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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
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Episode23 「侵入は派手に! が一番だな」



 怪盗セレブ号を視認出来る距離まで近付き、先陣を切るソアロボット・ミニのミニカー部隊が取り囲み、無理矢理減速させる。


「海賊のやり口だな」


「そう言うなよカート。あの船を逃がすわけには、いかないんだからよ」


 突入するのはラリーとカート、そしてソアとオリビエ。


 実はアンリッサ、あのドン・ブックレット号に、アポースと共に残っていて不在。


 つまりベルトリカチームはティンクに船を任せて、全員でセレブ号へ乗り移る算段になっている。


 潜入部隊を乗せたシャトルが飛び出した後、『私たちを忘れるなぁ~!!』というアースラの叫びと、シャトルのモニターに顔を見せたサクヤのあっかんべぇが、二人の英雄に変な汗を流させた。


「オリビエは絶対に無理をするなよ。俺とソアが先に乗り込む。カートはいつも通り頼んだぞ」


 外に出ているミニは10機。


 カートがシステムを丸裸にし、中央制御回路を、臨時サポーターのベルが制圧している間に、残りの15機のロボと共に、ラリーたちが一直線に船橋を目指す。


「ここだな」


 ラリーとソアは船員どころか、ガードロボットの一体とも出くわすことなく、コントロールに到着している。


「巨大建造物とは言え、船なんてコンピュータ制御が行き届いていれば、1人でも動かせるからね」


 船員が防戦体制を取っていようと、ガードロボットがどれだけ配置されていようと、カートとベルが敵を抑えてくれる手筈だった。


「マジで操船は一人とか、そもそもの防備が、全く為されていないとか、本当かよって感じだな」


 まさかの展開に、この隔壁の向こうがどうなっているのかが怖くなる。


「この映像は本物か?」


「そのはずよ。カートの目も私の解析も誤魔化せるような、想定できない何かがなければね」


 つまり中にいるのは、サラーサ=ファンビューティーこと、サルエラ=ブレエレラ最高議長となる。


「悩んでてもしょうがないでしょ」


「そうだな、さっさと済ませて、ゆっくりしてぇからな」


 ロックのかかっていない隔壁を開け、二人は船橋に足を踏み入れる。






 カートは電脳空間の支配を終え、自らも怪盗セレブ号に入る。


 ヘレーナ=エデルートのいる場所は分かっている。


 カートは彼女がこの件に、どう関わっているかを見極めるのが任務。


 何より彼自身、ずっと気になっていたことを、そろそろハッキリさせたい。


 カートの向かうのは、船首にあるサブコントロールルーム。


 ヘレンは当然カートが近付いている事を知っているだろう。


 しかし今のところは、脱出を計る様子はないと、見張りのベルが報告してくれる。


「遅かったわね。もっと早く来ると思っていたけれど」


「ヘレーナ=エデルート、連れてきたのはソニアル=フェアリアだけか?」


「そうよ。私は怪盗が欲しがっている情報を提供する。その為だけにここにいるのだもの。報酬はお金」


 カートは目を瞑る。


 ベルトリカに接触したヘレンは、これまで何をしてきただろう?


