Episode06 「またかよ! あのクソ……!!」
今回はベルトリカチームへの依頼が、リーノを通して無人戦隊ジャッジメントオール、ブルーティクス隊長、フォレックス=マグナ当人からあった。
リーノに依頼に答える権限はなく、隊長に了承を得て回線をアンリッサに回した。
正規のプロセスを経て交渉をしてもらい、間もなく改めてオーダーが回ってきた。
「ったく、なんで俺達まで」
アンリッサの鶴の一声で、カートと共に依頼を引き受ける事になったラリーがぼやく。
「しょうがないんじゃあないか、リーノと言うよりベルトリカが必要な依頼なのだから」
オレグマグナ主催、銀河評議会開催の宇宙船レース。
当然、公的な賭けレースとなり、多くの経済効果が見込まれる。
「見せ物になるようなこんな依頼を、よくあのアンリが受けたよな」
ノインクラッドをスタートして、キリングパズールを通過し、ワールポワートを折り返してスタート地点に戻ってくる。
「これを通常空間で行うってのか」
「そんなのランベルト号が圧勝しちゃうじゃない」
詳細を読むカートの肩越しに、リリアが彼のウイスクを覗き込む。
「いや、ランベルト号は参加しないって、フォレスさんは言ってたよ」
「そりゃ、そうだろう。あんな非常識な船を参加させたら、賭けの対象になんてなりゃしないだろう」
ラリーはそう言うが、ベルトリカにブルーティクスがいるだけで、賭けは成立すると思わせることができる。
「それでどんな対抗者がいるんだ?」
カートは話を進める。
参加表明チームはベルトリカとブルーティクスを含めた8チーム。
「同業者はジャッジメントオールだけか。ってこいつら犯罪者じゃあないかよ」
「知ってるんですか? ラリーさん」
英雄と呼ばれるようになってからは、自分達から仕事を探すことのなくなったチーム・ベルトリカ。
その事件の発生推測場所が、リゾート惑星ワールポワートとあって、不純な動悸で依頼書を勝手に手に取ったラリーは、いつも通りにアンリッサに叱られた。
「ブックレットファミリー、ドン・ブックレット。もう牢獄から出てきてたのか」
闇取引の現場を押さえ、ラリー史上最速で事件を解決してできた空き時間を、リゾート惑星で存分に羽を休めたのは2年前のこと。
親玉を取り押さえたとあって、報酬もかなり高かった案件は、たかが2年で出てこられる刑のはずがない。
「多額の保釈金でも払ったのだろう?」
カートは適当に答えて話を続ける。
「こっちは海賊だな。発掘船だと嘯く“グラップレイダー号”を駆る、“真摯の夜明”とかいう、ふざけた連中か」
「海賊が発掘船を?」
「リーノ、そんなもん嘘に決まってるだろ。そいつらまだ何も問題なんて起こしちゃいない無認可海賊だぞ。ネットニュースの片隅にしか出てこないようなチンピラさ。カートも大袈裟に読まなくていいだろ」
「いや、だからこそ無視できないんじゃあないか?」
ベルトリカやブルーティクスが参加するレースにエントリーしてくるだけ、自称発掘船に自信があるのだろう。
噂の真相を知る、いい機会ではある。
「えーっと、あとはキリングパズールの金持ちが二組と、ノインクラッドからの二組って、いいのこれ参加しても?」
ソアがデータを読み上げ、気になる部分を強調して、メインモニターに映し出す。
「キリングパズールの金持ちって、これミリシャじゃねぇーか」
フィッツキャリバーからの参戦チーム“ミリーズパイレーツ”。
登録名“キャンショット・キャリバー号”。
「ランベルト号に比べて、かなり小さくてシャープなフォルムですね」
「ホント、足無しの烏賊ね」
リーノが言おうとした事を、リリアがそのまま口にする。
もう一方の金持ちは。
「ただの偶然じゃあないよな」
「こんな偶然ないでしょうし、そんな恥ずかしい真似する人もいないでしょ」
登録者名サラーサ=ファンビューティー、怪盗セレブ号で参戦とある。
「こっちもそうだよね」
