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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion03 青の章
70/144

Episode10 「メンテナンス中は飲んでもいいよな!」



 緊張の対峙は数秒で崩れる。


 先に動いたのはラリー。


 なんの工夫もなく真っ直ぐ突っ込むが。


「早い!?」


「えっ、えっ?」


 二人の間は5メートルはあった。重力は1Gに設定。


「たった一歩で殴りかかっちゃった」


「えーっ?」


 イズライトを使っても、リーノの目にも動きがダブって見えるほどのワンステップ。


 カートはしっかり反応して、真正面からブロックする。


「あのぶん殴りを受け止めた!?」


 リーノの認識では、ラリーはパワーファイターで、カートはスピードファイターなはず。


 それは間違ってないが、ラリーの突破スピードも、カートの防御力も、量り違えていた。


「リーノ、私ぜんぜん見えないよ」


「あっ、うんゴメン。俺も解説しながら見る余裕はないや」


 初撃の後、二人はトレーニングルームを、所狭しと動き回りながら、手加減抜きの殴り合いが繰り広げられる。


「俺、カートさんの一撃でも気絶する自信あるよ」


「どんな自信よ。でもリーノも十分すごいよ。あれが見えてるだけでも」


 確かに見えているなら、努力次第で二人に追いつく事もできるのかもしれない。


 ラリーの拳が、カートのガードを打つ度に空気が震える。


 カートの連続攻撃で、衝撃波が室内を走る。


「すごいね、拳圧」


「うぅぅぅぅ……」


 二人が生み出す波動が、リーノとリリアを襲う。


「うう、リーノごめん。私リタイア、ってかロボの中で見てる」


 立たせていたはずのリリアロボは、空気の振動だけで倒されていて、リリアが入って動かそうとしても動かせない。


「あっ、ハッチ閉め忘れてたから? ……ソアに怒られる」


「大丈夫か、リリア」


「駄目っぽい。なんなの、あの二人?」


「だから、伝説なんだろ?」


 リーノは考えを改める。


 この二人に追いつくには、並大抵の努力じゃあ足りない。いや、死ぬ気でも足りないだろうと。


「なぁ、カート!」


「なんだ、降参か?」


「ちげぇよ。獲物なしの殴り合いは、これくらいでいいんじゃあねぇか?」


 手数の追いつかないラリーは、どうにか自分のペースに戻したい。


「奇遇だな。俺も同じことを考えていた」


 カートはどれだけ打っても堪えないし、一撃一撃が重いラリーの拳に辟易としていた。


「えっ、あれ? お二人とも?」


 先輩二人がトレーニングルームから出て行く。


 二人の会話を聞いていないリーノは、どうしたものかと、人差し指で頬をコリコリして悩んでいるうちに、先にカートが戻ってきて、程なくラリーも帰ってきた。


「って、なんでお二人とも、フル装備なんですか!?」


「あのままじゃあ、いつまで経っても決着がつかないからな。なっ、カート」


「うむ!」


 負けず嫌いの二人は、ドローでは納得できないからと、ガチバトルを始めようとしている。


『アホな事はしないで!? 船が壊れちゃうよ』


 ティンクが激怒し、アンリッサが駆け込んできて、二人を正座させ、反省会に突入した。


 二人の決着は見られなかったが、リーノにとっては有意義な模擬戦だった。






 あと8時間ほどでトップと並ぶ。


 ここまで補助エンジンとメインエンジンを交互に稼働させてきたので、船体の負担は最低限。


 とは言え、ぶっ続けの高速航行で、エネルギーの消費はかなり激しい。


「グラップレイダー号のデータ、コピーが終わったわよ」


 評議会のレース運営委員会預かりのデータ。当然ソアは不正アクセスで手に入れた。


『これ、確かに古代文明の技術が、あちこちで使われてるけど、発掘船ってことはないと思うよ』


 データがベルトリカみたいに改ざんされていない。と仮定した上での話だが、オリビエが言うには、真摯の夜明けは、どこからかランベルト号のデータを手に入れて、バランスも無視して建造された船ではないかとの事。


