Episode05 「見せ場、活かせなかったのかよ!」
帰り支度が済み、シャトルポートへ出国の申請を出し、許可証の発行待ち中。
ブルーティクスの格納庫で待機している間、リーノは今回の研修の内容をレポートに纏めていた。
「これ、ラリーに提出するやつ?」
「そうだよ。これ見て、今回の研修の成果も査定されるから、今度こそ読みやすいレポートにしないといけないんだ」
「……書き直し、してあげようか?」
リーノの左肩に座るリリアは溜め息を零した。
「隊長から通信よ」
大気圏上の宇宙船ドックに、もう間もなく到着するベルトリカについて、管制室と遣り取りをしていたソアが通信の途中で、リーノに取り次ぎをしてくれる。
「おお、ありがとう。……隊長、どうかしましたか?」
『すまないな。宇宙に上がる前に、もう一仕事なんだけど君達はどうする?』
「もちろん行きますよ」
『そう言ってくれると思っていたよ。それじゃあこれが最後だから君達に任せようと思うんだが?』
「本当ですか!? ありがとうございます」
『二つ返事でOKがもらえるなんて、さすがだね』
宇宙へ向かうはずだったチーム・ベルトリカのモビールを、ブルーティクスの甲板に着艦させる。
『相手は怪盗セレブ、サラーサ=ファンビューティーだ』
自称セレブの怪盗は狙った物を逃さず、例えブレイブティクスに破れようとも捕まることなく、姿を眩ませてしまう。
『僕達は捕まえることが仕事じゃあない。騒動を押さえることが任務だから、逃げられることは気にしなくてもいい。ロボットを何とかしたら、後は警察の仕事なんだから』
ブルーティクスが公園の上空へたどり着くと現場では、サラーサの猫を模したロボットが警察のモビールに囲まれて、睨み合いをしていた。
「なんで警察は見てるだけなんですか?」
『怪盗の使うロボットが毎回驚くほど強力だから、警察のモビールでは歯が立たないからね。それに彼らは電磁フィールドで、周辺に被害が及ばないようにする役目があるから。それじゃあ頼むよ』
「任せてください」
ベルトリカチームは発進すると、合体せずに地上を目指し、モビールを補足した猫型ロボットからビーム攻撃がくる。
それを躱すのと同時に、変形合体のプロセスに入る。
ロボットバトルの“お約束”、見せ場では邪魔をしないを怪盗セレブも守り、ブラストレイカーは無事に、合体と名乗りポーズをキメて大地に立つ。
『あーら。可愛いらしいロボットさん。なぁ~に、あなたが私のお相手をしてくれるのかしら?』
ブラストレイカーは全長15メートル。
しかしこの都市で活動する犯罪者が使うのは、30メートル級が主流でもちろんセレブの猫型も、ブラストレイカーの倍の身長がある。
この戦い、ブラストレイカーはただ勝てばいいわけではない。
研修中に学んだことを実行できるのかのテスト。
今回課題としてあげられたクリア項目は、周囲への被害を最小限に戦うこと。
そうなると使用可能な武装も限られて、アークスミサイル、バルカン砲、そしてブラストエッジを選択した。
肩にあるハイランドキャノンも出力を押さえて、撃つ角度を調整すれば使える場面もあるだろう。
巨大なサムライブレード、ブラストエッジを両手持ちにして、真っ正面から突っ込みながら小型ミサイルをばらまく。
『そんな可愛らしい攻撃、当たってあげてもいいんだけどね』
猫は高く飛び上がるとブラストレイカーはそれを追って、あっと言う間に追い越して、刀を大上段に掲げる。
『うそ、なんなの! そのスピードぉ!?』
膝を折り急減速からの急降下、ブラストレイカーは猫と並び、縦一文字に刃を振るい、斬り傷にミサイルが命中する。
『ちょっとちょっと、私の大事なヘルキャットちゃんに、なんてことしてくれるのよ!』
猫のお腹に付いた傷を嘆く怪盗。
『喰らいなさい』
自由落下の最中、振り回される猫の爪がブラストレイカーを襲うも。
『ブラストシールド!』
重粒子のシールドで衝撃を中和する。
しかし猫のパワーは半端ではなく、突破された重圧を後ろに引くことで回避するが、完全なノーダメージとはならなかった。
「どうなってんだ? 宇宙で使った時より、シールドの出力が弱くないか?」
“金色の船”イグニスグランベルテの砲撃にも、ビクともしなかった重粒子盾が、まさかロボットのパンチで突破されるなど、誰も予想していなかった。
「何があったんだソア?」
「戦いが終わったら調べてあげる。ほら、くるわよ!」
ジェネレーターの出力をチェックしながら、ソアがリーノに一喝を入れる。
