Episode24 「もう、この仕事も終わりだな!」
「はじめましてね、英雄フィゼラリー=エブンソン。あなたの事はよく知っているけどね」
スーツ姿の女性が頭を下げる。
「はじめてでしたかね? 俺もあんたの事はよく知ってるぜ、サルエラ=ブレエレラ最高議長」
お互い報道でよく知った顔が目の前に。
「本当にあんたが怪盗なのか?」
「クレマンテに聞いていて、全部知っているんじゃあないの?」
「おやっさんをクレマンテと呼ぶ間柄なのかよ」
二人が同年代である事は間違いない。
「そうなの。ぼーやはまだ、あの男の正体を知らないのね?」
「気になる言い方をするじゃねぇか」
ニュースで見る彼女と振る舞いが違いすぎる。ライトを挑発しているのか?
「けどそんなもんは知りたかねぇよ。喋りたいって言うんなら、聞いてやるけどよ。こっちの質問にも答えてもらうぜ」
弱みを握れるのなら聞いてみたいが、今はそれどころでないことをラリーも心得ている。
「あの老害、いつも私の邪魔ばかり……」
小声で聞こえていないと思っているのだろうか?
「なんだよ、おやっさんのことかよ」
老害と聞いて連想されるのは同じ人物。ラリーも大概失礼である。
「全く何が元老よ。表舞台にいて評議会をまとめている私の方が……」
「愚痴なら他で溢してくれ、俺も忙しいんだ」
眉間に皺を寄せ、ブツブツと罵っているを、黙って聞くのはここまで。
「あらそう? じゃあ私はお暇するわね」
「おい待て、俺が用のあるのはあんた……」
「じゃあねぇ♪」
引き留める間もなく、セレブ号の船長席に座ったまま、シートはリフトダウンしていき、サラエボは脱出用モビールへ乗り込み、飛び去ってしまった。
「なんなんだ、まったく」
「どうするの? ラリー」
「どうするもなにも、まさかの手際で逃げられちゃあ、どうしようもないだろう。相手が最高評議員様じゃあ、ティンクに取り押さえさせる訳にもいかないしな」
ラリーは来た道を引き返し、シャトルでカートを待つ事にした。
「手伝いに行かないんだ」
「狭い船内だからな。俺もお前も、行けば邪魔になるだろうぜ」
サブコントロールは広めに作られているようだが、4、5人で暴れられるほどではない。
後は相棒を信じて待つのみ。
ソニアル=フェアリアは膝をついた。
さっきまで平然としていたのに、急に息を切らせて、目も虚ろになっている。
「どうしたの!?」
「イズライトの使いすぎだ。しかも進化した能力となれば、体への負担は計り知れないだろう」
イズライトと言う、特殊な能力を駆使する為には、精神力を大きく消費する。
使い方を間違えれば、廃人となってしまう諸刃の剣。
「コピー能力を乱用しすぎたな。彼女を潰したくなければ休ませてやれ」
ここでソニアに脱落されては困るが、カートの指摘を認める他ない。
「ヘレーナ=エデルート、ソニアル=フェアリアがこんな状態では、お前も彼女の恩恵は受けられまい」
そこまでカートは見抜いていた。これではもう……。
「ここまでって事ね」
流石に観念したヘレンは、意識を失ってしまったソニアを支え、膝をついたままカートを見上げる。
「それじゃあカート、あなたには退場してもらうわね」
「なに!?」
ヘレン達に注意がいっている間に、すっかり囲まれてしまっていた。
「これはドン・ブックレット号にいたボールか。それがなぜここにいる?」
「なんか滅茶苦茶量産されていたから、ちょっとくらいくすねても大丈夫だと思って、頂いてきたのよ」
ちょっと?
ざっと見ただけでも、20機はいるのではないだろうか?
