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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
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Episode12 「覚えることは、まだまだいっぱいあるからな!」



 ベルトリカのブリーフィングルームから、船外まで出てきたラリーとグレッグ。


 場所を補修船のレストルームに移して、念願の一杯目を乾杯した。


「結局ごり押しして、俺の休息時間を勝ち取りやがって」


「情報収集、参加者が望めば協力してくれるんだろ?」


「それはそうだが、ミーティングでバーを使うなんて」


「俺とお前が話をするってんなら、他にないだろう」


「まったく、アポースのおやっさんまで担ぎ出して、上に掛け合って、そうまでして飲みたいかね」


 銀河評議会ノインクラッド航宙局局長に対し、就業時間中に飲食接待許可をもぎ取ってしまう、謎の交渉術を持つ男、フィゼラリー=エブンソン。


「あれ? ラリーさん」


 まだ営業時間外のバーを開けさせたレストルームに、汗だくのリーノと涼しい顔をしたカートが顔を見せた。


「なんだグレッグまでサボりか?」


「俺に選択権があれば、ここにはいないよ」


 食事に来たカートは、自然とバーのカウンターに腰を落とした。


「なんだ、もうとれーに……、修理の具合はどうなんだ?」


「ラリー、もういいって」


 古いつきあいの、有能な議会職員の目を誤魔化す事はできない。


「まぁ、そうだよな。にしてもリーノ、シャワーくらい浴びてからこいよ」


「もう腹ペコっす。ムリっすよ」


 リーノはメニューから目を離さず、先輩の注意を聞き流す。


「お前ら、俺の事をなんだと思ってるんだ?」


「グレッグ、不毛なやり取りが希望か?」


「カート、相変わらずだな」


 アポースが間に入っている事だし、なによりグレッグは仲間達と同じくらい信じられる存在。ラリーは包み隠すことなく、計画を明かした。


「なるほどな。それでダメージがほとんど見られないベルトリカが、補修船を呼んだ理由が分かったよ」


 順位を落とすために、ドックを利用する者が現れるなんて、議会側は想定していない。


 ルールに違反してなければ、グレッグが口を挟む事でもない。


「それで、こんなところで俺から、何を聞きたいんだ?」


「特にはなにも」


「なに?」


「俺は飲める相手が欲しかっただけだぜ」


 グレッグは言葉を失い、カートとリーノの顔色を窺う。


「あきらめろ」


「ですね」


 言われるまでもない、グレッグは失笑してグラスに口をつけた。






 ベルトリカは予定通り最下位の位置に付け、先頭までの時間差も出来過ぎなくらいに、いい距離を保っていた。


「トップがミリシャってのがちょっと、どんな想定外が起こるか不安だが、2番手のセレブ号の動きにも要注意だな」


 ようやく第一チェックポイントの、キリングパズールが光学望遠鏡で確認できる辺り。


「警察チームが三位って、おやっさん。嬢ちゃんにどんな指示を出してんだ?」


 クララリカはベルトリカのサポート役を、アポース警部補から仰せつかっているはずだ。


「後二つくらい、順位を落としておけよなぁ。直ぐにドンに抜かれて、四位になるだろうけどよ」


 その後ろのブルーティクスも、速度をどんどん上げているから、心配せずとも、五位になるのも時間の問題だろうが。


「思ったより修理に時間のかかったジイさんが俺達の前か。出すんならグラップレイダー号の方に、ちょっかい出してくれねぇかな」


 トップはキャンショット・キャリバー号。


 二位に怪盗セレブ号、三位がクーランゲル号、ドン・ブックレット号が四位にいる。


 五位がブルーティクス号、六位のグラップレイダー号、七位はデルゼルブス5228号。


 そしてベルトリカ号は先頭から11時間の位置にある。


 メンテナンスドッグを出てからも不調を装い、速度を落としてはいるが、どうもまたドクトルが、また絡んできそうな動きを見せている。


「名前を売りたいなら、最下位なんて相手にしてるなよな」


「あの人は趣味人ですからね。どうします? アステロイドを利用しますか?」


