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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
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Episode30 「祝勝会のはずだったのによ!」



 ドンチャン騒ぎは嫌いではない。カートは部屋の片隅に立ち、ワイングラスを片手に腕を組み、室内を無言で眺めていた。


「ったくよう、けっきょく銀河中央評議会はレース参加者に、賞金を渡す気がなかったってことだろ?」


「それは結果論ですよラリー、クーランゲルは確かにリタイアをした訳ではなかった。やられましたね」


 アンリッサは笑みを、3人は溜め息を溢す。


「役人にしてやられるなんてね。海賊の恥だわ」


「僕たちもですよ。ヒーローが警察に出し抜かれるなんて……」


「このために賞金を優勝者独り占めにしやがったんだな」


「ラリー、あんたはいいでしょ! アポースから依頼料もらえるんだから」


「落ち着けミリシャ、いいから飲め飲め」


 この場にいるのはベルトリカの男性陣、海賊ミリーシャと副団長のノエル、ブルーティクス隊長フォレスと、第一秘書兼副隊長レイラ=ボールズの7人だけ。


 他の人がいないとは言え、ここまで本音で管を巻かれるとは、普段を知る副団長と副隊長も、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「まったく、私かあいつが優勝して、こんな海賊装束ではなく、もっと可愛く着飾って、あいつと二人で朝までしっぽりの予定だったのにぃ!!」


「ミリー、早口で煩悩を駄々漏れにするのは、おやめください」


 テキーラをがぶ飲みするミリーシャは、ほどよく酔っている。その証拠に彼女は舌がよく回っている。


 それを知っているのはノエルだけだが、座った目を見られれば、ばれてしまうだろう。


「フォレス、あなたはお酒に強くないんだから、調子に乗っちゃあダメよ」


「レイラ、それじゃあボクの代わりに、君が飲んでくれるのかい?」


「もう限界みたいね。はい、お水」


 飲食の機能を持たないボールズに、グラスを渡そうとする時点でアウト!


 レイラは酔い止めの薬を飲ませて、長椅子で横になるよう促す。


「ノエル、お前さんも楽しんでるか?」


「ミスター、お招き頂きありがとうございます。私も十分楽しませてもらってます」


「お前さんもこんな日くらいは飲んで食えよ。そっちのあんたは、それもできないのは残念だが、楽しんでいってくれ」


 惑星ノインクラッドにあるベルトリカチームの事務所。


 それぞれに料理やお酒を持ち寄っての慰労会。


 ランベルト号からはミリーシャとノエルの二人だけがレースに参加した。


 他のキャンショットキャリバー号乗員は皆、フィッツキャリバーコーポレーションの社員。この会には参加していない。


 リリアはソアロボットと共に、ソアラの元にいる。


 オリビエからは、ワンボック・ファクトリーに到着したと連絡があった。


「カートもこっち来いよ」


「いや、俺はここでいい。お前も今日は気兼ねなく飲めばいい」


「そうかぁ? それじゃあアンリッサでも酔い潰しておくよ」


 盛り上がった宴会の結果、朝まで起きていたのは、ラリーとミリーシャのみ。


 ノエルとカートは夜も更けたころに、別室に用意された寝室に移動して就寝した。


 レイラもフォレスが完全に寝たので、隊長をベッドに運んで自分もシャットダウンした。


 ラリーが撮った横抱きされたフォレスの寝顔写真、お姫様隊長が起きたら、からかってやるつもりだ。


 テーブルに突っ伏して、酔い潰れたアンリッサに毛布を掛けてやり、ミリーシャは念願のラリーとのツーショットで、頬を朱に染めてグラスを傾けた。


「ノエルもペースが早かったが、放っておいて大丈夫なのか?」


「あんたには珍しいかも知れないけど、あの子も時々こうして羽目を外すのよ。楽しんでた証拠だから心配ないわ」


「そうか、カートのヤツもだいぶ酔ってたが、今日は何の予定もないから寝かせておくか」


「あれ、酔ってたの?」


「顔に出ねぇから分からねぇだろ。あいつずっと離れて1人だったけど、ほとんど最初の頃から酔ってたからな。俺が引導を渡してやろうと思ってたのによ」


 身代わりにされたアンリッサは気の毒なモンだ。


「フィッツキャリバーもオレグマグナも、ただでは転ばないな」


「新型の長距離航行のデータは会社にフィードバックする。そうでもなければお祖父様もお父様も、参加を認めてはくださらなかったわ。新造船のテストが参加の条件だったのよ」


