Episode14 「ようやくおやっさんが動いたか!」
『ストップ、ストーップ!!』
警察機構軍から参加しているクーランゲル号から、クララリカ巡査のモビールが発進、ブレイブティクスとオーガンの間に割り込んだ。
『そこの……小さい方のロボット、えーっと、ヘンゼンブル=サンクペスさんの、デルゼルブス5228号乗員の……オンクラ=ボルゼンさん、ですよね?』
『だったらなんだ?』
『あなたの母船はリタイアしました。よって直ちに機体を停止してください。あなたのレースに関する、あらゆる行為が認められなくなりました』
『あのジジイ! 勝手な事をしやがって』
『それとそのロボット、古代異質文明の品である疑いがあります。銀河評議会許可のない物品である恐れがある為、調査に協力してください』
突然の乱入、レーダーには警察機構の船が八隻、それとモビール40機が周囲を包囲していると、索敵担当のリリアが報告する。
「取り押さえってやつですかね」とリーノが呟き。
「そうだな」とラリーが答える。
「予定通り、一チーム脱落というわけだ」とカートがまとめた。
モビールから降りて格納庫にいた3人は、コントロールルームに入って様子を窺う。
「それにしても、アステロイドに入らなかった奴さんらが、もう追いついてきたんだな」
「違うわよ。かなり遅れてだったけど、クーランゲル号も危険地帯を抜けてきたみたいね」
キャプテンシートに着くラリーにソアが返す。
狙いはギブン=ホグワープとその愛機オーガン。警察はブレイブティクスとベルトリカには目もくれない。
「特異遺失物管理法でしたっけ?」
「いくつかの条件を満たしてようやく、運用が許される代物だな。このベルトリカもその一つだ」
ベルトリカ元リーダー、フランソア=グランテとクレマンテ=アポースが評議会に提案可決させた法律だ。ラリーはフランからよく自慢されていた。
『あっ、ちょっと待ちなさい!?』
「逃げられた」
オーガンは高速移動タイプに形を変え、宇宙空間の彼方へと飛んでいった。
クーランゲル号以外の警察の艦艇が跡を追う。
「クララから着艇の許可を求められてるけど」
「入れてやれ」
ラリーの許可が下りたことを、リリアはクララに告げる。
程なくクララのモビールが、ベルトリカの甲板に取り付き、解除されたエアロックから入ってくる。
「お疲れ様です。みなさん」
「はい、お疲れ。嬢ちゃんは元気有り余ってるみたいだな」
「それだけが取り柄みたいなものですから」
その元気をラリーは削ぎにかかる。
「随分と先に行っていたはずのクーランゲルが、いきなり進路を変えて、接触してきたら怪しまれるだろ。今は事情聴取として接触していると言えるが、それをするのは、レース参加者のお前さんの仕事じゃあない。何か理由があるにしても、単独で隠れてやってこい。そうおやっさんに言われてなかったか?」
「うう、確かにラリーさんの仰るとおりです。警部補からの依頼書を持って行くように言われました。目立たないようにと……」
クララとしてはクーランゲル号の順位修正に役立つと上申し、船長が採用したと言うのだが。
「その船長も大概だな」
問題児の寄せ集めクーランゲル。の絵が思い浮かび、ラリーは深いため息を一気にはき出した。
クララのモビールをオートでクーランゲル号に戻させて、ベルトリカはレースを再開する。
4号艦と5号艦の修理が必要なブルーティクスは、ここで一時脱落となり、フォレスとも別れた。
「おやっさんはわざわざ紙の指示書を使って、どんだけの情報を持ってきてくれた、ってんだ」
ラリーが開いた封書の中には、手書きの依頼書が。
一通り目を通したところで、アンリッサとカートにも回して確認してもらう。
「どういう事でしょう。これはどこまで裏のとれた話なのでしょうか?」
「レース開催の、本当の理由と言ったところか」
ラリーは書状を返してもらい、顔を顰める。
「おかしいだろう? どうやって評議会は、こいつらをまとめて参加させたんだ?」
