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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
82/144

Episode22 「誰も俺の言うことを聞きやしねぇ!」



「ふっ、流石はベルトリカ。流石は銀河の英雄だね」


『フォレス、ごめんなさい。ベルトリカを足止めできそうにないわ』


「大丈夫だよレイラ、こちらも大体の見極めはできた」


 フォレスは満足げに笑みを浮かべる。


「ドクトル・ヘル、サラーサ=ファンビューティー、ギブン=ホグワープもいい仕事をしてくれてたけど、流石は天下に名高いベルトリカだ」


 ミサイルを使い切った。


 ディフェンスの重力波シールドは、エネルギーの消費が著しく激しい。


「こっちも離脱するから、適当なところでそっちも引いてくれ」


 確かに奥の手はまだ残っているが、ここが引き時と判断したフォレスはブレイブティクスを分離、その突然の行動を注視している、ブラストレイカーが動きを止めたのを確認し、全速力で飛び去ってしまった。






「な、なんだ? あいつは一体なにがしたかったんだ?」


『追いますか? ラリーさん』


「うーん、その必要はないだろう」


 こちらは喧嘩を買っただけ、相手にその気がなくなったのなら、深追いする事もないだろう。


 この間にクーランゲル号が姿を眩ましたのは痛いが、それも今更ここで考えていてもしょうがないことだ。


「まぁ、嬢ちゃんの受信機には、まだ反応が残っているようだし、今からでも追えるだろう。頭を切り換えていくぞ」


 やらなければならない事は、まだ残っている。


 ブラストレイカーも合体を解除し、合流したベルトリカにアークスバッカーと夜叉丸は戻り、リーノには。


「俺達は先に進むが、悪いがリーノ、お前は嬢ちゃんとクーランゲル号を見つけて、こっそり後をつけていってくれ」


『了解しました』


「リリア、二人を頼むぞ」


『任せといて』


「リーノもクララリカ巡査長も、三人とも疲れているだろうが、気をつけてな」


『はい!』


『あの、……ありがとうございました』


 リリアーナを上面に張り付かせた、シュピナーグは加速をし、ベルトリカから離れていく。


「今まで、と呟いたか?」


 クララの返礼が気になったが、ラリーたちにも考えている時間はない。


「さて、レースはまだ半分も残っているのに、そろそろ大詰めって感じだな」


 コントロールルームには入らず、二人はレクリエーションルームで次の目標について、話し合う事にした。


「お前の言っていたタイミングは今なのか?」


「ああ、邪魔の入らない、今がチャンスだ」


 トップを走るのはミリーズパイレーツのキャンショット・キャリバー号。


「本気でレースだけしてるのって、あいつだけじゃあないのか?」


 サラーサ=ファンビューティーの怪盗セレブ号が後を追っているが、その差は今日明日で抜けるほどではない。


「ミリシャのとこと、このセレブくらいだからな、もうまともにレースしてるのは」


 グラップレイダー号が追随するが、既にレースとは関係ない状態にあし、ドン・ブックレット号にクーランゲル号はリタイアに近い状態で、ドクトル・ヘルのデルゼルブス5228号はとっくに棄権している。


