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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion04 黒の章
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Episode05 「やっぱり早く大人にならないとな!」



 潜水艇がラリー達を連れて行ったのは海底200m、暗黒の深海。


「こんな所に航宙船が?」


「あれがお前の依頼を遂行する現場だ」


「何言ってんだよモーブ、俺はまだ」


「潜水艇に乗る前に言っておいただろう。そんでついさっき最終確認もした」


「だから、まだ決めてないんだって、何も教えてくれないから」


「そんなものが通用するか。軍人だろうがテイカーだろうが、情報不足でも即決は求められるもんだ」


 それはラリーも理解しているし、実のところ依頼を受けるかどうかは、潜水艇を見る前から決めていた。


 だけど今のような状況で即決しては、それもまたプロとしては失格と言える。


 内容を伏せた依頼主も、信用に足るか見極めなくてはならない。


「このやり方、最初から拒否させるつもりもなかったんだろ?」


「はははっ、まぁ、な!」


 この保護者は時々、まともに取り合ってはならない、ふざけた人間なのだ。


 分かっている。それでも自然と溜め息が出てしまうのだ。


「そろそろ詳しい話を、聞かせて欲しいんだけど」


 モーブの襟首を掴み、背伸びしても釣り上げたりはできないが、この怒りを示すことはできるだろう。


「そいつは依頼主のお嬢さんから聞くんだな。俺はここまでだからよ」


「なんだよそれ?」


「言ったろ、この依頼はお前宛だと」


 ソアと名乗った依頼主は潜水艇を操縦していて、ここにはいない。


 今の内にできる限り聞き出してやりたい所だったが、宙航船内部に潜水艇は侵入し、停止したところでモーブが呼ばれた。


「この船、動力が生きてるのか」


「ほら、早く手を離せ」


 依頼主に呼ばれているのに、行かせないわけにはいかない。


「覚えてろよ」


 モーブは操舵室に入っていき、そして……。


「ってあれ? モーブに用があったんじゃあ?」


「はい、これ」


 入れ違いに出てきたソア、手には気密ヘルメット、宇宙で使っているフィルム式の物ではない。高い水圧にも耐えられる硬質な物だ。


「ああ、ここは深海だもんな。けどこんなに深いんじゃあ、気密服では保たないぞ」


「大丈夫よ。船の外に出る訳じゃあないから、格納庫が水没してなけりゃあ、こんな物もいらないんだけどね」


 つまり浸水してしまったこの区画を、潜水艇を出て何かをすると言うことだ。


 ラリーがソアにならってヘルメットを被ると、モーブから潜水艇を横倒しにするとアナウンスが入り、壁が床になった。


『出るわよ』


 潜水艇の防水隔壁を開けると、依頼主は躊躇なく出て行ってしまう。


「水に入るなら、潜水服も用意しておけよな」


 宇宙とは違い、ここには重力がある。落ち着いていれば、上下を間違えることはない。水中でジッとしていれば、すぐに足が底に付く。


 どうやらここは格納庫のようだ。


 薄暗いが潜水艇以外にも、何か大きい物があるのが分かる。


『あそこから、空気のあるブロックに移るから』


 言われるままに個室へ、エアロックへと連れ込まれたラリー、足下の排水溝から海水が流れ出していく。


「こっちよ」


 エアロックから出ると、すぐに別の場所へ連れていかれそうになる。


「ちょっと待ってくれ、モーブがまだ来ていない」


「彼はここまでよ。ほら」


 言われて格納庫の方を向くと、モーブを乗せた潜水艇は外へ出て行くところだった。


「どういう事だ?」


「用が済んだから帰っただけよ」


 ソアが笑顔を向けるのはラリーだけ、大人に対する態度が悪いのが少し気になる。


「なんだってんだよ、まったく。なぁ、そろそろ教えてくれよ」


「いいわよ。けどそれよりも先に、してもらうことがあるわ」


 そう言われて連れてこられたのはシャワールーム。


「この船には湯船もあるのよ。しっかりと温まるといいわ」