「それ以前にどこからの情報で、どれだけの信憑性があるとして、今回のレース企画が、持ち上がったんでしょうね?」
「実際に真実が含まれている。今は疑うより、行動して確認するほかないだろう?」
アンリッサの疑問も分かるが、カートの言うことも尤もだ。
「前向きに進むしかないか」
ラリーは依頼書をコンソールの上に投げ出した。
「ねぇ」
「どうしたガキんちょ」
3人の意見交換を黙って聞いていたソア、クララをコントロールから追い出すために、リーノとリリアがレクリエーションルームに連れて行ったので、居残りは八歳児のみ。
「そうなるとクーランゲル号も怪しくなってこない?」
「そうだな。おやっさんの書き方だと、どうとでも判断できるからな」
アポースの依頼は、ドン・ブックレットと怪盗セレブの船にも接触して、その性能の確認をする事。
「それだけですか?」
改めてアンリッサは依頼書に目を通す。
「評議会からの依頼は、間違いなくそれだけですね」
「それで警部補自身からはどうなんだ?」
アンリッサもカートも、アポースという男をよく理解している。
まさかこの程度の事を、ベルトリカに持ってくるはずがない。
「わざわざ紙の封書をよこしたんだ。あのおっさんの趣味に、もう少し付き合ってやろうぜ」
封筒の中にあった用紙はたった一枚。
依頼内容はものすごい小さな文字で書かれている。
参加者の細かい分析データがほとんどだが、変わったところは特に見られない。
「こっちだよ」
ラリーは封筒の方に視線を集め、愛用のナイフで解体して広げる。
「内側にも何も書かれていないようですね」
「ちげぇよアンリ、紙ってのはもっと便利に使えるんだぜ」
ラリーは開いて一枚となった封筒を、さらに層をめくって二枚にし、テーブルの上に並べる。
「何も書いていないじゃあない」
「ガキんちょ、こういうのを知ってるか?」
「ペンライト? それをどうするのよ?」
「ブラックライトか?」
「カートは流石に知ってるか」
「ブラックライト? それでそれで?」
聞き覚えのないアイテムに興味を示すソアと、後ろから黙って覗き込むアンリッサ。
「こいつで照らすと変化が出る」
「へぇ、ブラックっていうから何かと思ったら、紫外線じゃあない」
浮かび上がった文字を読み、ラリーは目を閉じた。
「紫外線に反応するインクで書かれてるのね」
「ガテンでは子供のオモチャに、今も使われていたのでは?」
「ほぉ、アンリも知っていたんだな。紙は俺達諜報員も未だに使う事がある。このライトも単純だが有効だからな。デジタルデータより信用できる物だ」
目を開けたラリーは、指示書をカートに渡した。
「この件はカート、お前に任せるよ」
「そう言うだろうと思ったさ」
「タイミングは言うから、準備だけはしておいてくれ」
「ああ」
次にしておかなくてはならない事は。
「ガキんちょ、さっき言っていたクーランゲル号の話だが」
「オリビエのシャトルで行ってあげる。けど一つ条件を出していい?」
「なんだよ? 高いもん強請ったりとかはなしだぞ」
「そろそろ名前で呼んでよ。ラリーの事だから、リーノの事も新入りとか、若造とかって呼んでたんでしょ?」
ソアは報酬代わりに、ちゃんと仲間として認めて欲しいと望んでいる。
しかしそんな事を今さら望まなくても、当然ラリーはソアもリリアも、とっくに仲間として認めている。
だがその証明となる、名前を呼んでほしい。いたって簡単な願いだった。
「……そうだな。考えておくよ」
「いえいえ、考えるまでもありません。問題ありませんよソア」
「おいこらアンリッサ、てめぇ!?」
どんどん離れていくクーランゲル号に追いつくには、直ぐにでも出なくてはならない。
クララがベルトリカに残って、自分はモビールで護衛に付く事に、不満を露わにするリリアと一悶着あったが。
「すまんが、これがベストの人選なんだ。オリビエとソアの事は頼んだぞ、リリア」
ラリーの一言に驚くリリアがフリーズ、冷静さを取り戻す前に、3人はシャトルで飛び立った。




