Episode07 「退屈なんだよ、なんとかしろ!」
スタートから5時間が経過した。
今のところ他のチームに目立った動きはない。
操舵桿を預かるリーノ、索敵担当のリリア、そして機関を調整しているカート達は、忙しそうに手を動かしている。
火器担当のラリーだけが、ただただ退屈をしていた。
この船のキャプテンである以上、航行中はこの場を離れて酒を飲む。なんて事もできず、欠伸ばかりを連発している。
「リーノ、そろそろ時間」
ソアに入れ替わってもらい、リーノが退席する。
操舵は念のために二人一組になって、三時間毎に交代をしている。
動力の調整はカートの担当だが、非常時でなければ、ティンクに任せられる。
索敵も通常航行中なら、こちらもティンクにお任せとあって、クルーは羽を伸ばして長旅に備えている。
ラリーを除いて。
『ごめんねぇ、そうだよね~』
“ギャラクシーレース”参加申し込みの際に、副長を設定していなかった為に、ラリーは航行中はコントロールルームを離れられないのだ。
『機嫌直しなよ、アンリが申請変更手続きを済ませてくれたんだからさ』
「はん、それくらい当然だろ」
ふてくされる最年長者は、アルコール切れでイライラも膨れ上がっていた。
『あははははは……あっ、ラリーお待たせ』
「なにをだよ」
『ランベルト号が来てくれたよ』
「ランベルト? キャリバー海賊団が何しに来たんだよ」
『やっぱり不機嫌になってますね』
「アンリ? お前何でランベルトにいんだよ」
いつも説教臭いしかめっ面が顔を出した途端、腰を浅くして足をコンソールに投げ出し、両手を組んで目を瞑る。
『こらっ、ラリー!? 足を乗っけるなぁ! バカなの? バカなんじゃあないの!?』
ティンクの心の叫びはアンリッサが引き継ぐ。
『なるほど、では私はこのままノインクラッドに戻らせてもらいましょう。最後までキャプテンシートは任せましたよ。ラリー』
「ああ、くそ! 悪かったよ。早くこっち来てくれ」
話の流れが読めたラリーはコンソールを叩いて立ち上がり、モニターに右人差し指を突きつけた。
『だから大事にしろー』
ベルトリカの推力は通常の運搬船の実に13倍。
この速度に追いつくには、ランベルト号に協力してもらうしかない
「よう旦那、お届けもんだぜ」
「おう、パメラ久し振りだな」
「そんなに久し振りって言うほどじゃあないよ、旦那」
相対速度を合わせるランベルト号の突入艇は、ベルトリカの上部甲板に飛び移り、エアロックから入ってきたギャレット海賊団突撃隊隊長のパメラ=ビオフェルマ。
「お届けもんだぜ」
パメラの後ろにいたのはベルトリカチームの金庫番。
「私は荷物ではありませんよ」
「そんじゃあな、がんばってくれよ旦那。勝つのはうちのキャプテンだけどよ」
パメラはギャラクシーレース執行部のスタッフと共に、ランベルト号に戻っていく。
「へぇ、あの無愛想な兄ちゃん、そうだったのか」
「ええ、公正委員ですよ。あなたの為人も見られていたと思います。今回の登録変更は問題なしと言ってました」
ラリーのよく言えば飾らないいつもの言動で、相手の心象を悪くすることを懸念していたアンリッサだったが、流石にそれは考え過ぎだったようだ。
「新人も育ってきているのですから、今度からちゃんとチームリーダーらしく、書類にもちゃんと目を通すようにしてくださいよ」
「なに言ってる。お前がちゃんと最終チェックをしてれば、こんな事になってなかったんだろ」
「もう、忘れたんですか?」
顔を見たら文句でもと、ラリーはタイミングを計っていたようだけど、これは完全な薮蛇。
「あなたはリーノに書かせた書類の確認もせずに、ティンクのチェックも受けずに、勝手に評議会にデータを送信してしまったのですよ」
「そう、だっけか?」
「せめて送信作業をティンクがしてくれていれば、私が止めることができたんですけどね」