 後でいいと言ったが、聞き入れてはもらえず、服をむしり取られそうになったので、これ見よがしの大きな溜め息を零して、先にお湯を頂くことにした。


「いつになったら依頼内容が分かるんだか……」


 シャワーだけで出ようかとも考えたが、あまりに早いと押し戻されるかもと考え、湯船に浸かりゆっくり温まることにした。


「お風呂出たら、食事も用意してあるからね」


「って、なっ!?」


「なによ、大きな声出して、ビックリするじゃない」


「なに、入ってきてるんだ!? まだ俺が入ってるだろ!」


 隠すことなく入ってくる少女は、年相応の発育状態ではないようだが、少しは女性らしさもあり、目のやり場というのを失ってしまう。


「だって風邪引いちゃいそうなんだもの。いいからほらほら、もうちょっと寄って寄って」


「だったら俺は出るから」


「ダメだよ、ちゃんと温まらないと。服が乾くまで数分かかるし、2人で入れる広さがあるんだからいいじゃん」


 軽くシャワーを浴びて、ソアは強引に湯船に入り、ラリーと向かい合って腰を折る。


「それじゃあ仕事の話をしましょう」


「ここでか?」


 なんて非常識な依頼人だろうか。


 どんなに違約金を払わされても、依頼を破棄すべきではないのか。ラリーは答えが出せず、話を進めさせた。


「この船を動かしたいの、。手伝ってちょうだい」


「はぁ? 本当にそれが依頼内容なのか?」


「そうよ。秘密裏に、全ての機能を稼動状態にしたいの」


「動かしたい理由は聞かないけど、なんで隠れて作業しないといけないのさ、こんな場所じゃなく、ワンボックとか、有名なファクトリーに持ち込めば簡単だろうに」


「ダメなの!?」


「いちいち立ち上がるな! 落ち着いてくれ、おれはまだ受けないとは言ってないだろ」


 いくら幼児体型でも、免疫のないラリーには、目の毒でしかない。


「受けないとは言ってない? 何を言っているの? 将来を諦めるって事でいいの?」


 銀河評議会に顔が利くという少女は、合法的にラリーを拉致監禁したと告白する。


「礼状、……本物に見えるな」


 当然、モーブも了解しての事だ。


「どうよ、私の行動力」


「だからいちいち立つなって! それでまさか、この船を直すのが2人だけ、なんて言わないよな」


「2人だけよ。人間はね」


 服の乾燥が終わったと、人型のロボットが報せに来た。


「かわいいでしょ、猫娘にしてみたのよ」


「あんたが作ったのか?」


「そうよ。よくできてるでしょ」


 全部で22体が稼働中で、復旧作業の方も、8割方済んでいると言う。


「だったら俺、いらないじゃん」


「仕上げにはね、人間が私だけじゃあダメなの。それも信用も信頼のおける人でないとならないの」


「だからなんで俺なんだっての」


 食事の支度ができているからと場所を移し、熱々のステーキとスープをごちそうになる。


「姿勢制御装置がようやく直ったのよ」


 これでここでの生活が可能となり、ラリーを呼び寄せた。と言う事だ。


「何で俺なんだ。信用できるって、俺の何を知ってるってんだ」


「5年前のノインクラッドでの事件、あの時から目をつけていたわ」


 少年にとって消し去りたいテロ事件。


 歪められた情報が大々的に報道され、ラリーが関わっていた事は伏せられていたはずだ。


 あの時助けた少女のその後を、ラリーは知らない。


「あなたはどんな聖職者よりも信用に値する。そして私には遠く及ばなくてもすごく頭が良くて、私の計画にうってつけな人材なのよ」


 あの事件の情報を裏から手に入れて、ラリーに白羽の矢を立てたのだ。


「そう言うことなら、少しくらいは付き合ってやってもいい。けど最初に教えてくれ、そもそもこの宙航船はなんなんだ?」


 なぜこんな海の底で世間の目を避けるのか。


 銀河評議会と繋がりがあるのに、たった1人で沈没船を甦らそうとしているのか。


 そもそも何者なのか等々、気になることは山ほどある。


 少女は全てに答えてくれて、それを聞いたラリーは、好奇心を膨らませて、不安を拭い去った。

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