「ブルーティクスはどうなんだ?」


「確かに介入しようと思えば、邪魔は可能だろうが、心配ないさ。大丈夫だ」


「自信満々だが、その根拠は?」


「勘だ」


 カートは言葉を失うが、この相棒がここまで言うのだから、何か理由はあるのだろうが、それを語る気もないのだと理解をしている。


「ティンク」


『はぁ~い』


 今、ベルトリカで起動中の全AIの元となる、ベルトリカのホストコンピューターを勤める人工知能は、いつも必要以上に陽気だ。


「上位に追いつくのは、早くて何時くらいだ?」


『許可をくれれば、今日中にグラップレイダーを追い抜けるよ』


「リーノ達も長くは待ってられんだろう。許可するから最短時間で突っ走れ」


『おっけ~』


 このレース、長丁場なだけに空き時間も多い。


 と言っても今日中という事は、あと2時間もない。


「一杯付き合わないか?」


「やめておけ、今日は濃密な活動が続いた。休める時は休むべきだ」


「マジメだな」


「それに今からでも、お前のペースで飲んだら、作戦に支障が出るくらいに飲んでしまうだろう?」


 その意見はもっともだが。


「たかが1、2時間飲んだくらいでどうにかなったりしねぇよ」


 当然に忠告をされた程度で、それに応じるラリーではない。


『思い通りにはいかないよ』


 今まではティンクがどんなに注意しても、ティンクに邪魔をする事はできなかった。けれど……。


「おいこら、ボトルを持っていくんじゃあねぇ!?」


 棚にあるラリーのお目当てを、ソアロボット・ミニが先に手に取り、持ち上げて逃げ回る。


「くそぉ~、そんな手があったのか」


 隠してあった全てを取り上げられ、それを追いかけまわす気力はない。


 流石にもう諦めるしかない。


 ラリーはポケットから取り出した一本を、一気に飲み干して、大きなため息を漏らした。


「これっぽっちかよ」


「いや、俺はお前のその根性に呆れを通り越した、感心を抱いているぞ」


 この相棒のほとほと呆れた顔は見慣れているが、いくらラリーでも愉快な物ではない。


 たった一本で満足もしていないし、寝て過ごすにはクールダウンもできていない。


 それに。


『グラップレイダー号が見えてきたよ』


「予定より随分と早いじゃあないか」


『がんばりましたから』


 時間短縮はありがたいが、想定していた時間と言うものがあるのだから、ちゃんと報告をして欲しい。


『そんな報告はいらない、結果だけを教えろって、ラリーが言ったんじゃない』


「ああ……、そうだったな」


 深いため息を吐くカートは視界に入らなかった事にして、ラリーは腰を上げてコントロールルームに入る。


「それで、目標にはどのくらいの時間で追いつく? 今度はちゃんと正しい時間を報告してくれ」


『グラップレイダーに追いつくまでの時間だって、ちゃんと計算したんだよ。なんで向こうが急に減速したかなんて知らないよ』


 ベルトリカが近付くのを察知して、グラップレイダーは進路を変えた。


「次だ、ティンク。目標までは?」


『日が変わってすぐには並べるかな』


 レース前のベルトリカの速力は、ランベルト号に匹敵していた。


 しかしこのレース中に、ベルトリカは大幅な能力の向上が見られ、最高速度は更に伸びていた。それは今も。


「本気で言っているのか?」


「他に考えられるか? 今まで確かにベルトリカはサポート役で、あまり前に出して運用してこなかった。この古代文明の資産の性能を上げるためには、実戦データが必要だったんだよ」


「ご都合が過ぎるな」


「まぁ、その実証は追々だな」


 休養も不十分だが、寝ずの行動はいつもの事。


『整備は終わったよ。間に合って良かった』


「オリビエ、休めって言っただろ」


『ボクだってチームの一員だよ。全力を尽くすのは当然だから』


『こっちも準備オーケー。私のロボットもミニも万全よ』


「ソア、お前まで」


『オリビエが言った通りよ。それに今度は派手に強襲をかけるんでしょ! 人手は多い方がいいじゃない』


「ったく、しょうがねぇな」


 ソアの顔を見たら、ミニの事で文句を言ってやろうと思っていたが、そうもいかなくなった。


 自嘲気味にため息を吐き、ラリーは目標を定める。


「よぉーし、俺達の目標は怪盗セレブ号。サラーサ=ファンビューティー。いや、銀河評議会最高長、サルエラ=ブレエレラ」


「その実行役が、ヘレーナ=エデルートか」


「そっちは任せるぞ。カート」


「まったく……、いつまでも俺達に付きまとうつもりか知らんが、本当に迷惑な奴らだ」


「あいつらを押さえ込み、サルエラにたどり着き、おやっさんが言っていた怪しいエリートの後ろ盾を経てば、クーランゲルの件も片付くだろう」


 さっさと事を済ませるため、全力を尽くす。


 ラリーは改めて、オリビエとソアに対する礼を口にし、熱でもあるのかと心配されるのだった。

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