 最初はガテンに入り込んだ、ヴァン=アザルトの手勢を排除するために、協力者としてベルトリカと合流。


 その実は金色の船、イグニスグランベルテを手に入れる事が目的だった。


 第一接触では、目的を果たせなかったヘレンは、今度は赤の船に目をつけた。


 ただしランベルト号を海賊から奪取するのではなく、古代遺産の超科学文明を分析した情報を欲していた。


「お前が俺たちの周りを、ウロチョロしている本当の理由はなんだ?」


「ウロチョロ? 別にあなた達に付きまとっているわけではないわ。どちらかと言えば、あなた達が私を追い回しているんじゃあないの?」


「なるほどな、そんな考え方もあるのか」


「あなたのそう言うところ、うざいわ」


 フウマの技術に尋問術というのがある。相手を催眠状態にし、無意識に相手に話させる技である。


「私に通用するとでも?」


「いくらお前でも、意識を無くせば、記憶なんて簡単に読み取れるさ」


「意識のない人間にどう話させるって言うの」


 軽くバカにしたように嘲り笑う。


「俺のイズライトの能力の1つだ。人の脳を電脳空間として潜れるのさ」


「……本当に規格外の化け物ね。昔からだけど」


 戦闘態勢に入るカート、立ちはだかるはソニア。


「お前の考えも聞かせてもらおうか?」


 戦闘訓練を積んできたフウマの諜報員の前に立つ、非戦闘員の妖精族。


 しかし彼女の能力は。


「そこいらのチンピラより、ずっと使えるようになったな」


 ソニアル=フェアリアのイズライトには、他人の能力をコピーする力がある。


 まだ日は浅いが、ヘレンの傍で荒くれ共に混じってきた、侮れない経験値を蓄積している。


「いくらあなたでも私たち相手に、手加減なんて、考えていられるのかしら」


 たとえソニアが、指名手配を受けるほどのクリミナルファイターに成長していても、そこに加わるのが、情報部のヘレンでは、カートに敵うわけもない。


「ふふふっ、私を見くびると……」


「侮ってなどいない。だが俺を倒しても、ここから出て行く事はできないぞ」


「それって、この船のメインシステムへの、あなたがした工作のことを言ってるの?」


『ごめんなさい、カートおニィちゃん。ベルが支配した電脳スペースはダミーだったみたい』


「そうか。そいつは俺の落ち度だ。すまないがソアとコンタクトをとって、どうにかならないか検討してくれ」


『分かった。ソアママにお願いしてみる』


 AIのベルが謝ってくれたが、判断を誤ったのは間違いなくカートだ。


「流石だなヘレーナ=エデルート」


「お褒め頂き、嬉しく思うわ」


 ソニアが姿を消した。


 その移動速度はデルセン=マッティオに匹敵する。


「どういう事だ? ソニアル=フェアリアの能力では、コピー元に劣る力しかだせなかっただろう」


「ソニアは能力を限界を超えて、最大限に使えるようになったのよ。すごいでしょ」


 カートの烏丸はファクトリー謹製、フウマの里の物にも引けを取らない逸品。


 ソニアの手にある刀は、おそらく里の物を手に入れたのだろう、刃こぼれ一つ付けず、カートの一撃を押し返してきた。


「これはバシェット=バンドールの力か」


「あなたも能力を向上させたみたいじゃない」


 確かにソアとオリビエが用意してくれた、サポートAIのお陰で電脳空間の支配力は飛躍的に伸びた。


「イズライトって、まだまだ計り知れないわね。カート、あなたにもう一つ絶望的な事を教えてあげる」


 訓練以外でヘレンが刀を抜いた事はない。


「私の魅了は、最も強く影響を受けている者の能力を、同じ様に使えるようになるのよ」


 ヘレンもソニアに続き、狭い室内を駆け回る。


「おもしろい」


 カートは氣を最大限に込めて、自らを中心に四方へ火の玉を飛ばした。


「なぁに? 自棄ヤケになったの?」


 標的を決めず、飛び散る火の玉を、余裕でヘレンもソニアも躱して、カートの後ろと前から挟み撃ちを仕掛ける。


「驚きの能力だな。しかしお前達は戦闘経験が足りない」


 カートは二人の刃が届く直前に身を翻し、背後から来るヘレンの後ろに回り、背中を押して勢いを増してやる。


「きゃっ!?」


 ヘレンの刀がソニアの左肩を掠め、ソニアの刃がヘレンの左太股に突き刺さる。


「その怪我では、もう走り回る事はできないだろう」


 刺さった刃を引き抜き、ヘレンは刀をソニアに返す。


「この程度ならまだ動ける。私だって里の諜報員よ」


 ポケットから薬を出して、ヘレンは患部に塗り込む。


「そんな物まで持っていたのか」


 それはフウマの里で昔から、代々製法を受け継いできた秘伝の塗り薬。


 痛覚を麻痺させる薬は、その場を凌げても、十中八九後遺症が残る。


「そこまでして、お前は本当に何を望んでいる?」


「答えを知りたければ、私を倒しなさいな」


 痛みがなければ、氣を込めることで、麻痺して動かせないはずの足を操ることができる。勝負はこれから。


「ソニア、もう一度いくわよ。……ソニア?」


「早かったな」


 状況の変化はカートの予想よりも早く訪れた。

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