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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode29 「また、テメーらかよ!」



「あんたらか、あの野党共にウチの海賊団の情報を垂れ流したのは?」


「ご明察。私、このプラズマ砲が欲しいのよ」


「火事場泥棒とは恐れ入るよ」


 モニター越しにオリビエは発射準備をしていると勘違いしたが、ベックの指示でバシェットとデルセンが固定具を外す準備を進めていたのだ。


「なにあのちっさいの? さっきの女のところにもいたけど、あの2人はともかく、ベックまで翻弄されるなんて、あれも貰ってくれば良かったわ」


 バシェット=バンドールに2体、デルセン=マッティオに3体、そしてベック=エデルートに10体のミニが向かっていく。


 その統率の取れた、それでいてパターン化されていない連携で、名うてのクリミナルファイターとも渡り合っている。


「あんたが来なけりゃ、私も混じって片をつけられたんだがね」


「そのゴーグルは奇抜なファッションよね」


「大事な友人が貸してくれたんだ。バカにすることは許さないよ」


 ソアからのリンクの解けたミニ達の制御はいま、ミリーシャの脳波を元に自立対応している。ヘレンの妨害工作が逆にミニ達の進化を促した。


「それ、ベルトリカの機械少女の物でしょ? なんて用意周到なんだか」


 偶然の結果だが、そう言う顔を見せてくれるのは悪い気がしない。


 ミリーシャはゴーグルを外し、マントの中にしまうと、細身の愛剣を取り出した。


「こういった可愛いデザインが私に似合わないのは、本人が一番分かってんだよ!!」


 先手必勝、完璧なスタートダッシュからの、一直線に喉を目掛けた突きを繰り出す。


「素人くさいと思ったんだけど、意外といい動きをするじゃあないか」


 ソニアが防具を着けている腕を交差させて、ミリーシャとヘレンの間に割り込んだ。


「咄嗟だったから、手が抜けなかったよ」


 強烈な突きの威力に剣先は折れ、ソニアの手甲も粉々に割れてしまい、左の前腕からは血が流れ落ちる。


「いい判断だよ。けど度胸だけじゃあ護れないものもあるんだよ」


 ミリーシャが左手に持つレーザー銃で、ヘレンの手にある端末を破壊し、ソニアの腹を足の裏で押しのける。


 予備に持つビーム剣でヘレンに飛びかかるが、こちらの身のこなしは流石に普通ではない。


 ミニ達10体を相手にするベックほどではないが、ヘレンは最小限の動きで、ミリーシャの連撃を避け続けた。


「はぁ、あれ欲しかったけど、なんだか面倒になっちゃった。さっきの子を連れて帰るので満足するわ」


 オリビエとは気付いていないが、ランベルト号の新装備に関係している事には勘付いているヘレン。


 今この時点でさっきのと言われて、ミリーシャもそれがオリビエを指していることに気付き、連撃の速度を上げる。


「ああ、面倒だって言ってるでしょ」


 ヘレーナ=エデルートも刀を抜き、刀身にエネルギーをまとわせる。


 三回ほど刃を交えると、刀を力押しにし、ミリーシャを後退させる。


「あんた本当に人間なのかい?」


「はぁ、私は戦闘部隊員じゃあないのに、その言い方は酷いんじゃない?」


「お家事情は何となく知ってるけどね。この私に力比べができる女がまともなはずがないだろ」


 最新技術の結晶である、自慢の義体を使うミリーシャの体力は常人の数倍。


 並の男では相手にならないほどの怪力だ。


 ミリーシャが剣をマントにしまって掴みかかると、四つに組んでの力比べにヘレンも応じる。


「やっぱりまともじゃあないね」


「“氣”を使いこなせば、これくらいなんてことないのよ」


 実力伯仲の二人、ミニを何体かこちらに回したいミリーシャだったが、ゴーグルを外しているので対応ができない。


 手の塞がるキャプテンの背後から、腕の応急処置を済ませたソニアが迫る。






 外の様子も中の様子も分からないオリビエは、物陰で足を抱えてしゃがみ込んでいる。


 動かないミニを見て、ため息までこぼしてしまう。


 キャプテンにここのシステムを乗っ取るように言われたのに、役目を果たすどころか、何一つ仕事をこなせないで、ここから抜け出すこともできない。


