Episode13 「どうにも、きな臭くなってきたな!」
アステロイドを抜け出したベルトリカに並ぶ、デルゼルブス5228号。
序盤と言えば、まだ序盤だが様子見はここまで、ベルトリカチームの三機のモビールは、巨大人型宇宙船の前に躍り出て、ブラストレイカーに合体する。
『ほほぉ、今度は本気で、相手をしてくれるようじゃな』
ベルトリカも速度を落とし、デルゼルブスに照準を合わせる。
先制攻撃はしない、完膚無きまで叩き潰すとしても、遺恨を残さないよう、ドクトルが出てくるまで様子を見る。
「ハッチ、開きましたよ」
『いったい何機のロボットが、乗っかってんだかな』
呆れるラリー達の前に登場したのは、マッシブな寸胴ロボット。
『重武装型か』
両肩と両足にあるミサイルポッド、背中のサブアームには何らかの発振器があり、他にも多数のビーム砲がある。
『こいつはお前の出番だなラリー』
火器担当のラリー、操縦系統の一部も扱えるようになった。
『後ろのやつなら、目を瞑っていても当てられるだろうがな』
照準を合わせた200メートルに、粒子加速砲を発射する。
『きさま! デルゼルブス5228を狙うんじゃあないわ!? 相手をするのはこのゲッペラーデ3335だと分かっておるだろう」
「すごい、粒子を分解した」
合体した後は音声入力しか仕事らしい仕事のないリーノは、各種センサーのチェックも担当している。
『あの背中の円盤か! この反応は電磁バリアーか?』
「ラリーさん、俺の仕事……」
センサーの端末は各コクピットに設置されている。
ゲッペラーデ3335は母船(?)を護りきったバリアーを解除して、胸と腰と太股にあるビーム発振器で、波状攻撃を仕掛けてくる。
『嘗めてかかっているとやられるぞ』
カートは敵の攻撃を読んで、ビームを躱しながら距離を詰める。
「早い!?」
ブラストエッジで斬りかかるが、ゲッペラーデは下がりながら、肩と下腿の小型ミサイルも発射する。
『任せろ、全て切り刻む』
ドクトルがカートの切込みを凌げば、ブラストレイカーはミサイルを爆発させることなく無力化する。
地上ではずっと、パワータイプのロボットで暴れていたドクトル・ヘルだった。
レース開始すぐに絡んできた機動力重視のロボットは、あっという間にカートに切り刻まれたが、あのデスバラック6628の動きは、機動力特化型のモビールに匹敵していた。
『それを上回るか』
『全身のスラスターの数の違いだな。カートの剣を避ける姿勢制御を、AIに仕込むとは恐れ入るな』
「どういう事ですか、ラリーさん」
『あんなでっかいロボットで、アステロイドを通り抜けるほどの、制御システムの実力がスゲーってことだ。まさかリーノ、ジイさんが操縦しているとでも思ってるのか?』
「いや、それはないっすよね」
ブラストレイカーはミサイルを放出するが、ゲッペラーデはジャミングで暴発させてしまう。
動きを止める両者。
「ラリーさん、もうこれ以上は」
『そうだな。これだけやれれば上出来だ』
ラリーはリーノの提案を承諾した。
『アームボンバー!!』
刀を収納するブラストレイカーの前に、割って入ってきたのは巨大な鉄拳。
「隊長!?」
ブルーキャリーの甲板上に立つブレイブティクス。
飛ばした左右の前腕がぶつかり、バリアーをパリンと割って戻っていく。
「なんでガラスみたいに割れたんですか?」
『プロのこだわりだな』
「どういうことですか? ラリーさん」
『深く考えるな』
地上では飛ばしっぱなしだった鉄拳は、コントロールされて本体に戻っていき、再度合体。まさに隊長が再現したかったギミックが成功した瞬間だった。
『ブレストブラスター!!』
胸の放熱板が赤く燃えて、熱光線が飛んでいく。
「正にアニメーションの再現!」
ビーム発振器は、宇宙空間では焼き付きにくい。
