Episode02 「俺は俺のできることを!」
混乱は街の方まで拡がっているようだった。
それはそうだろう。このエリアで一番大きな公民館で爆発と火災が起きて、銃撃音まで聞こえてくれば、一般人は遠巻きに見ているしかできないが、黒煙の上がる会館に注目が注がれるのは当然の事だ。
上空に多くのモビールが飛び回り、消化剤を散布しようとするが、地上の犯罪者達がロケット弾を撃ってくるから、消防隊は現場に近づけないでいる。
「この辺りは静かだな」
ラリーが警備隊に協力を申し出たところで、子供だからと保護されるだけ。
一人でできることを見つけることが最優先。
流石にニュース報道も始まったが、有力な情報は何も伝えられていない。
「高いところから見渡したいけど、上の銃撃戦は激しいみたいだな」
このホールのマップは手に入れた。
建築データもあり、配管図もある。
「地下室があるな。公開マップにはないエリア? 隠し部屋ってことか」
現在地からは、そんなに離れていない。
重要人物を匿うには調度いいが、出入り口は一箇所しかない。
「考えなしに逃げ込んだりしていたら、マズイよな」
ここに来るまでにハンドガンを二丁と、サブマシンガンを一丁。ナイフも二本拾って、カバンの中に詰め込んだ。
「ここか……」
周りに同化したカバーをスライドすると、コンソールが顔を出す。
パスワードの入力が必要ではあるが、ラリーは直ぐに察した。
「ロックが解除されている……」
コンソールの穴を取っ手にして右に滑らせると、地下へつながる階段が現れる。
「内側からロックは掛けられないのか。と言うことはまだ、何者かがいるって事だな」
戸を閉めて、階下の様子を窺う。物音はしないが、なんとなくだけど誰かがいる気がする。
両手持ちにしていたサブマシンガンを左手に持ち替え、右手にハンドガンを持って降りていく。
「すすり泣く声? 子供がいるのか?」
隠し部屋は高級ホテルのような調度品があり、キッチンにトイレやシャワールームもあるはずだ。
恐らくここはシェルターで、ひと月くらいなら、生活することも可能なのだろう。
「女の子が1人? 他に人の気配はなさそうだな」
「誰?」
室内に入り、ベッドに座る少女の前へ、サブマシンガンはカバンに入れてたが、左手のハンドガンは安全装置を外してある。
「お前はさっきの?」
「……テラスにいた子? 銃なんて持って、何してるの?」
「いや、それはこっちも聞きたいんだが、お前1人なのか?」
「……うん」
1人泣き崩れて、化粧はボロボロ、着飾った衣装もすす汚れて、靴も履いていない。
ここへはメイドに連れてきてもらい、その人は助けを呼んでくると、出て行ったらしい。
「ならここにいた方が安全か……。俺はフィゼラリー=エブンソン。ラリーって呼んでくれ」
「ミリ、シャ……キャリバー、ひっく」
やはりこの子が、フィッツキャリバーのご令嬢で間違いないようだ。
でなければ、この部屋にいる事を説明できない。
「ミリシャか、よろしくな。まだ騒動は治まってないはずなのに、ここは静かだな。振動も感じない。ここなら安全だから、安心して待ってればいい」
銃を持ったままのラリーに、おびえる様子のない少女に、もう一つのハンドガンを差し出す。
「……やっぱりこう言うのは怖いか。ここに置いておくから、俺はっあ!?」
「ど、どこへ行こうって言うのよ。こ、ここにいて、いてよ。お、お願いよ」
捕まれたスーツの裾を思いっきり引っ張られて、倒れそうになる。
「お、おい、ミリシャ!」
「やだったら、やだ!!」
ラリーは銃をカバンに詰めて足元に置いた。
「ミリシャは」
「違う。ミリーシャ、ミリーシャ=キャリバー」
「そうか、わりぃわりぃ……、けどミリシャでいいだろ? なんか特別感あっていいじゃん」
「特別? ……な、生意気な子ね。い、いいわよ、特別にそう呼んでもいいことに、してあげる」
険しい顔が少し解れたか、ミリーシャにテラスで見た、強気な笑顔が戻ってきた。
