどこも同じだと思っていたが、ここは悪くない。カートは何となくそう思った。
2年なんて待ってられない。
必要な課程を最短で修める為、無茶なペースでも仕事量を増やせばいい。
そんな方法があると知ってから、兄弟のケツを水面下で蹴り上げてきたが、肩の力を抜いて、2人のやり方に合わすのも悪くはないと、少しだけ考えを改めるのだった。