「ふぅ、やっと抜け出せたか」


 その声が聞こえてくるまで、拘束されていた男たちがゴソゴソしていたことに、オリビエは気づけなかった。


「なんだこのファンシーな人形?」


「おい、ボタンがなんも反応しねぇぞ」


「扉も開かねぇ」


 男4人はさっきまで失神していて、ここで何があったのかを全く知らない。


「あの女海賊がやったのか?」


「そうだ、この人形も一緒に飛びかかってきやがったんだ」


 ミニは踏みつけられ、蹴られてもピクリとも動かない。


「んだ? 壊れちまったのかよ!?」


 蹴り飛ばした後、警戒して身構えた男だったが反撃はなく、別の一体を拾い上げて壁に叩きつける。


「おい、遊んでないでこっち手伝え」


「へい、兄貴」


 男たちはどうにかここから、ここから抜け出そうとしている。


 オリビエは声を潜めて、脱出のチャンスを窺う。男たちが扉を開けて出て行くのを待つ。


 のだが4人寄って集って何をしているのか、事態は全く進展しない。


「くそー、緊急開閉レバーの蓋が錆び付いてて開かないぞ」


 何をもたついているのかと思えば、整備不良で思うようにいってないようだ。


「ちょっと待てよ。工具箱が確か……」


 1人が道具を求めてオリビエが隠れている近くまでくる。


 絶対に見つかるわけにはいかない。


 その緊張感が物音を立てさせる。


「なんだ?」


 行き届いていないのは整備だけでなく、整頓もされていない発令所には、至る所にゴミが散らばっている。


「んだ、おまえ?」


 逃げ場もなくあっさり見つかってしまう。


「どうかしたのか?」


「女だ」


「はぁ、おまえ何言って」


 最初にオリビエを見つけた男に手を捕まれ、物陰から引きずり出され、緊張で身を固めてしまう。


 義体のパワーなら鍛え上げられていようが、生身の人間に負けるはずもないのだが、こう言ったときにどうすればいいのか、オリビエには何も思い浮かばず、簡単に周りを囲う男たちの中心で腰を抜かして立てなくなってしまう。


「おお、なんか知らんがイイ女じゃねぇか」


「ああ、俺好みのナイスバディー」


「少し幼顔なのもいいねぇ」


「おいおい、俺が最初に見つけたんだからな。先ずは俺から」


 震えて動けないオリビエに大男が跨る。


 厭らしくニヤついた顔が、何を考えているのかは一目瞭然。


 大きな右手がオリビエの左の乳房に被さる。


「おお、デケー! やわらけー!!」


 義体は多くのセンサーがついていて、皮膚感覚も脳に響いてくる。


 本来の胸のサイズに関わらず、感触はダイレクトに伝わってきて、オリビエは今まで出したことのないような吐息が漏らしてしまう。


「なんだなんだ、もしかして期待してんじゃねぇか?」


 オリビエの頭側に立つ男が自分のベルトを外しにかかる。


 この後の結末が脳裏に浮かび、オリビエは強く目を瞑って涙ぐむ。


 諦めることなく抵抗さえすれば、大男だって簡単に弾き飛ばせるのに、耳を手で塞いで体を強張らせる。


(助けてラリー!)


 今、助けてくれる可能性が、限りなくゼロに近い仲間を思い浮かべるオリビエは、頭の中でラリーの名前を連呼した。


 心で助けを呼び続けるオリビエは、何も起こらないことに気づくことなく、ジッと黙ってこらえていた。


 男はすぐには襲ってこず、そんな蛇の生殺しのような状態が続く。


 しばらくして無音の暗闇の中で、左肩に手が添えられビクンとする。


 起き上がらせられたオリビエは、抱え込まれるように抱きつかれ、いよいよ身を固くした。


 しかしそこからもまた何も起こらず、なんだか少しずつだけれど、自分の緊張が解けていくことに気づき、オリビエは耳を塞いだ手をどけて、目を開けた。


「もう大丈夫だ」


 涙が出た。


 大きな右手が頭を抱えてくれる。


 温かい左手が背中を支えてくれる。


 左の頬に優しい温もりを感じる。


「ラリー、……来てくれた」


 オリビエは思い切りラリーに抱きついた。


「安心しろ、もう何もッ!?」


 義体姿のオリビエとの初顔合わせ、初のパワーを実感するラリーだった。

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