Episode25 「……まいったな」
シュピナーグからの反応は、キリングパズールの制宙権にある、資源衛星近くで途絶えていた。
その理由をシュピナーグに近づいて、アースラが感知した。
『電源が完全に落ちてるよ』
微弱ながら追うことのできた、リリアーナの反応を辿っていて、先にシュピナーグを発見したのだが。
「中はどうなってる? アースラ」
『う~ん、シュランちゃんが返事してくれないから、よく分からないよ』
「生命維持装置まで止めてるんじゃあないだろうな。カート頼む」
カートは夜叉丸を横付けにして、シュピナーグのキャノピーから、中を覗き込む。
『中にいるのは1人だけだぞ』
『空調抜きでか?』
『サクヤ、中に入ってシュピナーグを再起動してくれ』
『わかりました。カート兄様、お任せを』
程なくシュピナーグの電源は入るが、シュランはウイルスに感染していて、簡単には起動することができない。
『ヘルメットはちゃんとしているようだな』
『カート兄様、シュピナーグ内部から、生命反応を確認出来ます』
『生きているという事か』
「よし、シュピナーグを引っ張って戻ろう、夜叉丸で引っ張っていってくれ」
『ああ、いいだろう』
夜叉丸のアームでシュピナーグのウイングを掴み、なるべく慎重にベルトリカへ運ぶ。
『ラリー』
『なんだティンク』
『リリアーナを発見したの。そちらも応答がないから、迎えに行ってあげて』
『了解だ』
小惑星に不時着したリリアーナを、探索していたソアが発見、ティンクがカメラを向けて確認をし、ラリーに報告した。
遠隔でチェックしたところ、機体は無事なようだが、どうやらリリアは気を失っているらしい。
アークスバッカーはマグネットアンカーを使って、リリアーナを持ち上げてベルトリカに帰投した。
「何がどうなってんだ?」
戻ってきたラリーは、カートに話し掛け、シュピナーグの状況を聞いた。
「乗っていたのはクララリカ=クニングスだけだったぞ。リーノの姿はどこにもなかった」
「嬢ちゃんもリリアものびたままじゃあ、何も分からないか」
「メディカルルームに運んだ方がいいな」
「そうか、それじゃあ嬢ちゃんの方を頼む。俺は向こうを連れて行く」
「分かった」
二人の回復を待っている間、ソアとティンクが、クーランゲル号の足跡を辿ろうとするも、何の痕跡も掴む事ができず、やがて気を失っていた二人がほぼ同時に目を覚ましたので場所をブリーフィングルームに移した。
「落ち着けリリア」
「だって、こいつがリーノを!!」
顔を合わせた途端、クララに飛びかかっていった妖精は、その小さな手で大きな頬を張り飛ばした。
恐らくは赤ん坊にぺちぺちとされた程度の感触だろうが、クララは大袈裟なくらいに首を横に振った。
その表情は何かを後ろ暗く思う者のそれだった。
フェラーファ人には厄介な仕来りがあるので、無闇に触れる事ができない。
最前の策として、リリアを虫取り編みで捕まえて、今は虫カゴに入ってもらっている。
大声で喚き散らしているリリアの言葉にも、耳を傾けてやりたいが、冷静に話を聞けそうなクララから、先ずは話してもらうことにした。
「ヴァン=アザルドの手駒だな」
「なぜ!?」
塞ぎ込むクララが面食らった表情で顔を上げた。
「ずっと確証はなかったんだがな。リーノと一緒に初めてやった時に、お前さんはリーノの射撃の邪魔をしていたし、その妙なキャラクターで、事ある毎に、俺たちを引っかき回してくれたからな」
表情を消して、また黙り込むクララをそっとしておき、ラリーはリリアの入ったカゴのミュートスイッチをオフにした。
「なんだ、静かじゃあないか」
「こんな扱いされて、やっと分かったわよ。ラリーはちゃんと、私をプロとして見てくれているのよね?」
「そんな恥ずかしい質問には答えてやらん。何があったのかさっさと報告しろ」
カゴから出て、リリアはクララの正面に足を組んで座り、しっかりと彼女の顔を見ながら、何があったのかを語り出した。