リリアが指差したのはノインクラッドからの参加者。
「ヘンゼンブル=サンクペス? ああ、顔出ししてんだ。これ、本名かな?」
「ドクトル・ヘルかぁ、トンでもないイベントに呼ばれちゃいましたね」
ボトルを並べるラリーが4本目を開ける。
『もう、ラリー! いい加減にしないとアンリに言いつけるよ』
文句をいいながらもティンクは新しいボトルを用意する。
「はははっ、そんじゃあこれで最後にするよ」
曲者ばかりの参加者達の中で、ノインクラッドからのもう一チーム。
みんなが気付きながらも誰も触れないチームを含め、レースは一月後にスタートする。
通常空間で航行をすると、一般の輸送船で一年はかかるであろう距離を競いあう大レース。
この地に集った人類の叡知の結晶は期限を一ヶ月として、銀河評議会が出資する莫大な賞金獲得を目指す。
「優勝したところで、俺達のもんにならないんだろ?」
依頼内容が確定してからのこの三週間、ずっとぼやき続けるラリーをコントロールルームから追い出し、残りメンバーは最終フェイズを進める。
「今回もよろしくお願いします」
「全くあのジジイはよ」
客人の相手を任されたラリーは、ボトルの栓を開けて一気に煽る。
「だめですよ。飲酒運転になっちゃいます」
「大丈夫だよ。こいつはソフトドリンクだ。栄養剤だよ」
「本当ですか? ちょっとチェックさせてもらいますよ」
「嬢ちゃんも警官らしくなったもんだな」
抗うことなく呼気チェックを受け、次のボトルを開けると、気配を悟ったクララリカ=クニングスは飲む前にそれも調べる。
「ラリーさん……」
「お約束だ、お約束」
舌打ちをするラリーに満面の笑みを浮かべて、ボトルを奪い取りテーブルの上に置く。
「俺達はオレグマグナの御曹司から、依頼を受けたはずなんだがな」
「まだ言ってるんですか? 無理ですよ。警部補がそんな話を聞いてくれないのは、ラリーさんが一番知ってるでしょ」
「ちっ!」
更に出したボトルもクララにあっさり取り上げられ、不機嫌ラリーは無言でコントロールルームに戻った。
「それじゃあ皆さん、私は“クーランゲル”に戻ります」
ラリーに続いてコントロールルームに顔を出し、クララはこのレースの為に建造された警察チームの高速艦に戻っていく。
「どうしたラリー?」
「なんでもねぇよ。準備は済んだのかよリーノ」
カートに噛みつき、リーノを威嚇する。
「はい! あ、えーっと……」
「もう全項目のチェックは完了してるわよ。後はキャプテンの号令待ちだったの」
あたふたするリーノに代わってソアが報告をしてくれる。
操舵士、ボサリーノ=エギンス。
副操縦士兼電算士、ソア=ブロンク=バーガー
機関士、カーティス=リンカナム。
索敵士、リリアス=フェアリア。
整備士、オリビエ=ミラージュ&ベル。
メインAI、ティンク=エルメンネッタ。
そして船長フィゼラリー=エブンソン、火気管制士。
ベルトリカ総員5名+高性能人工知能2。
スタート地点に到着し、レース事務局の最終チェックをクリアした。
「ティンク、残り時間は?」
『あと、30分』
スタートは10分置きの時間差で行われる、順番は事前のくじ引きで決められている。
1番手、“ドン・ブックレット号”、登録者名“ドン・ブックレット”。
2番手、“怪盗セレブ号”、登録者名“サラーサ=ファンビューティー”。
3番手、“グラップレイダー号”、登録者名“真摯の夜明”。
4番手、“キャンショット・キャリバー号”、登録者名“ミリーズパイレーツ”。
5番手、“ベルトリカ号”、登録者名“チーム・ベルトリカ”。
6番手、“デルゼルブス5228号”、登録者名“ヘンゼンブル=サンクペス”。
7番手、“クーランゲル号”、登録者名“銀河評議会警察機構軍”。
8番手、“ブルーティクス号”、登録者名“ジャッジメントオール”。
参加チームが増えることはなく、全8チームが1時間10分をかけてスタートし、大レースの火蓋が切って落とされた。




