Episode20 「今どきの警察は……、まったくよぉ!」
『まずい不味いマズイよぉ~、ソアぁ~~~~~!!』
「落ち着いてリリア、まだ保つから! と言ってもこのままじゃあ、いつオーバーヒートしてもおかしくないか」
リリアーナは絶賛絶対防衛戦を死守する真っ最中。
クーランゲル号、レースを目的とした高速船としては、桁外れの大きさで、一般的な高速船なら、簡単に着艦させられるほどの大きな格納庫を持っている。このレースでも活躍するドック船並みだ。
『もうこの船、壊しちゃっても、いいんじゃあないかな?』
ソアが相手の要望を断ったら、攻撃を受ける羽目となった。
「ダメに決まってるでしょ。正式な警察所有の船よ」
相手からの攻撃も、対人用のショックガンで、船を壊さないように加減されているので、リリアーナの防御フィールドで何とかできている。
「決定的な危害を加えてこないんだし、このままリリアーナでケーブルを繋いじゃってよ。乗っ取りが成功するまで、シャトルもケーブルも守ってね。それで問題解決!」
「いや、さっきから鳴りっぱなしの通信回線を開けば、手っ取り早いと思うよ。ワタシは」
『いくら対人用でも、30カ所から連射されてちゃ、前に進めないって』
相手の要求はシンプルだった。
「どこで間違えたのかしら?」
クララからの指示で、彼女のモビールを取ってくるように言われた。そう言って接近し、さっさとクラッキングして、必要なデータを頂こうとソアは考えていた。
うまい具合に怪しまれることなく、格納庫のハッチが開いた。
クララのモビールは今、クーランゲル内部に着艇したシャトルの隣にある。
モビールのコントロールをもらうと言って、端末にケーブルを繋ごうとリリアーナが動いたところで、攻撃が始まった。
そこで回線を開いたところ、ソアとオリビエ両名を拘束する。下手なマネができないようにリリアも捉え、人質とすると言ってきた。
慌てて回線を遮断し、今に至るのだが。
「あの人達、本当に警察の人なの? 何でワタシ達を捕まえようとしているの?」
「ねぇ、オリビエ」
「なに?」
「なんで義体なんて着ているの? 白兵戦でも仕掛けようって言うの?」
「しないよ。ただなんとなく怖かいから」
「あっそ。とにかくケーブルさえ繋がれば、カートほどじゃあないけど、音速で敵のCPUを乗っ取ってあげるから、気張りなさいよリリア!」
そのケーブルを繋ぐために、今をどうにかして欲しいリリアは、また『マズイ』を連呼しだした。
「ねぇ、ソア。ちょっと思うんだけど」
「なによ?」
オリビエはシャトルに搭載している、ラリー達実行チーム用の装備を入れた第一コンテナの隣、オリビエ達サポートチームの装備が入った、第二コンテナを指さした。
「ミニにやらせたらどうかな?」
「おおー、その手があった」
エアロックからラリーとカートがクーランゲル号に潜入した。
クララはリーノと共に外で待機、この船で何があったか分かるまでは、慎重に行動しなくてはならない。
侵入したエアロック周辺は静まりかえっている。
「ソア達は格納庫だ。シャトルから降りていない。リリアーナが戦闘中となっていたな」
「乗っ取りには成功したんだろ?」
「ああ、それなんだがな。この船のブリッジの回線には辿り着けなかった」
『あり得ない事ですが、無線でも入れない、単独運用されるシステムのようです。フェゼラリー兄様』
「サクヤ、作戦中は略称を使えと言っているだろう」
『すみません、カート兄様。もっとサクヤを叱ってください。そう、もっともっと罵ってください』
「カート、お前の趣味なのか?」
「ラリー、今後はベルトリカで食する物に、毒が入っていないか、十分注意するんだな」
ウイスクの中の妹は、『おほほほほ』と楽しげだ。
『扉の開閉装置は全てこちらの手の内です』
「それだけでも十分か。ご苦労さん、いい仕事をしてくれたな嬢ちゃん」
『サクヤですわ、ラリー兄様』
このクーランゲル号は。警察機構軍で訓練に使われる船。
