Episode27 「大変な時だってのによ!」
『はじめまして、あなたがリリアス=フェアリアちゃんだね』
カプセルは女性の顔の部分だけを残して、再び閉じられて立ち上がった。
女性は目も開けてないし、口も動かしていない。
声の主が、カプセル内の人であることは疑わない。
「声もソアのとソックリだね」
『私はソアラ=ブロンクス、こんな形をしていても歴とした20……22歳よ』
「誤魔化すな。あんたはもう27歳だろ」
ラリーの突っ込みで場の空気が凍った。
「ラリー、あなた地雷踏んだわよ」
ソアがジト目で注意する。
『本当にラリーってデリカシーないよね。次はないからね』
変わる声色を物ともせず、ラリーは大笑い。
「まぁ、見た目だけなら13歳だもんな」
『うふふ、覚えているといいわ。改めまして、リリアスちゃん」
「あっ、はいリリアス=フェアリアです。リリアと呼んでください」
13歳は言い過ぎだとしても、10代半ばに見えるソアラに名を呼ばれ、リリアは緊張で背筋をピンと伸ばし、ロボットが反応して敬礼する。
『それじゃあ、リリアちゃんのために、私も自己紹介するね』
カプセルは完全に蓋を閉じ、大型のモニター画面が現れて、動くソアラの姿が映し出される。
『私の名前はソアラ。これは本名ね。ブロンクスってのも安直にもじってるけど、案外ばれないものよ』
ソアラ=ブロンク=バーガー。正真正銘のバーガーコンツェルンのご令嬢である。
「ソアのお姉さん?」
『そう思うよね。ある意味間違いじゃあないんだけどね』
「いやいや、そんな訳ないだろう。どっちかと言えば、ソアの方が姉だな」
『もう、ラリーはいつもいつも』
確かにソアよりも、ちょっと子供っぽさがあるとリリアも感じる。
『この子になら、本当の事を言ってもいいのよね』
「ああ、もうこいつは大事な仲間だ。責任感もあるから問題ない」
ラリーの口から直接に、褒め言葉を聞くことはほとんどない。
喜んでいることを悟られたくなくて、リリアはロボットとのリンクを慌ててオフにした。
一瞬表情に出たのを、ラリーは見逃していないが、ここはそっとしておくべきだろう、大人の判断で話を先に進める。
「ここにいるソアの姿をしているのは、みんなロボットだ」
「そうなんだ。それじゃあソアは、どこかに行ってるの?」
「いや、俺達がよく知るソアは……、お前か?」
「残念でした。私がそうよ」
ラリーが指差したのは、左から二番目の幼女。しかし手を挙げたのは、真ん中に立つ子だった。
「……ごめん。何言ってるか分かんない」
「だろうな」
この話を知っているのは当人と親族以外は、ラリーとオリビエの二人だけ。
カートもアンリッサもリーノも知らない、この世にソア=ブロンク=バーガーという8歳女子は存在しないことを。
『その話の前に、私のイズライトを説明するわね』
それは驚きの、そして納得の能力だった。
「無機物との精神同調?」
『物心ついた頃から、お人形を手で触れずに動かせた。私は自分のイズライトを解析した結果、魂みたいなモノを、無機物に吹き込めるんだと解釈した。必死にロボット工学を学んだわ。脆弱な自分の代わりをしてくれる、精密な分身を作るためにね』
ソアラの体は生まれつき弱く、幼い頃から1人遊びが当たり前。
お友達はいなく、相手をしてくれるのは気遣いをくれる大人ばかり。
自らの能力で動かす人形を、友達と呼んでいた少女はやがて、そのイズライトがもっと高度な制御に使えることに気付く。
『AIを自分の能力を使って組み上げると、人間のような振る舞いをするようになるって、分かった時は歓喜したわよ』
AIに人間のフリをさせるのは簡単だ。
1から性格や喋り方を設定してやれば、疑似人格は生まれる。
ただ従来品のロボットAIは、まるで使用人の大人のようにしか、ソアラの相手をしてくれない。
『そんなロボットとでも、お友達になれたんだとは思うんだけどね』
自分で作った、気の回らない勝手我儘を言うロボットは、一見失敗作のようだが、それこそがソアラの理想の友達だった。
一度に動かせるAIは8体。
動かせる機体に制限があるのかと、巨大ロボに搭載したりと、ロボット工学技術はもちろん、AIプログラムの製作技術とイズライトも向上していった。
