Episode09 「退屈な時間の多い仕事だな!」
「ミリシャ、てめぇ!」
『ワタクシは効率を優先したまでです。こちらもコースを逸れるという、大きなロスをさせられたのです。場を荒らさなかっただけ、感謝してほしいくらいですわ』
ミリーシャの方針も序盤は様子見だった。
長丁場なのだから、それが当然の判断と言える。
全チームがそうするだろうとみていたが、ドクトル・ヘルのように、最初のうちにライバルを排除しようするチームは他にもあった。
怪盗セレブ号がドン・ブックレット号を強襲し、怪盗も無傷では済まなかったが、マフィアの船は航行が難しいほどの大ダメージを受けて、メンテナンスドッグに入っている。
移動式ドッグではあるが、メンテナンス中は停止する。
「ドンはここで一時離脱か。それで順位はどうなったんだ」
ミリーシャが機嫌が悪いのは、ベルトリカに抜かされたのもある。
「トップはドンに深手を負わせた怪盗セレブ……」
「じゃあないわよ」
リーノが順位を読み上げようとするのを、ソアが止めた。
「ついさっきトップが変わったわ」
グラップレイダー号が、ダメージを受けたセレブ号を抜き去ってトップに。
「おいおい、もしかしてうちが3位かよ」
ラリーは頭を抱えた。
アポースからのどんな司令がくるか、分からないだけに、真ん中より少し後ろあたりの順位にいようと考えていたのを、修正するのが困難な位置にきてしまっている。
因みにデルゼルブス5228号は、メンテナンスドッグを呼んでいないという話だ。おそらくは自分で修理しているのだろう。
「俺達の後ろがミリシャで、その後にクララの嬢ちゃん、そんでオレグマグナのボンボンか。ドンと変人工学者がどこで戻ってくるかにもよるけど」
どうにかして自然に順位を下げる。けれどそれはかなり難しい。ラリーはしばらく押し黙って考え込む。
「よし、おやっさんの我が儘は、嬢ちゃんに処理してもらおう」
難しい事を考えないのが、ラリーのポリシーだ。
「面倒がっているな」
「うっせぇ! なんならお前が指示を出すか、カート?」
「チームリーダーはお前だ、決定には従う。しかしお前が俺をサブとして認めているというなら、意見はさせてもらう。なるべく早くクーランゲル号との距離を修正すべきだ」
警察チームとの距離を縮めるとなると、不自然な減速が必要となる。
「だったら後ろから追いかけるようにした方が、楽なんじゃあない?」
まだまだ序盤なのだから、少し無理をして連続加速をしても、怪しまれる事はない。
「となるとセレブより、トップの連中とやり合うか?」
真摯の夜明けをターゲットにすることをラリーは選択する。
「ソア、どういう事なの? 後ろに下がるために、他のチームにちょっかい出す。っていうのは分かるんだけど、なんでセレブ号じゃあ駄目なんだ?」
目と鼻の先にいる怪盗ではなく、かなり距離のある先頭まで行く理由が想像つかない。
「理由は二つだ」
直ぐにラリーの考えを理解した、カートが説明してくれる。
「なるほど、確かにトップから最後尾までの距離が広がりすぎたら、対応しきれませんものね」
わざとダメージを受けたフリをすると同時に、トップを後退させる。それが一つ目。
「それじゃあ、もう一つは?」
「それこそ簡単よリーノ」
「えっ、リリアには分かってるの?」
「だって傷ついたセレブ号に、停止させられるほどのダメージをもらうなんて、それこそ不自然な話じゃない。このベルトリカは英雄の船よ」
「まぁ、そう言うこったな。ちびスケの答えは半分正解だ」
「半分?」
「俺達がちょっかいをだしたら、セレブ号をぶっ壊しかねない。あの程度のダメージだとメンテナンスドッグは呼べないようだし、自力で直すとなると、それなりに時間がかかるだろうから、放っておいても飛び抜ける心配がない」
ベルトリカが手を下すまでもなく、怪盗は順位を落とすだろう。
「ガキんちょ、セレブ号のダメージの具合は探れるか?」
「いい加減にガキんちょやめなさいよ。もうとっくにティンクに保存してもらってるわよ」
リーノがようやく話の流れを理解したところで、ベルトリカの指針も決定する。