破壊力も地上の数倍に。
重力波を使って、スラスターよりもスムーズな軌道をし、ブレストブラスターはゲッペラーデの下肢を奪った。
『おのれ、ミサイルに誘爆してしまったか』
どうやらブレイブティクスは、宇宙空間で実力を発揮する、マシーンだったようだ。
『ぐふふふふふふ……』
誰の目にも勝敗は明らかなのだが、ドクトルが声を震わせて笑いを堪えている。
『どうじゃ、小僧』
『ああ、申し分なさそうだな』
デルゼルブス5228号の腹部ハッチが開き、新たなロボットが出てきた。
『あのでっかいの、古代文明の産物じゃあないだろうな?』
ラリーはもうすでに、四次元にでも繋がっていそうな格納庫から、次に何が出てくるのかを期待し始めている。
『久しぶりだな。フォレックス=マグナ』
『ギブン=ホグワープ、お前がドクトルと組むとはな』
『組んじゃあいないぜ。ジイさんが俺に合うロボットをくれるって言うから、付いてきてやっただけだ』
ギブン=ホグワープ、傭兵経験もある自称天才パイロット。
自称でも天才を名乗るだけあって、侮れない相手である事は、フォレスが一番よく知っている。
『見ろ、それこそが我が最高傑作。ワシではその性能の半分も発揮できんが、そやつならキサマらを一纏めにして、血祭りにしてくれようぞ』
ドクトル作というが、そのフォルムはブラストレイカーによく似ていて、全長も20メートル。
『あれ絶対ジジイの作ったもんじゃねぇだろ?』
なにより目が二つあり、鼻の筋が通ってて、額に角が生えた頭部がある時点で、誰もドクトルが作製したとは思わない。
『くだらない話はどうでもいい。俺と戦えフォレックス』
『いいだろう。相手になるから、その前に』
ブレイブティクスが右手人差し指を突き出し、ギブン搭乗のロボットの名を聞く。
『よくぞ、聞いてくれた我が最高傑作。その名はグラゴラオス……』
『オーガンだ。オーガン』
『キサマ、我が最高傑作に勝手に!』
『オーガンだな。よし、いくぞ!』
ブレイブティクスとグラゴラオス9999改め、オーガンはブラストレイカーから離れていく。
「ラリーさん、ブラストレイカーの出力上げていいですか?」
『そうだな、これ以上は付き合ってられんし、さっさとジイさんを片づけるか』
全力のバスターキャノンで、半壊したゲッペラーデ3335と、デルゼルブス5228号を大破させた。
「ドクトルは無事に脱出しました」
『よし、なら御曹司と、あの怪しげなロボットの勝負を見物しにいくぞ』
「ラリーさん、趣味悪いですよ」
『バーカ、お前もよく見とけよ。習う事は多いからな』
笑顔で説得力のないラリーは、ブラストレイカーを分離させた。
モビールを回収したベルトリカが、ブレイブティクスを見つけた時には、ブルーバトルシップとブルーキャリーは、戦闘ができる状態ではなかった。
「何があったんだ?」
ラリーは沈黙する戦隊の、無人モビール部隊の向こうに光を見つけ、モニターを望遠カメラに切り替える。
「大丈夫ですか? レイラさん、バックスさん」
『はい、船体自体は問題ありません。ですが戦闘は無理ですね。今は修復のためのチェック中です』
ドクトルを黙らせるのに、さほど時間はかけていない。
その瞬間に無敵を誇る戦艦と空母、その艦載機を行動不能にした実力。
「あのオーガンっての、古代文明の遺産のようだな。どうだ、ガキんちょ」
「でしょうね。まったくなんなの、このレース」
大々的に執り行われている催しではあるが、伝説級の古代兵器がゴロゴロと参加しているなんて、どう考えてもおかしい。
「ブラストレイカーを出すか?」
カートの言葉に、クルー達は一斉に、チームリーダーへ顔を向けた。
『ストップ、ストーップです』
「クーランゲル号! クララか?」
リーノは後ろから接近する警察機構軍の船に、慌てて進路を譲った。