「失敗作だって、廃棄された物よ。たかがフレームの設計ミスで、人型にならないってだけで」
ボールは手足を伸ばして四足歩行する。首が伸びてまるで。
「亀だな」
「この形が一番効率が良いんですって、人の形を無理矢理取らせる方が、どうかしているそうよ」
「お前に聞かなくてはならない事が、また増えたな」
「だから、もうあなたに用はない。退場を願うって言ってるでしょ」
ボールがカートを襲い、その間にヘレンはソニアを抱えて部屋を出る。
隔壁は閉じられ、カートは閉じ込められてしまう。
カートは端末に取り付いて、改めてシステムを乗っ取ろうとするが、時既に遅く。
「分離?」
『サブコントロールを失うのは痛いけど、あなたという邪魔者を排除するためなら、仕方ないわよね』
電脳空間に潜るのを止めて、カートは普通にコンソールを操作する。
どうやらこのブロックには、推進装置の類はないようだ。
『安心していいわよ。お仲間のシャトルが向かっているわ。またね、カート』
ベルトリカのシャトルが、サブコントロールにドッキングする。
その間に怪盗セレブ号は遠ざかっていった。
「まんまとしてやられたな」
「お互いにな」
情報の確認も収集も叶わなかった。今回のミッションは失敗。
二人揃っての行動で、これほどの惨敗はいつ以来だろうか。
「まぁ、今回、向こうは、万全の準備を整えていたわけだからな」
分かった事と言えば、この件に銀河評議会最高議長が本当に関わっていた事と、ガードロボットのボールをヘレンが手に入れたと言う事だけ。
「そういや気になる事を言ってたな。アポースのおやっさんが元老だとか何とか」
「元老?」
何度となく評議会とはかなり密に接して、様々な仕事をしてきたベルトリカだが、今まで元老なんて言葉は、一切聞いたことがない。
フウマの里の諜報員でもあるカートなら、もしかしたら何か知っているかもと思ったのだが。
「銀河評議会顧問役員を差す隠語ね。その権限は最高議会よりも高いとか」
「なんだソア、知ってるのか?」
向きを変え、ソアへ顔を向けるラリーが真剣に聞く。
「詳しい事は何も知らないわよ。ただ家に来る色んな偉い人が、話しているのを聞いて、そう言うのがあるって知ってる。その程度よ」
それでも元老という言葉が、本当にある事は分かった。
今はそれだけで良しだ。ラリーは頭を切り換えた。
「これでこのレースでの依頼は、全て完了でいいんだよな。後はティンクに任せて俺は……」
レースに勝つ事が目的ではないし、完走をする必要もない。
ベルトリカはフルオートで航行する事ができる。多少酒を飲んでいたって、問題はないはず。と、ラリーは考えている。
『クーランゲル号のこと、もしかして忘れてるの?』
「あっ!」
「あっ! じゃあないだろう。しっかりしろよリーダー」
ティンクの突っ込みに、間抜けに返すラリー、カートが深い溜め息を吐く。
「リーノから連絡があったのか?」
『何もないから心配してるんでしょ!?』
「なるほどな」
シュピナーグの位置情報は掴めているから、ティンクもいうほど心配はしていないが、いつもなら度を超して報告を寄せてくる、あのリーノが沈黙しているのは怖い。
「追跡任務中だからじゃあないのか?」
「それならいいけど、本当に何かあったんだとしたら、こっちも追いかけた方がいいんじゃない?」
ソアの意見はもっともだ。
『向かって良いんだよね』
「ああ、向かってくれ。俺達も戻り次第コントロールルームに入る」
シャトルは最大出力でベルトリカを追いかけ、ティンクは巡航速度で仲間を待つ。
「ボクたちはベルトリカに着いたら、このボールの事を調べてみるね」
「ああ、頼むぞオリビエ。ヘレーナ=エデルート一味に、こんなものを改造できる奴はいないはずだ」
どれくらいの技術力で改造すれば、一瞬でもカートを足止め出来る機動力が作り出せるのか?
「ドン・ブックレット号のボールは、完成品だとは言っていたが、性能はそれほどでもなかったぞ。カート」
「なんでそっちも貰ってこなかったかなぁ」
「無理言うなよ。ソア」
シャトルはベルトリカに追いつき格納庫へ、ティンクは最大加速でシュピナーグの跡を追った。