「ミリシャは俺のことが怖くないのか?」
「怖くなんかないわよ。この辺りは危ないところだから、みんな銃くらいは持ってるって、お祖父様から聞いているもの。本当なら年上の私の方が、ちゃんと落ち着いてなきゃならないのに、恥ずかしいところを見せたわね」
本調子を取り戻したのか? 少し気に障るが我慢しなきればならない。
ラリーはすぐに気づいた。負けず嫌いで我慢していても、足や肩が震えは隠せていない。
「年下って言うけど、そっちは何歳なんだ?」
「レディーに年齢を聞くなんて失礼な子ね」
「……じゃあいいよ。何歳か分からないんだから、年下扱いはなしな」
「8歳よ。今日8歳になったの」
「1歳違いか。俺も先月7歳になったばっかりだ」
「ほらやっぱり思った通り、年下だったじゃない。……けど7歳にしては小さいわね」
「ほっといてくれ。これでも気にしているんだ」
よかった。ミリーシャの体の強張りも取れてきた。
「なに? もしかしてイジメられっ子なの? あんた」
「どうしてそういう話になる。いや、イジメも何も俺はいつも一人だったし」
頭脳も身体能力も、同年代とは比べものにならないほど大人だし、友達ができないのはしょうがない。
確かに身長は平均的な4、5歳男児くらいだから、絡んでくるガキ大将はいたが、当然ラリーの敵ではなかった。
「なるほどね。分かるはそう言うの。本当に同い年の子って、お子ちゃま過ぎて話にならないものね」
何を分かった風なことを?
「人を名前や身なりで態度を変える大人も、そんな親の顔色を窺う子供も、本当に気持ち悪いわ」
なるほど少女も気の許せる友達がいないということか。納得してしまえばほんの少しだけど、距離が縮んできたようにも思える。
「本当に新鮮だわ。君みたいな子に出会えて、お祖父様に感謝しなくちゃ」
どうやらミリーシャもラリーと同じことを考えているようだ。
「そうだ、この騒動が、むぅ!? むぅ、むぅ!!」
上機嫌なミリーシャの口を、突然ラリーが左手で塞いだ。
「頼む、大人しくしてくれ。誰かが隠し扉を開けたみたいだ」
「むふぅ?」
もしかしたらミリーシャを、ここに残した人が帰ってきたのかも知れない。
しかしラリーは用心のために、隣の小部屋にミリーシャと共に身を潜めた。
「なんだよ、いねぇじゃねぇか?」
入ってきたのはがさつそうな大柄の男が二人、どう見ても軍人でも警備員でもない。
念のためにセンサーをセットしておいてよかった。
隣の部屋の様子も、隠しカメラで確認できる。
男の大声に驚いて、ミリーシャが静かになってくれたのも助かった。
入ってきたのはスキンヘッドと爬虫人間の二人。
初めて見るエルガント人が不気味だが、二人くらいなら不意打ちもできる。
「おい、まだ生きてるか?」
スキンヘッドの男が、ベッドの上に何かを放り出した。
「はぁあ……」
服は引き裂かれ、晒される肌は血が滲み、斑に爛れている。人だ。
「女の人? 惨いことを」
目を背きたくなる姿だが、その爛れはヤケドのようにも見えるけど。
「薬品でか? いや、肉が抉れているし……」
「おい!」
ラリーはその大声に一瞬動揺するが、言葉が浴びせられたのは、ベッドの上の女性。
「ガキがいねぇじゃねぇか! 本当に殺すぞ!!」
蜥蜴男が息も絶え絶えの女性の髪を掴み、引き起こして怒鳴り散らす。
「ったくよう、結構いい女だったのに、こんなボロボロにしやがってよ」
スキンヘッドは女性の乳房を弄ぶが、当人はまったく反応しない。
女性は可哀想だけど、もう助からないだろう。
飛び出して片付けるか、声を潜めてやり過ごすか。ラリーは即決の二択を迫られる。
「マフィリーリア!?」
外の様子に気を取られて忘れていた。
「誰だ!?」
慌ててミリーシャの口を再び塞いだが、少女の取り乱しようは半端ではない。
「頼むから、暴れないでくれ……」
興奮するミリーシャを必死に抑えるラリー。
「この辺りだったよな」
蜥蜴男が小部屋の前に立った。




