Episode04 「ちゃんと成果はあったんだろうな!」
ブルーティクスに出向中のリーノの元に、アークスバッカーと夜叉丸が送られてきた。
「いったい、なぜ?」
一度断られてから、こちらからは一度も再要請していない。
「アンリからよ。二人とも結構絞られたらしいわよ。優先順位を間違えるなって」
ただ足として使うだけなら十分でしょと、ソアが市販のモビールも用意してくれたらしい。
「楽しそうだね、ソア」
「ふふん♪」
何はともあれ、これでブラストレイカーに合体ができる。
フォレスに相談して、基地内の実験施設使用の許可をもらった。
キーワード入力をリリアに任せて、本当に問題ないのかという心配もクリアし、ブラストレイカーは二度目の合体を成功させた。
「よし、思い通りに動かせる。俺一人で合体巨兵を!」
「あんまり浮かれないの。隊長から出動の連絡が入ったわよ」
『なんかつまんない。合体したらやることないの?』
「リリア、人の話聞いてる?」
モビールに分離し、実験場と隣接する格納庫に移動、戦闘空母ブルーティクスの甲板上に固定してもらい、フォレスの到着を待つ。
『リーノさん、準備はいいですか?』
「フローラさん、こちらはいつでも」
『分かりました。それではブルーティクス、発進します』
「あれ、隊長は?」
『フォレスとは地上で合流します』
理由を聞く間もなく、海水で満たされた格納庫の扉が開き、海底へと緊急発進する。
目的地はいつもの公園。
そこに隊員姿のフォレスが、一人の老人と睨みあっていた。
「今度は何を企んでいる、ドクトル!?」
「何度も同じ事を言わせるな若造、早くキサマのポンコツを呼び出さんか。ワシは、ワシのロボットは必ずソアラ=ブロンクスを超えるのだ」
老科学者が見据えているのは若きエリートではない。
銀河に名を轟かせ、突如として姿を消した若きロボット工学者。
僅か18歳という若さで、ロボットキングダムフェスティバルという巨大ロボットバトルを制覇し、22歳まで前代未聞の5連覇を果たした。
今年も優勝を期待されたが出場はせず、生まれつき病気がちだった彼女は、実は他界していたとネットニュースになっていた。
「死んでしまった相手を抜く。気概は酌むが手段を変えられないのか?」
「キサマのような小僧がいてくれるから、こうするのじゃ! キサマに勝てんで小娘に勝ったなどと言えんからな」
ドクトル・ヘルが見据えてるのはフォレックス=マグナではなく、ブレイブティクスの開発チーム。そのチームリーダーのローグライゼ=レベックス。
20歳になったばかりのマシンデザイナー。
技術者としてはまだまだだが、その発想力ではオレグマグナ内でも、群を抜いていると期待される若きホープ。
「ローグ君はお前なんかに負けはしない。諦めて後身の育成で社会に貢献してはどうなんだ」
「ワシは確かに老いぼれではあるが、まだ踏ん反り返って茶を啜るつもりはないわ」
ブルーティクスが東の空に現れるのを見て、ヘル=サンクスペストは自分のロボットの中に姿を消す。
フォレスも降りてきたブルーコマンダーに搭乗し、すぐさまブレイブティクスへと合体した。
『お前達、空の連中は任せたぞ』
ドクトルは部下たちに命令した。決闘の邪魔をさせないようにモビールで、ブルーバトルシップとブルーキャリーへ向かわせる。
『こちらも始めるぞ。若造』
「くらえ、アーム……」
『遅いわ!』
前回まではアームボンバーから剣飛ばしまでを、1セットに組まれていたドクトルの攻撃パターンがいつもと違う。
体積で言えば倍ほどはあろうマッシブなロボットは、全身にあるハッチを全オープンにして、雨のようにミサイルをブレイブティクスに降り注がせる。
「先手を取られたか!?」
ドクトルはフォレスに隙を与えずミサイルを連発してくるが、こちらにはグラビティーウォールを発生させる重力波の盾がある。
特に躱すことなく弾切れを待つ。
だがドクトルも目算なく無駄弾を撃っていたわけではない。