 航宙船のベルトリカなら、操舵次第で無傷ですり抜ける事もできるだろう。


 しかし向こうは所詮、人型ロボットだから、神がかった操縦技術でもなければ、かなり苦戦するはず。


「リーノ、お前は抜けられるってことだな?」


「えっ、ラリーさんが替わってくれるんじゃあ?」


「いい機会だ。やってみるんだな」


「カートさんまで……、ぶつけても知りませんよ」


「いいわけないだろ。いいからやってみろ!」


 自分が提案した以上、ここで止めるわけにもいかないリーノは進路を変更する。


「他のチームも同じ事を考えたみたい」


 うまく通り抜ける事ができれば、ショートカットも可能なコースとあって、グラップレイダー号とブルーティクスが、アステロイドに突っ込んだことをリリアがキャッチする。


「あいつらの船体サイズで、よくその気になったもんだな」


「キャプテン・ミリーもアステロイド越えるみたい」


 回り込むと5時間のロスではあるが、事故を起こせばそれでは済まなくなる。


「他人に気を取られるな。ちびスケは監視データを整理してリーノに渡せ」


「無理だよ。そんな早くは」


「私がフォローするから」


「ありがとうソア」


 最初緊張していたリーノだが、腹を括って集中、うまく回避行動をとり続ける。


「来たよ。ドクトルのそら飛ぶロボット」


 デルゼルブス5228号も進路を変更し、ベルトリカを追ってアステロイドに突っ込んできた。


「……どうやらあっちは、神操縦できる何かがあるみたいよ」


 ソアがその軌道を見て、その正体を見抜く。


「あのおジイさん、本当にすごいエンジニアだったのね。AIに操縦させてこっちより早いなんて、ビックリね」


「言われてるぞ。リーノ」


「無茶言わないでください。俺だって必死なんですから」


「避けるのに気を取られすぎだ。もっとシールドを信じろ。見極めて最小限の回避でスピードを上げるんだ」


 質量の小さな岩はシールドで弾く事ができるが、大きな岩塊に衝突すれば、轟沈もあり得る。


「そういった判断を機械にさせるって、すごいことなんだよ」


「うん、今はちょっと集中させて、ソア」


 周囲のデータはもらっているが、コンピュータ《ティンク》のサポートなしで、初体験のアステロイドでの操舵。これ以上の情報は脳が受け付けてくれない。


「慣れてもないのにサポート抜きって、なんの冗談なの?」


 そんなのは聞くまでもない。返事はソアの想像通りの物だった。


「おもしろいだろ」


 ラリーの悪ふざけに、ブレーキをかけるのはカートの仕事。


「いや、これは習う物ではない。慣れるが早い事だからな」


 ブレーキどころかカートは、ラリーの発想が悪ふざけでも、リーノの為になると思えば、できるできないは関係なくスパルタになる。


「最低限は手伝ってやるよ」


 危険な岩塊は、本当にギリギリで撃ち砕く。


「ほら、キリキリ操舵しろよ」


 ラリーの操るビーム砲の手数も次第に減っていく。


「心配するほどじゃあないさ」


「そうみたいね」


 機関の調整も楽になり、索敵のフォローも減るカートとソア、リーノの顔色もよくなってきていると、笑顔で見守る。


「デルゼルブス5228号との距離も、詰められなくなってきてるけど、どうするの? この分だとマフィアと警察を置いてっちゃうよ」


 マーカーをつけた反応で順位を確認する。思っていた以上にベルトリカのペースが速い。


「あのジイさん、この分じゃあ、ここを出たら直ぐにでも絡んできそうだな」


 こちらの目算以上に、順調に突破してしまいそうな宇宙船ロボット。


 目的がはっきりしているので、アステロイドを抜けた後のドクトルの行動は、火を見るより明らかだ。


「アステロイドの半分を過ぎたよ。このままの進路でいいの?」


「ああ、このまま前進だ。ジジイが突っかかってくるって言うんなら、そこで返り討ちにしてやればいい」


「返り討ち?」


「そうだ。ちびスケ、ここを抜ければキリングパズールも近い、ここまで来れば、1チームくらいは、いなくなっても文句は出ねぇだろうよ」


 落とすと決めれば、相手の目的に合わせる必要はない。


 アステロイド脱出後、ベルトリカから三機のモビールは発進した。

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