Episode22 「誰も俺の言うことを聞きやしねぇ!」
「ふっ、流石はベルトリカ。流石は銀河の英雄だね」
『フォレス、ごめんなさい。ベルトリカを足止めできそうにないわ』
「大丈夫だよレイラ、こちらも大体の見極めはできた」
フォレスは満足げに笑みを浮かべる。
「ドクトル・ヘル、サラーサ=ファンビューティー、ギブン=ホグワープもいい仕事をしてくれてたけど、流石は天下に名高いベルトリカだ」
ミサイルを使い切った。
ディフェンスの重力波シールドは、エネルギーの消費が著しく激しい。
「こっちも離脱するから、適当なところでそっちも引いてくれ」
確かに奥の手はまだ残っているが、ここが引き時と判断したフォレスはブレイブティクスを分離、その突然の行動を注視している、ブラストレイカーが動きを止めたのを確認し、全速力で飛び去ってしまった。
「な、なんだ? あいつは一体なにがしたかったんだ?」
『追いますか? ラリーさん』
「うーん、その必要はないだろう」
こちらは喧嘩を買っただけ、相手にその気がなくなったのなら、深追いする事もないだろう。
この間にクーランゲル号が姿を眩ましたのは痛いが、それも今更ここで考えていてもしょうがないことだ。
「まぁ、嬢ちゃんの受信機には、まだ反応が残っているようだし、今からでも追えるだろう。頭を切り換えていくぞ」
やらなければならない事は、まだ残っている。
ブラストレイカーも合体を解除し、合流したベルトリカにアークスバッカーと夜叉丸は戻り、リーノには。
「俺達は先に進むが、悪いがリーノ、お前は嬢ちゃんとクーランゲル号を見つけて、こっそり後をつけていってくれ」
『了解しました』
「リリア、二人を頼むぞ」
『任せといて』
「リーノもクララリカ巡査長も、三人とも疲れているだろうが、気をつけてな」
『はい!』
『あの、……ありがとうございました』
リリアーナを上面に張り付かせた、シュピナーグは加速をし、ベルトリカから離れていく。
「今まで、と呟いたか?」
クララの返礼が気になったが、ラリーたちにも考えている時間はない。
「さて、レースはまだ半分も残っているのに、そろそろ大詰めって感じだな」
コントロールルームには入らず、二人はレクリエーションルームで次の目標について、話し合う事にした。
「お前の言っていたタイミングは今なのか?」
「ああ、邪魔の入らない、今がチャンスだ」
トップを走るのはミリーズパイレーツのキャンショット・キャリバー号。
「本気でレースだけしてるのって、あいつだけじゃあないのか?」
サラーサ=ファンビューティーの怪盗セレブ号が後を追っているが、その差は今日明日で抜けるほどではない。
「ミリシャのとこと、このセレブくらいだからな、もうまともにレースしてるのは」
グラップレイダー号が追随するが、既にレースとは関係ない状態にあし、ドン・ブックレット号にクーランゲル号はリタイアに近い状態で、ドクトル・ヘルのデルゼルブス5228号はとっくに棄権している。
「ブルーティクスはどうなんだ?」
「確かに介入しようと思えば、邪魔は可能だろうが、心配ないさ。大丈夫だ」
「自信満々だが、その根拠は?」
「勘だ」
カートは言葉を失うが、この相棒がここまで言うのだから、何か理由はあるのだろうが、それを語る気もないのだと理解をしている。
「ティンク」
『はぁ~い』
今、ベルトリカで起動中の全AIの元となる、ベルトリカのホストコンピューターを勤める人工知能は、いつも必要以上に陽気だ。
「上位に追いつくのは、早くて何時くらいだ?」
『許可をくれれば、今日中にグラップレイダーを追い抜けるよ』
「リーノ達も長くは待ってられんだろう。許可するから最短時間で突っ走れ」
『おっけ~』
このレース、長丁場なだけに空き時間も多い。
と言っても今日中という事は、あと2時間もない。
「一杯付き合わないか?」