宇宙でのあらゆる場面を想定して、効率よく訓練ができるように無駄に大きい。
それでいて航続距離も航行速度も、かなり優れているので、レースに参加する船に選ばれた。
無論ブリッジも重要な訓練場。
トラブルに対応するために敢えて、旧時代の異物のような不便さを実装している。
「厄介だが、奴らが自力で脱出する前に、格納庫へ行くぞ。3人はそこなんだろう?」
『はい、ラリー兄様』
「それが掴めただけで御の字だ」
ここで新しい情報を手に入れようとしても、きっと何も出てこない。
アポースの見立てが正しければ、だ。
「さっさと3人を連れ戻すぞ」
相手はどんなに緩くても警察官。
下手に手を出すわけにはいかない。
「カート、お前の術でどうにかできるんだよな」
「やってみないと分からんが、少なくとも九割は片付けられるだろう」
格納庫への隔壁はこの一枚、カートは印を組んだ手に“氣”を込める。
「行くぞ!」
ラリーが手を触れると同時に、サクヤは隔壁を開けた。
最初にカートが走り込み、続くラリーは危うく相棒の背中にぶつかるところだった。
「どうした?」
「……わからん」
格納庫は静まりかえり、動くモノの姿はない。
「リリアーナが仁王立ち?」
「オーバーヒートしたのよ」
「お、おお~、リリアか」
「うっ、なんだかまだ慣れないわね。ラリーがちゃんと名前呼んでくれるの」
「なんだ、ちびスケって呼ばれたいのか?」
「いやよ! やっと一人前に思ってもらえたみたいで、本当に嬉しいんだから」
「そ、そうか……、なんか悪い事してたみたいだな」
「それよりも、この状況について説明してくれ」
ベルトリカのシャトルとクララのモビール、眼前のリリアーナ。
壁際には転がる制服姿の男達。
「ソアの人形か」
カートはソアに似たヌイグルミを一つ、足下から持ち上げた。
『二人とも来てくれたのは嬉しいけど、ちょっと遅かったよ』
ソアに「説明するから中へ」と言われ、ラリーとカートはシャトルのコントロールに入る。
リリアはリリアーナに戻り、熱暴走が納まったのを確認して、ソアロボミニ達と共に警戒にあたる。
「2人も無事なようだな」
「いったいどうなってるの? まさか警察に身柄を抑えられようとなるなんて、思ってもいなかったわよ」
ラリーは食って掛かってくるソアをなだめる。「どうどう」と言ったら、怒られはしたが、落ち着いたところで話を続ける。
「言っとくけど、私たちから、なにかしたわけじゃあないからね!」
「対人用のショックガンだったから、大事にはならなかったけど、洒落にならないよね」
ソアロボミニの制御をベルに任せ、ゴーグルを外したオリビエの顔をジッと見つめる男。
「どうかしたの? カート」
「本当にオリビエなんだな」
「そうだけど……、この義体見るの初めてだっけ?」
「そうだな」
「そうなんだ。……どうかな?」
「いいんじゃあないか」
割と緊迫感が続く局面なのにユルユルな二人にも、いきなりの警報に少し緊張感が戻ってくる。
『ラリーさん、カートさん大変です』
「どうしたリーノ、慌てずに要点を話せよ」
『ラリーさん、早く戻ってください。俺だけじゃあ対応できません』
「お前、人の話聞いてるか?」
『は、早く!』
クーランゲル号のシステムに再度アクセスを試みたが、やはりブリッジを抑える事はできなかった。
ソアロボミニに警察官達を通路の中に放り込ませ、格納庫の空気を抜き、シャトルは外に出る。
リリアーナも警戒を解かず後に続き、シャトルに戻る。
シャトルに平行するアークスバッカーと夜叉丸に、ラリーとカートはそれぞれ乗り移った。
「これでなんてことなかったら、訓練レベルMAXで6時間だからな」
レーダーにはベルトリカとシュピナーグ。それと未確認の反応があと三つ。
「識別信号、これは本物か?」
『わかんないけど、本物だとしたら急いだ方がいいよ。パパ』
「言われるまでもねぇよ。……なに考えてんだ。あのヤロー」
夜叉丸とシャトルを残して、アークスバッカーは最大加速で最高速に達した。