データを送るだけならティンクでなくても、たまたまそこにいたオリビエでも大丈夫だろうと、中身がなにかも知らせずに頼んだのが悪かった。
「もういいだろ。問題は解決したんだ。俺は休憩を取るぞ。5時間取るぞ」
「うるさいわね。長々となに騒いでるのよ」
操舵を受け持っていたソアが、ヘッドフォンを外してラリーを睨む。
「ティンクも気を遣うことないでしょ。この人ずっと高いびきで寝てただけなんだから」
「てめ、ソア」
AIがリーダーを立ててくれているのに、空気を読まない8歳児の告げ口に大の男が声を荒げる。
「ああ、いいですよ。全部分かってますから、ほらほらラリーも早く休んでください。2時間ですよ」
こうしてベルトリカチームは全員集合を果たしたのだ。
アンリッサが合流して40分。
アポース警部補からの指示で、航行速度まで指定されて、序盤は他のチームとの接触をなるべく避けろと言われている。
「どうしますか? ラリーさん」
「スピードアップだな。前はミリシャだ。それならおやっさんも文句言わねぇだろ」
リーノは命令を実行して加速は最低限に、後ろから追ってくるヘンゼンブル=サンクペスこと、ドクトル・ヘルの宇宙船と速度を合わせる。
「やつは御曹司を狙って、速度を落とすと読んでたんだがな」
「いや、ああ言うやつは、名を売るのが最優先であったりするもんだぞ」
カートの読みは正しい。
今回の参加チームで、一番名前が売れているのはダントツでベルトリカ。
「狙われてるってか?」
このレースは死者を出さなければ、どんな妨害をしてもいいと言うルールがある。
とは言ってもかなりの長丁場は走破だけでも大変。ライバルを蹴落としたからと言って、ゴールできなければ意味がない。
「まさか仕掛けてはこんだろうな」
「どうしますか? もう少しスピード上げたら、逃げられなくはないと思いますけど」
「それでミリシャに押しつけるってか」
「そんなことは言ってないでしょう」
慌てるリーノを見てラリーは楽しそうに笑っている。
「いっそのことキャリバーの船と合流するか」
「キャプテンからも攻撃されて挟み撃ちになっちゃったりして」
ラリーの決断を聞いて笑うリリア。
「そんなフラグが立つような事は言わないでくれ」
リーノの予感は的中する。
『やっとその気になったようですわね。ラリー様』
先制の精神攻撃。
キャンショット・キャリバー号の船長、ミリーシャ=キャリバーはフィッツキャリバーの金髪お嬢様スタイルで、真っ赤なドレスが過酷なレースに似つかわしくはない。
後ろに控えるノエルもいつものスーツ姿でなく、淡いブルーのドレス姿だ。
「お前、ずっと今回その恰好で?」
『ええ、そうですわよ。今回はフィッツキャリバーの最新鋭クルーザーの宣伝が目的ですもの。当然1位をいただきますわよ』
「あれ、誰?」
商魂逞しいと感心するラリーに、明らかに不機嫌顔をしているミリーシャの姿をモニターしながらリリアが問う。
「ああ、キャプテンだよ。キャプテン・ミリー」
「あれが?」
「リリアはあの姿のキャプテンに会ったこと無かったっけ」
ミリーシャの実家に言ったのはリーノとクララだった。
旧知の仲であるラリーとカートはもちろん、ティンクやオリビエだって知っている。
ソアは当然社交界で顔を合わすこともある。
「ぶー、私だけ仲間外れじゃん」
「たまたまだよ。たまたま」
「けど確かに顔はキャプテンだけど、どう見たって別人だよ。妹さんじゃあないの?」
誰もが抱くであろう疑問については、リーノが後ほどゆっくりと話してやるのだった。
『勝負ですわよ。なんならこれから直接対決をいたしますか?』
「すまんがややこしい問題を抱えているから却下だ。協力しろミリシャ。そいつが片付いたら相手になるからよ」
他チームとの共闘もルール上問題なし。
『……話を聞こうじゃない』
退屈でしかたなかったミリーも、急に楽しくなってきた。
ラリーはチームメイトとミリーシャ、ノエルを加えて、簡単な作戦会議を始めた。