『やってくれちゃったわね!』
本当ならこれで致命傷。のはずなのに、まだ動けるどころか、ほぼダメージのない猫型ロボット。
『この程度、そんじょそこらのモビールでもできるわよ』
足にローラータービンを仕込んでいる猫のダッシュに、走っていてはついていけないブラストレイカーは、宙に浮いて追いかける。
公園の広場の外周を駆ける猫に必死に食らいつく。
「なんでこんなに機体が重いんだ?」
「分かったわよ」
飛行速度は申し分ないのに反応速度が上げられない。リーノの拭えない疑問に答えようとキーボードを叩くソア。
「……この合体巨兵は今、シュピナーグのジェネレーターのみで動いてるみたい」
「どういう事?」
古代遺産のアークスバッカー、夜叉丸、シュピナーグは機械言語も複雑で、変更はソアにも難しいと言われたことに、リーノは激しい衝撃を覚えたものだった。
それでもソアのすごいところは、新しいプログラムを上乗せして、リモート操縦できるようにしたところ。
「がんばったんだけどね。登録者変更は達成できなかったわ」
「つまりどういう事なんだ!?」
「もう! だから3機合体はしていても、私やリリアじゃあ全力は出せないのよ」
今はそんな説明を、長々と聞いている時間ではなかった。
『おねむりなさ~い』
猫ロボが取り出した猫じゃらし、振り回すとその都度静電気が発生し、振りが大きくなるとプラズマが生み出される。
『そんな動きでは避けられないわよぉ~』
音を立てて振り回された猫じゃらしが生み出した、大きなプラズマ球がブラストレイカーに襲いかかる。
リーノは咄嗟にブラストエッジを遠くに投げた。
羅針盤になればと考えたが、プラズマは一直線にこちらに向かってくる。
全力のシールドを張れれば、何の心配もないが、完全な状態ではないブラストレイカーには回避の方法はない。
『あ~ら、やっと出てきたわね。ボ・お・ヤ♪』
プラズマ球からブラストレイカーを庇い、盾となったブレイブティクスは動かない。
『この猫じゃら攻撃を喰らっちゃ~ね。さぁ、私の為に築き上げられた最高傑作。このヘルキャットちゃんの餌食におなんなさ~い』
勝敗は決した。
サラーサ=ファンビューティーの注意が、ブレイブティクスに向いている隙に、息を顰めて飛び上がったブラストレイカーは、頭の後ろにあるハイランドキャノンを全開にして猫の頭を撃ち抜いた。
「と、止まった。なんとか勝てたぁ」
辛くも勝利し、動きを止めた猫ロボットに警察が飛び付いたが、その時には怪盗セレブの姿はどこにもなかったと、後から聞かされた。
「リーノは良くやったわよ。モビール1機分の出力で合体ロボットを操ったんだから、文句があるんなら、かわいい新米の為に協力を惜しまない。よい指導者になることね」
レポートに添付する動画が終わり、ソアの締めの言葉を聞いて、ラリーもカートも口が開けられない。
もともと口数の多くないカートはともかく、ラリーはどんな顔をしているのかと、興味津々でソアがトコトコと近付いて覗き込むと、顔を赤らめて大いびきを掻く男の姿がそこにあった。
「けっ」
ソアは毒づき力一杯のトーキックでラリーの向こう脛を蹴るが、ラリーは全く動じずに右手のリカーボトルを地面に落とすだけだった。
「はぁ~あ」
「そうだソア、なんで合体できたのに、本領を発揮できなかったんだ?」
「そう言えば、説明の途中で止められたわね。腹立たしい」
「えーっと、ごめんなさい」
「別にリーノの所為じゃあないでしょ」
体をくの字にする少年のおでこを指で弾き、ソアは軽く溜め息を吐いた。
リーノは体を起こして、両手でおでこを押さえる。
「こういうのは登録者しか、起動できない様にするのが当たり前なの。けど私はそれを動かせて合体もできるようにした」
やや口角を上げるソアは、すぐ表情を曇らせる。
「そこまでいけたのに、動力をフル回転させることができなかった。本来なら3機のジェネレーターを直結して、計り知れないパワーを生み出せるはずなのに」
ラリーとカートがいなければ、ブラストレイカーは本領を発揮できないのだ。
「はぁ、なるほどねぇ」
「今回の課題は一応クリアって事になったけど、大きな問題が残ったわね。それじゃあ私はもう休ませてもらうわね」
「おつかれぇ」
新米テイカーも珍しくレポートを一発受理してもらい、後はノンビリできるのだが、ここでリーノを名指しする、ジャッジメントオールのフォレスから通信が入るのだった。