ティンクはメインエンジンを使わない最高速で、グラップレイダー号を追う。
『向こうが今の速度を維持するなら、38時間後に追いつくよぉ』
相手は発掘船を名乗っているだけあってか、普通なら長丁場では考えられない速度を維持している。
「面倒だな。メインエンジンに火を入れたら、半日くらいで追いつけるだろうに」
『燃料補給ポイントまで保たないよ』
「俺達はトップの奴らとやり合った後、メンテナンスドッグのお世話になるんだ。ここで無駄遣いしても問題ないだろう?」
追いつくまで暇だとしても、作戦中では飲酒は許されない。
ラリーはティンクに再計算を要求するが。
『ボクの仕事を増やさないでよ』
メンテナンス担当のオリビエが、ラリーのウイスクに抗議をしてきた。
メンテナンスドッグに入っても、評議会の職員にベルトリカを任せるつもりはない。
外装の修理は受けてもいいが、機関部や武装までは診せるわけにいかない。
全力でエンジンを半日も回せば、オーバーホールは免れないほどのダメージを受けるだろう。
順位の調整が目的なのだから、修理に時間をかけすぎる事もできない。
「分かった分かった。奴らに追いつくまではお前らに任せた」
とは言え、空いた時間をどう過ごすかなのだけれど。
「しゃーねぇな」
普段あまり使わないトレーニングルームで、ラリーは交代までの時間つぶしをする事にした。
「あれ、珍しいですね?」
トレーニングルームでは、リーノがリリア相手に訓練をしていた。
リーノは空き時間があると、ここでシミュレーター相手に戦闘訓練を行っているが、今までラリーがこの部屋にくるのを見た事がない。
「今日はリリア相手に模擬戦か」
銃撃を得意とするリーノは、新人テイカーとしては申し分ない成果をあげている。
けれどこれからの成長を考えれば、近接戦闘のスキルは必須条件。
ソアの戦闘プログラムが組み込まれた、リリアロボと闘うのは間違いなく為になる。
「ちょうどいい、俺が遊んでやるよ」
「ラリーさんと、本当ですか!?」
リリア相手に汗だくのリーノだが、このチャンスを逃すことはできない。
果敢に挑むリーノだが、チャンスを活かす事はできなかった。
「そ、そんな……、手も足も出ない、なんて」
仰向けになり息を整えるのがやっとのリーノは、自分の不甲斐なさに落胆する。
「普段は飲んだくれていても、さすがは銀河の英雄ですね」
「お前、もっかい泣かせてやろうか?」
「ラリーは普段から訓練を欠かさない努力家だぞ」
「あっ、カートてめ、いつの間にか入って来やがって、余計なこと言ってんじゃあねぇぞ」
チームリーダーのラリーは依頼達成が早く、いつも一番最初に戻ってくる。
不慣れなリーノが戻ってくる前にトレーニングを終えて、汗を流すと直ぐ飲み始めるから、新人が白鳥の足下を知らないのは仕方がない。
「……あのぉ」
「なんだよ?」
「お二人って素手で戦ったら、どちらがお強いんですか?」
普段から拳で戦うラリーと、超人的な体術を使うカートが戦えばどちらが勝つのか、非常に興味深いのだけれども。
「そう言えば模擬戦をしなくなったのは、いつ頃だったかな」
「フランがいなくなってからだから、かなり前の話になるな」
「そうか……。カート、いっちょ後輩のために模擬試合を見せてやろうぜ」
「珍しく熱くなっているな」
「うっせ、ただ退屈なだけだよ」
胸が熱く滾る思いを鼻で笑われ、やる気を漲らせるラリーに、カートも無言で構える事で答える。
リーノは部屋の隅に立って固唾をのむ。
「リーノ、大丈夫?」
「大丈夫だよリリア、それより目を凝らして二人を見るんだ」
リーノは無策で突っ込んでいったところを、カウンター一発で沈められた。
それでも根性で立ち上がったリーノだったが、後はもうサンドバック状態。
リリアロボとはいい線いってただけに、それなりにショックだった。
二人の戦いを見れば、自分の何が悪かったのか、少しは分かるかもしれない。
「なんかすごい重い空気だもんね。瞬きも禁止だねリーノ」
リーノの肩にリリアが腰を下ろし、妖精族の少女はゴングを鳴らした。