「クーランゲル号はレースを完全に放棄して、コースを離れ、恐らくはキリングパズールのゲートウェイに、向かっていたんだと思うの」
シュピナーグはステルスモードで、気付かれないよう相対距離を測り、十分に注意をしながら、クーランゲル号を追跡していた。
「うーん、何かを企てているようでもないよな」
「ちょっと待って、リーノ。なんかおかしいよ」
コパイロットシートのクララが、クーランゲル号のちょっとした異変に気付く。
「ゲートウェイに向かっていると見せかけて、進路が少しずつ逸れていっているみたい」
相手の目的が分かっていないので、どこを目指しているのかも分からず、どうするべきか。
リーノは頭を働かせた。
「リリアーナでクーランゲル号に、近付いてみてくれないか?」
『お安いご用よ』
ステルスモードであっても、シュピナーグではこれ以上、相手に気付かれずに近付く事はできない。
だがリリアーナのステルスモードなら、うまくすれば、船体に取り付くこともできる。
そのリーノの判断自体は、間違ってはいなかっただろう。
ここでまさかの伏兵が現れるなんて、考えてもいなかった。
「戻れ、リリア!」
資源衛星の周辺にある、多くの岩塊の陰から、所属不明のモビールが多数出てきた。
乱入者の狙いは、シュピナーグ及びリリアーナ。
『な、なによこいつら!? きゃぁ~!!』
「リリア!?」
謎の集団がリリアーナを襲った。
直撃は躱したが、衝撃で資源惑星まで飛ばされるリリアーナを、リーノは追おうとするが、襲撃者にシュピナーグを包囲され、身動きが取れなくなる。
「ひぃ、ふぅ、7機か。クララ、ミサイル散撒いたら……、えっ……?」
突然リーノは原因不明の睡魔に襲われる。
「くっ! どう……して?」
必死に目を開け、顔を上げると、クララはヘルメットを被って、手の平サイズの筒をこちらに向けている。
間違いない、この睡魔はクララが撒いた薬が原因だ。そう気付いた時にはもう遅かった。
「ごめんね、リーノ」
それがリーノが覚えている最後の言葉だった。
といった内容の事を、撃墜されたリリアーナの知らない部分も含めて、クララは淡々と語って聞かせた。
当然、シュランをウイルスで汚染したのもクララである。
「それでその命令を出したのが、ヴァン=アザルドなんだな」
「いいえ、ローグ=エドフォードという、警視の命令で」
「分かりやすい嘘を……」
今出た名前は、確かに今回のレースに大きく関わっている人物だが、クララがヴァン=アザルドと繋がりがある事は疑いようがない。ラリーはそう考えている。
「このまま問い質しても、本当の事は言わないか」
こうなったらカートの諜報術で、催眠状態にして吐かせるか。
「どうだ?」
「止めておこう。どうやらこいつは知っているようだからな。自己暗示を強化している瞳をしている」
フウマの術の弱点を、一介の警察官が知っている訳がない。
だが彼女がA級犯罪者と、何らかの関係があるとなれば話は別だ。
「あの野郎と繋がっているっていうのも、俺の勘でしかないが、あいつならフウマの事を知っていてもおかしくないからな」
最初の鎌掛けにクララが反応したと言っても、今は完全なポーカーフェイス。
「長くなりそうだな」
「その心配はいりませんよ」
「アンリッサ、戻ったか」
ドン・ブックレット号に残り、二人の年長者の話を聞いていたアンリッサが帰ってきた。
タイムリーな情報を手に入れて、ラリーの難問解決に役立つ報告をしてくれた。
「エリザ=アザルド?」
誰の事だ? とラリーが問うまでもない反応が見られた。
「アポース巡査長は、ずっとクララリカ巡査の事を探っていたそうです」
徐々にクララのポーカーフェイスが崩れていく。
「あなたはヴァン=アザルドに捨てられたのだそうですね」
アンリッサの口から決定的なキーワードが出たようで、18歳の巡査は憚ることなく大声で泣き出した。




