Episode02 「これは仕事なんだからな!」
『唸れ鉄拳、アームボンバー!』
炎を撒き散らし、拳の形をした巨大物体が飛んでいく。
『燃え尽きろ、ブレストブラスター!』
胸の放熱板が赤く光るが特に何も起きない。
ブレイブティクスの攻撃は敵を捕らえることができず、ティックス5、ブルーキャリーから投下された青皇剣も受け取るのを敵に阻まれてしまう。
「くそ、ヤツは先読みができるのか!」
ブルーコマンダーのコクピットでセリフくさくフォレスが叫び、相乗りするリーノは苦笑いを隠せない。
それはそうだろう。
アームボンバーは、形だけの手としてのギミックを持たない鉄の塊で、色んな方向から空気抵抗を受けて、狙った場所に真っ直ぐ飛んでいってくれない。
ブレストブラスターは、アニメのように熱線が真っ直ぐ伸びていくなんて非常識を実現できるはずもなく、ただ胸の前を暖めているだけの代物だ。
飛んでいく前腕を失った後、ちゃんと開く手に付け替えて、直ぐに剣を要求するのはいつも通りのお約束。
知っていれば誰だって、弾き飛ばしたくなるというもの。
弾かれた剣を拾い上げて立ち上がったところに先制攻撃を受け、ピンチのところをティクス4と5に助けられる。
定められたシナリオをなぞるように、今日もジャッジメントオールは勝利した。
「あの隊長……」
「なんだい、リーノ君」
「俺、思うんですけど、戦いのバリエーションを広げませんか?」
「何の為に?」
社会貢献であることは間違いないが、この活動は大前提として、フォレスの趣味で行っていることなのだ。
よって空飛ぶ腕も、空気を暖めるだけの放熱も、外せるイベントではないのだ。
と言ってもフォレスも無能というわけではない。
剣を拾った後はビームやレーザー、ミサイルで牽制しながら、接近戦のチャンスを窺い、叫びながら敵を一刀両断にかける。
それも叫びながらだから、敵にタイミングを読まれて当たらない。
そうして敵の気を引きつけたところを、無人モビール部隊が一斉攻撃を仕掛けて仕留める。
『本当にそのバカをどうにかして欲しいぜ』
ティクス4担当のボールズ、バックスが溜め息を吐く。
『普通に戦えば勝てる実力を持っているものを』
「お疲れ様です」
『お疲れ』
ボールズにはTPOに合わせて、人間ボディーも用意されている。
ボウルに手足が生えた人型になって、人間ボディーに入れば誰の目からも彼らはフォレスの仲間となれる。
バックスは筋骨隆々の大男のボディーを使っているが、リーノは2回目の顔合わせの時に一度見ただけ。
しかしこの一週間で、リーノも4人のボールズを見分けられるようになった。
「バックスさん、どうして隊長はあんな戦い方を?」
『ただの趣味だ。子供の頃から暇をみつけては、目を輝かせて観てきた聖典だからな』
「ブレイバーGですか」
リモコンで自在に飛び回る拳、離れた相手に大ダメージを与える熱線などを武器に大活躍する巨大ロボットアニメーション。
「20年前に発見されて復元された映像作品。俺も観たことありますけど、そこまでハマリはしませんでしたよ。感性って人それぞれですよね」
『ははは、正直なんだな。好きな物を好きと言えるのはいいことだ。だが戦い方を考えないと、ああなる』
「確かに飛ぶ拳も放熱板も、使い方次第で実力を発揮できそうなんですよね」
『それは美学が許さないんだと』
月に一度と言っていた出動が三日続けてあった。
今朝、4度目の出動があった午後、フォレスは出社していていない。
隊長不在の戦隊はメンテナンスを受け、これまでの問題点の洗い出しなどをする。
当然リーノに戦隊の為にやれることは無く、こうしてボールズに情報収集の手伝いをしてもらったり、シミュレーターを使わせてもらったりと、時間を有効利用してた。
高性能AIの彼らとの相性もあり、リーノとはサブリーダーのフローラとバックスと気があった。
お調子者のクロード、クールビューティーのレイラとも壁があるわけではないが、自然とフローラやバックスといる時間が多くなる。