「やめておけ、今日は濃密な活動が続いた。休める時は休むべきだ」
「マジメだな」
「それに今からでも、お前のペースで飲んだら、作戦に支障が出るくらいに飲んでしまうだろう?」
その意見はもっともだが。
「たかが1、2時間飲んだくらいでどうにかなったりしねぇよ」
当然に忠告をされた程度で、それに応じるラリーではない。
『思い通りにはいかないよ』
今まではティンクがどんなに注意しても、ティンクに邪魔をする事はできなかった。けれど……。
「おいこら、ボトルを持っていくんじゃあねぇ!?」
棚にあるラリーのお目当てを、ソアロボット・ミニが先に手に取り、持ち上げて逃げ回る。
「くそぉ~、そんな手があったのか」
隠してあった全てを取り上げられ、それを追いかけまわす気力はない。
流石にもう諦めるしかない。
ラリーはポケットから取り出した一本を、一気に飲み干して、大きなため息を漏らした。
「これっぽっちかよ」
「いや、俺はお前のその根性に呆れを通り越した、感心を抱いているぞ」
この相棒のほとほと呆れた顔は見慣れているが、いくらラリーでも愉快な物ではない。
たった一本で満足もしていないし、寝て過ごすにはクールダウンもできていない。
それに。
『グラップレイダー号が見えてきたよ』
「予定より随分と早いじゃあないか」
『がんばりましたから』
時間短縮はありがたいが、想定していた時間と言うものがあるのだから、ちゃんと報告をして欲しい。
『そんな報告はいらない、結果だけを教えろって、ラリーが言ったんじゃない』
「ああ……、そうだったな」
深いため息を吐くカートは視界に入らなかった事にして、ラリーは腰を上げてコントロールルームに入る。
「それで、目標にはどのくらいの時間で追いつく? 今度はちゃんと正しい時間を報告してくれ」
『グラップレイダーに追いつくまでの時間だって、ちゃんと計算したんだよ。なんで向こうが急に減速したかなんて知らないよ』
ベルトリカが近付くのを察知して、グラップレイダーは進路を変えた。
「次だ、ティンク。目標までは?」
『日が変わってすぐには並べるかな』
レース前のベルトリカの速力は、ランベルト号に匹敵していた。
しかしこのレース中に、ベルトリカは大幅な能力の向上が見られ、最高速度は更に伸びていた。それは今も。
「本気で言っているのか?」
「他に考えられるか? 今まで確かにベルトリカはサポート役で、あまり前に出して運用してこなかった。この古代文明の資産の性能を上げるためには、実戦データが必要だったんだよ」
「ご都合が過ぎるな」
「まぁ、その実証は追々だな」
休養も不十分だが、寝ずの行動はいつもの事。
『整備は終わったよ。間に合って良かった』
「オリビエ、休めって言っただろ」
『ボクだってチームの一員だよ。全力を尽くすのは当然だから』
『こっちも準備オーケー。私のロボットもミニも万全よ』
「ソア、お前まで」
『オリビエが言った通りよ。それに今度は派手に強襲をかけるんでしょ! 人手は多い方がいいじゃない』
「ったく、しょうがねぇな」
ソアの顔を見たら、ミニの事で文句を言ってやろうと思っていたが、そうもいかなくなった。
自嘲気味にため息を吐き、ラリーは目標を定める。
「よぉーし、俺達の目標は怪盗セレブ号。サラーサ=ファンビューティー。いや、銀河評議会最高長、サルエラ=ブレエレラ」
「その実行役が、ヘレーナ=エデルートか」
「そっちは任せるぞ。カート」
「まったく……、いつまでも俺達に付きまとうつもりか知らんが、本当に迷惑な奴らだ」
「あいつらを押さえ込み、サルエラにたどり着き、おやっさんが言っていた怪しいエリートの後ろ盾を経てば、クーランゲルの件も片付くだろう」
さっさと事を済ませるため、全力を尽くす。
ラリーは改めて、オリビエとソアに対する礼を口にし、熱でもあるのかと心配されるのだった。