『トドメじゃ!』
一際大きな一発は着弾点一帯の温度を一気に下げる。
「くっ、足が!?」
『主機関にも問題が発生しているんだけど』
ブレイブティクスの機関部を預かるクロードからの報告。
『がははは、どうじゃ? 動きが鈍くなっとるぞ』
全てのミサイルを吐き出したマッシブロボットは、胸部から腹部にかけた装甲を展開し、出現した巨大砲をブレイブティクスに向ける。
『死ね、ブレイブティクスよ!!』
『レイカー、オン!』
『何じゃ?』
『やぁーーーーーーーーーーっ!!』
『なんじゃとぉ、ワシのアルゴルスチーム4226がぁ!?』
上空で合体した巨兵が自由落下も加速に利用し、物凄い勢いで飛び蹴りをドクトルのロボットの頭部から食らわせ、完全大破をさせた。
脱出装置の働きで難を逃れたヘル=サンクスペストは涙した。
ドクトルの部下たちはブルーティクスの無人モビール、戦艦と空母の牽制に成功していたのだが、さらに高高度で待機していたリーノたちまでは抑えられなかった。
フォレスにとっては課題の残る勝利となった。
「ありがとう、助かったよ」
『いえ、役に立てたようでよかったです』
ドクトルはブレイブティクスを倒せば高みに登れると言う。
しかしフォレスの理想にもほど遠く、ブルーティクスはまだまだ最強に至ってはいない。
犯罪者を野放しにしない為、ジャッジメントオールは正義の名の下に行動しているが、その実はドクトル・ヘルと何ら変わらない。
「つまり隊長は犯罪者を使って、ブレイブティクスを最強にしようとしていると?」
「そこまで露骨には考えていないけど、ブレイブティクスを無敵のスーパーロボットにさせられれば、きっとこの街は平和になる。そういう思いはあるんだ」
無敵のスーパーロボット、それはフォレスの究極的目標。
「ヒーローになるためには、敵がいなくちゃならないって、矛盾も感じてはいるんだけどね」
治安は警察やコスモ・テイカーが護るもの。
とある依頼を銀河評議会にされていなければ、ジャッジメントオールも検挙対象なのだろう。
「ヒーローも悪党も力がないとできないから、警察はボクたちも一緒くたにして、あの公園に繋ぎ止めたいんだろうな」
無人戦隊に協力して犯人を追い込んでいるという建前で、首輪をかけられている。フォレスはそう感じている。
「さて、明日で研修は終わりだね。どうだい、ボクたちは君の役に立てたかい?」
「はい! 人型ロボットの戦い方、勉強になりました」
「はは、お世辞にも勉強になる内容ではなかったと思うけど」
「そんなことありません。手足の動かし方、武装をどう使えば周りの被害が最小限に押さえられるか、本当に勉強になりました」
フォレスは感心した。
趣味の部分が大多数なのは認めるが、アームボンバーもブレストブラスターも青皇剣も戦闘の範囲をより狭くする為にある。
若者はちゃんとフォレスの拘りの理由を分かっていてくれた。
この研修はそれなりの成果があった。
巨大な人型ロボットの運用については、正直学ぶ部分は特に無かったようにリーノは感じている。
けれど実際、ブラストレイカーを戦場に出せたのは収穫が大きい。
ここに戻る直前に緊急出動要請があった。
怪盗セレブ、サラーサ=ファンビューティーは猫をイメージしたロボットを使い、オークション会場から最高級宝石を盗みだし、姿を晦ますことなく警察を挑発して、あの公園でジャッジメントオールと対峙した。
「そこで先鋒を任されたのか?」
壁に背中を当て、体重を預けて立つカートが、怪盗の戦闘スタイルに興味を示す。
「勝ったんだろうな」
テーブルでボトル片手のラリーの方は、怪盗なんかに興味はない。
「俺たちからモビールを奪っておいて、負けたとは言わせない。いや勝って当然、もちろん圧勝だったんだろうな」
「2人の問いについては、私が教えてあげるわ」
勝ちはしたのだから文句は言わせない。ソアはモニターに戦闘データを再生させた。




