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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
89/144

Episode29 「最後は俺たちが勝つ!」



 結論から言えば、そこには人間が二人だけ、それも事務方の男女は、戦闘とは無縁の一般人だった。

「まさかこの船自体が、あんたの体だったとはな」

 カートのイズライトで乗っ取る予定だった、グラップレイダー号のコンピューターシステム。

 しかしイズライトの限界を超えたその存在を、能力だけで押さえ込むことは叶わなかった。

 今はラリーが言葉による交渉を試みているが、果たして……。

『キサマもワレを、グラップレイダーなどと呼ぶか?』

「そいつは失礼した。俺はあんたの名前を知らないモンでね。俺の名はフィゼラリー=エブンソン、ラリーと呼んで欲しい」

『ナルホドそうか、ラリーと言うか、覚えておこう。ワレの名はウロボロスだ。今後は間違えるでないぞ』

「ウロボロスとはビックに出たモンだな。了解だ。それでお前さんは田舎海賊や、評議会の役人なんかに、なぜ使われていたんだ?」

『……知らん』

 古代文明の遺産、古の都市の話を聞けるかと期待したが、名前負けしまくりのメインシステムは、カートの能力で叩き起こされるまで、ただの一度も起動したことがないらしい。

「ったく、聞きたいことは山ほどあるのによ」

 ウロボロスが生まれたてで、蓄積するデータが何もないとしても、最初から組み込まれたプログラムから、得られるものがあってもいいものだが。

『ふむ、解除コードとパスワードを入力するとよい』

「なに? おい、カート」

「無理だ。俺はこいつのいる回路の、玄関口も通ってはいない。何も知ることはできなかったんだからな」

 胸を張って、堂々と言い訳をするカートにも頭を悩ませ、ラリーは気持ちを切り替え、今後の事を話し合う。

「それであんたは、これからどうするつもりだ?」

 今まで眠り続けていた人工知能と、少し話して、ウロボロスはティンク達のように、自らの考えを持ち、意志を示せる超AIだと確信する。

『どうするも何も、マスターに従うまでだ。マスター・ラリー』

「俺が? マスター?」

『ワレを生み出したクリエイターについては、記憶も記録もない。こうなった以上、ワレを起こしてくれた汝を、アルジと決めることにした』

 それなら、その対象はカートであるべきだろう。

 なのになんの迷いもなく宣言されては、それこそがウロボロスの意志と言わざるをえまい。それをわざわざ改めさせることもないだろう。

「と言っても今すぐに、お前をどうこうするかを話し合う暇はないんだよ」

 このまま放置するわけにもいかないが、このレースでグラップレイダー号は有名になりすぎた。

「ウロボロス、お前の名前はそのままでもいいが、船体名はそうだな……、グランテだ。いいな」

『アルジが望むなら、ナンの異論もない。ワレはウロボロス。我が身はグランテだ』

 素直なのは非常にありがたい。

 乗っ取りには失敗したが、白と青の船を襲った古代船は無害となった。

 だがこの超文明の遺産は赤子同然。

「誰かがこいつに、色々と教えてやる必要があるな」

 船内で反応弾を生成できる化け物をさて、どうしたものか?

