Episode16 「いつの間にか大所帯だな!」
二人だけでの行動というのは、いったいいつ以来になるのだろうか?
リーノが来るまでは当然だった、突入作戦の黄金パターン。
対象拠点の外部端末に取り付き、カートがシステムのガードプログラムを排除し、簡単な設定をこちらに優位な物に変更する。
内部に突入して、実力行使で中央制御室を乗っ取り、ラリーが端末を操作して、データを抜き取ってきた。
端末操作の役割がリーノに代わりはしたが、カートの仕事は何も変わらない。
ラリーとカートが一緒に行動する事もなくなり、リーノにどちらかが付いてやり、もう片方は単独で任務を果たす。
ここ最近はリーノ1人に任せられる仕事も増えてきた。それこそ異例の団地行動があったりもしたが、ラリーとカートが2人で動く事はなかった。
久しぶりだからと言って、パターンを変える事はない。
潜入作戦ではあるが、今まで通りドン・ブックレット号の端末に接続し、カートはイズライトで電脳を乗っ取る。
実はラリーに頼らずとも、データを吸い上げる能力もあるのだが、カートは機械音痴と言っていいほど、未だにデジタルに馴染む事ができないでいる。
しかし今回は隠密性が重視される作戦だけに、中央制御室まで進むことはできない。
「どうだ、サクヤ」
『はい、カート兄様、端末接続と同時に、警報が鳴る設定となっているのは、間違いないようです』
どんな開閉端末にもハッキング対策は、当然のように施されている。
「ちゃんと教えられた(組み込まれた)ことは理解しているようだな」
AIの相手など、できるのかが心配だったが、今のところは何も問題ない。
「実践で使うのは初めてだ。おかしな事があれば、直ぐに遮断しろ」
『大丈夫ですカート兄様、サクヤは早く兄様と一つになりたいです』
「変な言い回しを仕込んだのはオリビエか?」
『そんな、仕込むだなんて……。ソア母様にご教授頂きましたのよ』
「そうか、作戦が完了したら話し合おう。サクヤ」
『はい』
この作戦後、話し合いはしたが、カートがサクヤを変える事はできなかった。
「準備はいいか?」
『おう、周りに異常はねぇ。こっちは問題なしだ』
カートは接続端子の付いたケーブルコードを握りしめ、イズライトを発動させると、電脳空間に潜り込むことができる。
夜叉丸に専用コンソールを設置してからは、もっと精度の高いオペレーティングが可能となった。
端子はモビールのアームを使って接続するが、今回はラリーが代わる。
『接続したぞ。念のために中で警戒する』
ラリーには隠れていてもらう方がいいのだろうが、確かに隠密行動において、不測の事態に引っかかり、失敗なんてざらにある話だ。
「ああ、頼んだ。それではサクヤ」
実験では成功しているが、まだどんな問題が起こるともしれない。
それでも試験段階のプログラムを、実戦投入するのは、これ以上ない絶好のデータ収集の機会だからだ。
『お任せください。カート兄様に代わって、ワタクシが全システムを掌握してみせます』
イズライトを直接対象端末内でではなく、一旦夜叉丸内で発動してから送り込む。
「いくぞ!」
『お供します』
カートは電脳空間に意識を潜入させた。
ドン・ブックレット号の中心よりも少し後方、エンジンブロックに近い辺りのロックが解除された。
エアロックを潜り抜け、空気のあるエリアに入ってヘルメットを脱ぐ。
「さぁて、おやっさんの読みが、どこまで当たってるかが見物だな」
ラリーは異変に気付き、手近な扉を開けて身を潜める。
「あれは?」
ファイバースコープを通路に伸ばして、接続したウイスクに映し出されたのは、ゴロゴロ転がる割と大きめのボール。
「確か御曹司の所に、同じような物があるって、リーノの報告書に書かれていたな」
人影はない。
けれどここからは確認できなくとも、監視カメラはあちらこちらにあるだろう。
しかしそれも待っていれば、頼れる相棒が、監視システムごと無力化してくれるだろう。
「うーん、……ぶっ壊すか」
考えるラリーはちょうど、ボールが部屋の前を通りそうなのを見て決断する。
愛銃ベイカーショットを抜き、出力を低めに設定。
それは全くの直感のショットだった。
おそらくは定期巡回をしていたのであろうボールは、部屋の前で動きを止めた。
「よし、流石は俺だな」
ラリーは大胆にも通路に飛び出して、ボールを抱え上げようとする。
「クソ重てぇな、こいつ」
動力源を撃ち抜かれて、完全に全機能を停止している、大きな合金の塊を持ち上げるのは一苦労。しかたなく蹴り飛ばして、部屋の中に転がし入れて、扉を閉めた。
「おっ、こいつただの球体じゃあないな」
足蹴にしてコロコロ転がしていると、カチッという音がして、玉は球状を保てなくなった。
「ほぉ、人型になるってことは、間違いなさそうだな」
どんな関連性でオレグマグナの自立型と、同型のロボットが稼働しているのかは分からないが、直感的にこれがアポースの狙いではないかと、ラリーは考えた。
「もしもカートがうまくやれなかった時の保険でここまで来たが、まだお呼びがかからないってことは、きっとAIともうまくいってるんだろうな」
考える時間は、ともすればあったかもしれないが、ラリーの決断は早かった。
「待つってのもストレスの元だよな」
行動を起こすなら、どうしても必要なことがある。
「おい、付いてきているな」
『はぁ~い、ホンの少し前からだけど、パパの居るすぐ壁の外だよぉ』
夜叉丸の加速を手伝った後から、アークスバッカーはステルスモードで追跡を続け、ようやく横並びとなり速度を合わせた。
「俺のウイスクに、ドン・ブックレット号の船内データを、どこでもいいから、どっかから見つけてきて送れ」
『ちょっと待ってねぇ』
ティンクのデータをベースにして、どう仕上げていけば、こうもバリエーション豊かに作れるのか?
そしてサクヤのように落ち着いた性格ではなく、なぜこんなはしゃいだ子供のようにしたのか、ソアには後で聞く必要がある。
などとつまらない事を考える暇もあったか、と言うほどの間を空けて、アースラは大声で報告する。
『……検索にヒットしました。ソアママのデータベースから拝借したよ』
「でかした。がその前に覚えておけよ。声は小さくだ! 特に仕事中にはな」
『えー、パパも大きいじゃん』
「俺は状況を、ちゃんと把握した上で、的確な判断をしているからいいんだ」
送られてきたデータを映し出す。
「上出来だ。よくやったな」
『わーい、パパにほめられた』
「だから静かにしろ!」
さてこれで向かうポイントは決まった。
「カートのやろう、怒るだろうな。いや、あいつがモタモタと時間を掛けているのが悪い。そう、俺は何も悪くない」
銃を構えて走り出す。
ワンブロック走ったところでまたもボールに遭遇。
咄嗟の事で照準を合わせる事ができなかった。
ラリーの攻撃はボールの姿勢制御回路に命中。蛇行しながら壁にぶつかり動かなくなる。
「こなくそ!」
2発目で動力を撃ち抜いたが、勢いは殺せず壁に衝突。どうやら船内の衝撃関知センサーに引っかかったようで、ボールがウジャウジャと沸いて出てきた。
「警報装置は切られているようだが、カートの奴はいつまで防御プログラムと遊んでるつもりだ」
ドン・ブックレットや他の乗員に気付かれる前に、このボールの山を片づけなくては。