『ランベルト号は時間をかけて、バランスよく調整して完成系を目指しているけど、こっちは全然なってない。これでここまでの性能が出せているのは、正に奇跡だね』


 田舎海賊の中に、ソアほどのプログラマーがいるとは思えない。


 少し弄っていたとしても、提出されたデータはほぼ間違いなく、ある程度は信用していいだろう。


「てぇーことは、こいつらはミリシャの獲物ってことだな。レースも終盤になったら教えてやるか」


 古代文明が利用されているとなれば、このスピードも納得がいく。


「油断しないでよ。あいつらの使うプラズマカノンも要注意だからね」


 操舵士のリーノに注意を促すオペレータのソア、そのプラズマカノンが既にベルトリカをロックオンしている。


「あれは潰しておいた方がいいな」


 火気管制を預かるラリーが、ベルトリカの粒子加速砲を起動させる。


「動力部を戦闘モードに切り替えた。30秒待て」


 機関部の状態を確認して、カートがラリーに武装の使用可能状態を報せる。


「……私、やることないの?」


 オリビエに直してもらったリリアロボで、レーダーを凝視していたが、相手が目の前の一隻だけでは、索敵は全く必要ないことに気付く。


「やる事がないのは私も一緒ですよ」


 船長席の補助シートで、アンリッサが足組みをして、メインモニターを観察している。


 射程内に入ったグラップレイダー号はベルトリカへ、上部甲板のプラズマカノンを向けてきた。


「わっ、わっ、粒子濃度の圧縮を確認」


「ラリー、撃て!」


「くそ!」


 充填率70%、リリアが観測した敵の砲塔内に、質量の変化が見られたことから、カートはエネルギーをカットし、ラリーはトリガーを引いた。


「敵、粒子砲を発射! フェルミ粒子確認」


 プラズマカノンであると思われた、グラップレイダーの主砲から放たれた粒子砲。


 ベルトリカとの中間点で、両者の粒子弾がぶつかり消滅をする。


「入手データと違うじゃあねぇか!」


 データ通りならプラズマを減衰させれれば、こちらは被弾しても、大きなダメージを受けることはないだろうが、粒子砲となると話は変わる。


「主砲以外の奴らの武装は?」


「ミサイル発射管があるはずだけど、どんな弾頭を積んでるか分からないから、そっちは主砲以上に被弾しない方がいいと思う」


「あいつら、ただのレースで、そんな強力な武器を積んで参加してるのか?」


「田舎者だろうと、やつらも海賊だからな」


 ソアがデータを用意してくれたのは、ちゃんと評価しているラリーだが、プランが崩れた事には苛立ちを隠せず、カートが正論で返した事で更に機嫌を悪くする。


「主砲に命中。ラリーすご~い」


 無言でトリガーを引いた一発が見事に命中。


『こらぁ、ラリーまた粒子加速砲連射したぁ!! いつもダメって言ってるのに』


 シュピナーグの物と違い、動力と直結されているベルトリカの物は、出力を調整できていないとオーバーヒートを起こす。


 その為に機関士の手元にも、停止ボタンが用意されているが、カートがそれを使った事はない。


 カートは「判断はラリーがすればいい事だ」と言うが、ベルトリカの動力部も粒子加速砲も純然とした古代文明の遺産なので、オリビエでも弄れない部分が多い。


 何度かリミッターを挟もうとしたが、うまくはいかず、オリビエはラリーとカートに頼るしかないのだ。


 グラップレイダー号は側面のハッチを開き、左右一門ずつの砲塔を出してきた。


「やっぱり提出データは、改ざんされた物だったみたいね」


 ソアは改めてハッキングしたデータを見る。


「船の構造には詳しい訳じゃあないし、……ちょっとオリビエのところに行ってくるね。アンリ、あとはよろしく」


 戦闘中なのに、コントロールブロックからソアは出て行った。


「どうします? 距離詰めたほうがいいですか?」


 粒子砲が使えないのなら、距離を縮めた方が選択肢が増える。


 リーノの提案を通すかどうか、ラリーが答えを出さないうちに、敵からの攻撃が開始された。

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