『ロボットキングダムにもチャレンジしたり、充実してたんだけどね、体の無理を押して研究に没頭している内に、死の直前まで私の体は、病魔に冒されてしまってたわ』
そこで生み出したのは、自分によく似たソアロボット。
『その一体を最後に、カプセルに入るしか延命の方法がなくなって、今もこうしているわけね』
ソアを使って、巨大ロボットの開発も続けることができた。
ロボットキングダムでは負け知らずの連覇を続け、今年もと考えていたが、助手に使っていたソアロボットが、ベルトリカと共に数々の事件に関わるようになって、それどころではなくなった。
『ロボットキングダムもそれなりに楽しかったけど、やっぱり緊張感の続く現場は違うわね。私自身もこの船に乗せてもらって、時々だけど、お手伝いもしてるのよ』
「本当に助かってはいるが、こっちの希望にちゃんと答えてくれたら、もっと嬉しいんだけどな」
ラリーはいつまで経っても、ブラストレイカーの音声入力を外してくれないことに不安を抱いている。
「それでどうだ? 次元断層を抜ける方法は、どうにかなりそうか?」
5人のソアに考えてもらっても、結果は出せず、それでも次元が揺らげば、その振動波を検知する事はできそうだと、それなりの成果は見せてくれた。
『そうだね。時間はもらうけど、試したいことはあるよ。リーノ君がいない以上、やれることは限られるけどね』
ラリーは確認したかった言葉を聞けて、今はそれで良しとし、オリビエを残してリリアと倉庫を出た。
「ねぇラリー、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
リリアロボを工作室に残して、ラリーの肩に座るリリアが聞く。
「えーっとね」
本当はこの時、一番気になっていたのは、カートもソアラも「リーノがいないからうまくいかない」ような事を言っていた事だったのだけれど、それをどう聞けばいいのか分からず、質問を変えた。
「ソアラさんの能力で動かせるロボットは、8体なんでしょ? なんでソアは5人なの? そもそもなんで5人もいたの?」
聞きたいことがあると声を掛けた以上、質問はしなければならなかった。
必死に頭を回転させて、絞り出しはしたものの。
「鋭いな。俺達の仕事にはそう言った感性が必要だぞ。リーノにも教えてやってくれ」
同じスペックのロボットを、5体も作る理由が気になる。テイカーとして上を目指すならそうあるべきだ。ラリーは嬉しそうに高笑いした。
「ちょっと、この距離で大きな声を出さないでよ」
「すまんすまん、なぜ5人なのかか、そりゃ、あのソア達は活動を開始した時から、それぞれ別個体として成長している。5人いれば5人なりのアイデアが生まれるからだよ」
「じゃあなんで、8人じゃあないの?」
「簡単な話だ。2体はバーガーの実家にいるからな」
1体はソアラとして、1体はソアとして家族と共に過ごしている。
「残りの1人は?」
「実験中だ。1人分の能力値で3人分のAIに振り分けて、それぞれが一人前の仕事をこなせるか? のな」
3人分のAIと聞かされて、リリアはピンときた。
「モビールの3人?」
「ああ、そうらしい。だがなんだ、詳しい事はよく分からん。これ以上はソアかソアラに聞くんだな」
ティンクからベルが生まれた。それと同じ技術が使われているというが、そういわれたところでラリーには理解できなかった。
「なるほどね。分かったわ。リーノのことはソアとソアラさんに任せる。何らかの答えが出るまでには時間が掛かる。それで、待っている間はどうするの?」
「そうだな。とりあえず今からでも優勝を目指すか」
アポースに会って、聞かなければならないこともあるが、エリザをどうするかはまだ何も決めていない。
ヴァンの動きも気になるが、今はどうしようもない。
少し時間を置いて考えをまとめるには、このレースは都合がいい。
ドン・ブックレット号とグラップレイダー号は、ただ単にレースをしているにすぎず、怪盗セレブ号のヘレーナ=エデルートはコースを離脱していった。
クーランゲル号も姿をくらましたままで、ドクトルはリタイアした。
「トップのミリシャに、ブルーティクスもレースは続行中か。まだ追いつけるな」
ウイスクで現状を確認、ラリー達はコントロールルームに入り、カートとアンリッサに「勝つぞ!」と、リーノの件を話す事なく宣言した。