「ティンク、聞こえるか?」

『はいはぁ~い、ベルトリカも横付けしてるよぉ』

「グレッグに連絡を入れてくれ、評議会への言い訳は、ヤツに任せるとしよう。それとオリビエを」

 ウロボロスが大人しく、ラリーの言うことを聞くというなら、隅々まで調べることも可能だろう。

『ラリー、ボクになんの用?』

「おお、オリビエ。もうレースに戻ったところで、俺達の勝ちはないだろうし、ちょっとワンボックへ行ってくれないか?」

『ファクトリーに?』

 ベルトリカのことを任せられるワンボック・ファクトリーなら、グランテについても何か判るかもしれない。

 もっともベルトリカについては、いまだに何も分からないままなのだが。

『おもしろそう。それってボクがやってもいいの?』

「そうだな。期限付きでいいのなら、別にかまわないぞ」

 今後を考えるなら、オリビエが把握してくれるのが一番。

 ラリーはウロボロスに、ベルトリカチーム全員をマスターと認めさせ、オリビエのシャトルを搭載させて、送り出した。

「さてと、勝てなくてもリタイアはしたくないな」

 ラリーはレース継続を希望し、皆の承諾を得て、ミリーシャとフォレスの後を追った。






 ゴールまでは、後一日と掛からない位置まで来た。

「なんでお前らがこんな所にいるんだ? とっくにゴールしているはずだろう?」

『わざわざ待っててあげたんじゃない。これで貸し借りはチャラでいいわよね』

「いいわけあるかよ。そんな取引はしねぇよ」

『ふふふっ、冗談よ。折角だもの、邪魔の入らない状態で、あなた達と勝負をするいい機会だから、海賊ショーの時の借りを返すわ』

 お嬢様モードでも、ミリーシャはミリーシャだ。

「で、お前は?」

『つれないことを仰らないでください。僕たちも今一度、ブルーティクスがどこまで、あなた達に並べたのかを確かめたいんですよ』

「そんな必要もないだろうによ。どいつもこいつも物好きなもんだな」

 本当ならとっくにゴールをしている、キャンショット・キャリバー号と、ゴール間近にいるはずのブルーティクスが、2チーム並んでベルトリカを待っていた。

『それでは、ここから仕切り直しですわね。合図はラリー、あなたにお任せしますわ』

「分かった分かった。御曹子もそれで良いのか?」

『ええ、お願いします』

 3隻は横並びに。

「なら俺達が勝って、賞金を頂くとするぜ。ティンク、合図しろ」

 ベルトリカの操舵はティンクに委ねた。

 少しズルではあるが、ジャストタイミングで最大加速をするベルトリカが、初速を制し、船体の長さ分は先に出ることができた。

 それを咎める二人ではないが、自然とミリーシャの口から溜め息が零れ、フォレスの顔に苦笑いが浮かんでくる。

 一月弱飛び続けてきた船体は煤け、傷も目立ち、装甲は焼けている。

 しかし各チームとも、メンテナンスは十分行き届き、速力の低下はなし。

 直接の妨害はなし、しばらくすると、それぞれにコースを変えて距離も開き、どのチームが優勢かが読み取れないまま、ゴールのあるノインクラッドの宙域へ。

「ブルーティクスとの距離は?」

「3分、3分前にここを通過したよ。そんでキャンショットは、もうすぐ後ろまで来てる」

 リリアは一時間前から、分単位で実況をしてくれている。

「カート、出力を10%上げられないか?」

「何分だ? 使いすぎると推進剤がもたなくなるぞ」

「安心してください、カート。この意地の張り合いが始まる前に、予備タンクをもう一つ用意しておきました。ソアロボットミニが待機してくれてますから」

 アンリッサのナイスサポートがあり、速力を上げるベルトリカに合わせて、キャンショット・キャリバー号もスピードアップ。

『ブルーティクスが、分離しましたわ。ラリー兄様』

 カグラがメインモニターを切り替える。

 ブルーティクスは大型船の4号と5号を残して、3隻で合体。ベルトリカとキャンショットを振り切ろうとする。

「あれって、ありなのか?」

 長距離航行には大型船が有利だが、様々な障害物が増える惑星近くでは、少しでも小さい方が、速度を上げやすくなる。

「スタート前から許可を得ていたようですよ。状況に応じて切り替えていく、ルール上ではOKなようです」

 これでベルトリカは3チーム中、一番の巨体となり、ここからは操舵が特に重要になる。

「ティンク、サポートを頼む。アンリッサはビームでデブリの排除をしてくれ。モビール娘はリリアを手伝ってやってくれ、ゴミの一つも見落とさないようにな。カート、全力で飛ばすからな」

 最後の一踏ん張り。

 操舵桿を握るラリーの手にも力が入り、デッドヒートが繰り広げられる。

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