「宣伝も十分できたもんな」


「半年後には販売されるそうよ……」


 ブルーティクスも新装備などのお披露目をし、ベルトリカチームとの戦闘映像でプレゼンも成功したと、フォレスが満足げにお礼を言っていた。


「とにかくお疲れだ。俺達の問題はまだ解決してないがな」


「安心していいわよラリー、私らキャリバー海賊団はこれで借りを返せるってもんだわ。きっちりフォローしてあげるわよ」


「ははは、ありがとよ」


 寝顔写真を見せられて顔を赤くしたフォレスも、協力を約束してくれた。


 全員が起きたところで、片付けられた事務所で、宴会参加者は話し合いをスタートさせた。


「あんた、本当にあのクララリカなの?」


 ボブのショートを更に短く刈り上げにし、黒の上下もシンプルで、胸の主張は激しいが、今までのドジっ子婦警のイメージは完全に消えてしまっている。


「おやっさんの許可が下りてな。こいつはベルトリカ預かりとなった」


「本当にいいのかい? この子はあの、ヴァン=アザルドの子飼いだったんだろ?」


 ミリーシャの心配はもっともだ。


 だがそれだけのリスクを抱えるだけのメリットがある。


「それは理解しますが、信用していいのですか?」


 フォレスの問いももっともだと、目を閉じるカートとアンリッサ。


「裏切るなら裏切ればいい。ヴァンのクソ野郎に一瞬でも、意外な顔をさせられるならそれだけで十分だ」


 ラリーは言葉とは裏腹に、エリザがヴァンに手を貸すことは、今後ないと確信している。


「エリザは金色の船の中を知っているらしいんでな。突入の時は先頭に立ってもらうさ」


 今のランベルト号とブルーティクスがフォローしてくれるなら、ベルトリカは無傷でイグニスグランベルテに取り付ける。


 ラリーは細かいシミュレーションを既に仕上げていて、ミリーシャはそれを見て呆れ返ったように溜め息を吐く。


「なんで私たちが手伝う考案が、そんな前からあったのよ」


「流石はミスターですね」


 苦笑いのフォレスも内容をしっかりと確認し、作戦に同意する。






 ワンボック・ファクトリーにラリーが到着する。


「こいつはいいや」


 グラップレイダー改め、グランテのメンテナンスが済み、外装の変更も程なく完了する。


「どうだ、ウロボロス。新しい体の調子は?」


『正直驚いている。今までの体がベストだと感じていたものが、まさかこんなにもワレにフィットするとは! マスター、このワレの受けた衝撃をご理解頂けるか?』


 AIは興奮気味だが、それだけ上々なのだと言う事が伝わってくる。


「それでオリビエ、こいつは本当に無人で、例えば銀河評議会の戦艦とも渡り合えるのか?」


「そんなの無理に決まってるじゃあない」


「なんだって?」


「この子はまだ何も知らないんだよ。ちゃんと経験を積ませてあげなきゃ、プロに敵うわけないでしょ」


 それでは困る。


 ソアラは約束通り、次元断層を突破する計算を仕上げてくれた。


 グランテが力を本領発揮できれば、イグニスグランベルテのいる場所に辿り着ける。


「そうなんだよな、ソア」


 ワンボック・ファクトリーに、ソアロボット一体が一緒に来てくれている。


「そうね。私たちも一緒に演算したもの、安心していいわよ」


「ウロボロスの教育はボクがやるよ。一週間もらうからね」


 ソアラたちの演算データの入ったメディアを手に、オリビエが無邪気な笑みを浮かべる。


「ああ、その教育が済んで、ソアがグランテに乗り込むことで、100%の力が出せるようになるってんだな」


「念のために3人で乗り込むわ」


 リーノ奪還の手筈は整いつつある。


 後は作戦開始直前に、イグニスグランベルテの居場所を掴んでいるであろう、銀河評議会から情報を手に入れるだけ。


「今度こそヴァン=アザルドとの因縁に、決着を付けてやる」


 そうでないと、いつまでもフランとティンクの弔いが終われない。


 ラリーはケジメをつけて、ノインクラッドの二人の墓に報告をする。


「あの日の過ちを償う」


 あの日に残してきた想いを取り戻すために。

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