『どうですか? 今回のシミュレーターは』
「わざわざブラストレイカーのデータを用意してくださって、ありがとうございます。なかなか上手く動かせてませんが助かります」
ここへ研修に来た一番の理由。
リーノは巨大ロボ戦を学ばなければならない。
『ただ合体巨兵の操縦技術を身につけたいと言われても、ブレイブティクスとは運用方法が違いすぎるし、ウチもクロードの戦闘補助があって、レイラの機関管理があるから、フォレスが思い切って闘えているわけだし、それを貴方一人で全部をって言うんでしょ? 本当に先輩方は頼りにできないの?』
「はははっ、必要な時があれば協力するとは言ってくれるんですが、あの人達がその気になるのって、多分土壇場なんだろうなって」
モビールならいつでも貸してやると言われている。
だからリーノは一人で動かせる操縦法を、なんとしてでも身につけなくてはならないのだ。
『ベルトリカには確か、他にもメンバーがいたんじゃあなかったかしら?』
「そうですね。ちょっとウチの女性陣に手伝ってもらえないか聞いてみます。もし上手くいったら、ブレイブティクスと同じ様にできるはずですもんね」
『それがいいわ。一人で人型ロボットを運用するのは大変なものよ』
モビールはどんな姿をしていても一人で扱えるものなのに、大きくて複雑になると途端に手間が掛かるようになる。
出向から十日、なかなか結果の出せなかったリーノだが、仲間の合流でシミュレーションは次の段階に進んだ。
ソアとリリアがオリビエのシャトルで運ばれてきて、ジャッジメントオールのリーノと合流した。
ソアとオリビエがシミュレーターのデータをシュピナーグにインストールしてくれて、訓練が愛機で続けられる様になった。
リーノは補助役のソアとリリアと一緒に、ブラストレイカー合体実験の準備をする。
アークスバッカーは、ソアがシュピナーグのコパイに乗ってコントロールする。
そしてリリアが夜叉丸を担当することとなり、背中に取り付いた妖精族専用モビール、リリアーナから操作する。
「リリアーナの改修に、こんなに時間が掛かるとは思わなかったわ」
特殊な操作方の夜叉丸は、どうしたってリリアが扱える物じゃあない。それはリーノも同じだった。
それに教えを請うジャッジメントオールに合わせるのには、モーショントレースは封印し、別回路を繋いで対処するのが得策だった。
「どうだリリア、夜叉丸は上手く扱えたのか?」
『も、問題ないわよ。リリアーナを操縦するのと同じだもん』
リリアは夜叉丸と合体したリリアーナで試験運転を試みた時に、ベルトリカへぶつけてラリーに怒られたことを思い出す。
『へ、平気大丈夫へっちゃらだから』
ここは戦隊の基地の中、実際に機体を動かすことはない。
「……それじゃあ先ずは合体からだな」
シミュレーションを開始、視界に疑似宇宙空間が拡がる。
『ブラストアップ』
今回はアークスバッカーと夜叉丸を借りることはできなかった。
なのでこれもプログラム上のヴァーチャル合体。
プログラムを組んだソア自身は自信満々だが、これすら失敗していてはどうしようもない。
『レッツ! レイカー、オン』
「……なに失敗してんのよ」
3人が声を重ねる『レイカーオン』の一言で、ソアはラリー達同様に叫ぶことを拒み、前回のようにリーノの声を変換して入力した。
当然同時入力は成功した。
リーノの声に合わせられなかったのはリリアである。
『えー、私じゃあないよ。リーノがリズム狂ったんだって』
声をラグ無く完全にリンクさせるのは難しい。
リーノが一人でコマンドを入力する方法は大正解なのだ。
それをリリアがどうしてもやりたいからと試みた、これは当然の結果だった。
「じゃ、じゃあリリアが俺達の分も叫んでくれよ。叫び役を譲るからさ」
『本当にいいの!?』
「ああ、うんいいよ」
本当はフォレスのように自分の操作に合わせて叫びたい、だがリリアが折れてくれるとも思わない。
リーノは男として一皮剥け(?)た。




