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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode26 「なんか、スゲーな!」



 超高速航行中の船は本来、荒れ狂う高波の大海原を、オール一本で乗り越えるようなもの。


 物理法則を乗り越えて、光速をも超えるスピードを通常空間で出す航海は、いつ船がバラバラになってもおかしくない状況が続く緊張の連続。


 のはずが、重力制御ユニットを回転させた時に発生する力場が、船体を包んでガードしてくれるお陰で、船内には穏やかな時間が流れていた。


 ブリッジ以外では。


 レーダー観測員は随時変化を続ける観測データから目を離せず、操舵士は微妙な進路補正を補助AIの指示通りに遂行し、機関長はエンジンと重力ユニットがいつ駄々をこねないかを目を見開いて監視し続けた。


 そんな艦橋を副長に任せたミリーシャは、ベルトリカのシャトル内で、工作をしているオリビエのところに顔を出した。


「かなりいい感じで出来上がってるじゃあないか」


 シャトルは超高速航行に入る前に、ランベルト号の格納庫に移させた。


 この格納庫には突入艇しか搭載されていないが、その一基を外に出せば、小型宙航艦であるベルトリカを収容できるスペースがある。


 それなのに、この船にはモビールの一基も搭載されていない。


 シャトルの後ろには突入艇、その更に奥には完成したばかりの重力制御ユニット。


「ウチの工作室使っていいって言ったのに。ここの数倍は使いやすいはずなんだから」


「手慣れた環境で作業する方が効率いいの。ベルトリカの工作室をそっくりそのまま移したんだから」


「本当にそれ、いいのかい? シャトルとして機能するの?」


「大丈夫大丈夫、誰も使ってないから」


 ベルトリカへの資材の搬送は、全部契約している宇宙船ドックで行える。


 あと運ぶとすれば人だけなのだが、モビールが場所を選ばず、宇宙でも大気圏内でも自由に飛び回れるのだから、わざわざ着陸場所も決められているシャトルを利用する機会なんてほとんどないのが実状。


「あんたの所の事務員はどうなの?」


「アンリも個人のモビール持ってるよ。今、ベルトリカで専用機がないのは僕とソアだけ。なんだけど、ベルトリカはソアが好きにしちゃってるし、このシャトルを僕の物にしちゃえば完璧。って話になったから」


 それをチームリーダーのラリーが認めてるのなら言う事はないが、いざという時に困りはしないのかと心配にはなる。


「まぁいいけど。それで、後どれくらいで完成するの?」


「う~ん、完成と言えば完成なんだけど、キャプテンはどれくらい使えれば、問題ないと思ってるの?」

「そうだね。最低でもウチの若いのに負けないくらい。かな」


 オリビエが仕立てているのは自分用の義体。


 キャプテン・ミリーの物をベースに、身長の低いオリビエのかさ上げを目的に作り始めたのは、メガロ・スマッシャーの試射を見届けた後直ぐ。


「着けてみなよ」


「……」


「どうしたの?」


「今さらだけど恥ずかしい」


 キャプテンの義体設計図を見本に、何も考えずに図面を引いたのが間違いだった。


 出るところが出て、引っ込むところが引っ込んで見えるというのは、オリビエも女の子として一度は憧れた理想の容姿。


「ぴったりじゃあないか」


「そりゃ、僕に合わせて作ったんだから」


「けどその格好で、そのゴーグルはいただけないよ」


「あっ!」


 ミリーシャはオリビエのトレードマークとなっているゴーグルを取り上げた。


「や、止めて……」


「自分の顔に自信がないんだね。いいから私に任せて」


 とその前に、いつまでも裸でいられても、いくら女同士でも目のやり場に困るという物。義体だけど。


「ほとんど今の私と同じ身長だし、これを着るといいよ。……」


「どうかしたの?」


「いや、あんたは五体満足な体なのに、手とか足とかどうなってるのかなって」


 体は二回りほど大きくなった。当然バランスよく腕と脚も伸びたのだが、手と足はどこに収まっているというのか。


「言ってなかったっけ? って、目の前で付け替えたんだから言うまでもないでしょ」


 ミリーシャのように両手両足を胴体との付け根で失った訳ではないが、オリビエも両手首と両足首の先を持っていない。


 ベルトリカ最大の事件、その時に負傷したオリビエは命を取り留めはしたが、壊死し掛けた手足は諦めるしかなかった。


「そうだったのか。ちょっと無神経な聞き方をしちゃったね」


「謝る事ないよ。キャプテンに比べれば、大したことないから」


 ミリーシャが持ってきた、黄色いワンピースを着せたオリビエを椅子に座らされた。


「お化粧?」


「したことないかい?」


「うん、一度だけお姉ちゃんの玩具にされて」


「フランソア=グランテ、ベルトリカの前リーダー。お姉ちゃんはどんなお化粧をしてくれたんだい?」


「それがヒドイの……」


 2人は他愛ない話をしながら、ミリーシャ任せのメイクアップタイムを過ごし、しばらくして渡された手鏡に映る顔を見て、オリビエは体中を紅潮させた。


「これが僕?」


「どう?」


「なんか……恥ずかしい。これじゃあまるで女の子みたいだ」


「そんな感想ないでしょう。自信持っていい。あんたは研けば光るんだよ」


 垂れ目が直った訳じゃあない。目が大きくなったわけでもない。


「ショートカットもいいけどね。顔のパーツを大きく見せたいなら、髪の毛はもっとボリューミーでいいと思ったんだよ。さすがは私だね」


 オリビエに被らせたファイバーウイッグは、長さまで変更できるデコ盛り仕様。


 様々なヘアースタイルをアレンジできる最新アイテム。


 ふわふわもこもこの茶髪は、顔に被って小顔効果は抜群。


「どうやったらこんなに目を大きくしたり、引き締まって見えるようにできるの?」


「気に入ったなら、ちゃんとやり方を教えてあげるよ」


 手に持つ手鏡を離そうとしないオリビエに、最初からあげるつもりだったメイク道具を渡す。


「大丈夫、覚えたから」


「えっ、どうやって?」


 顔のメイクをしていたから、オリビエが目を開けていたのはほんのわずかな時間。


 だいたい今まで一度も自分で化粧をした事のない子が、結果だけを見て直ぐに真似できるはずがない。


「いけるよね、ベル」


『うん、ダイジョウブだよぉ』


「って誰?」


 ここはオリビエのシャトルの中。機体の主とミリーシャ以外には誰もいないはず。


「キャプテンに紹介する。このシャトルの管理AI、名前はベルだよ」


『はじめましてぇ~、生まれてまだ日も浅いけど、いっぱいママに可愛がってもらってバンバン成長しちゃってます。よろしくね、キャプテン・ミリーさん』


「だからママじゃないし」


『えぇ~、ベルの生みの親だからオリビエはママじゃん。お姉ちゃんとリンクしてるから、ベルはちゃんと知ってるよ』


「なんでボクがママで、その僕より年上のティンクがベルのお姉ちゃんになるの?」


 元となるデータはティンクなんだから、どちらかと言えばそっちが親といっていいのでは?


『どっちだって良いじゃん。ベルが決めたんだからオリビエはベルのママなの』


「またこいつは賑やかだね。なるほど、このAIちゃんが今のメイクをしっかり記録しているってんだね?」


「そう言う事」


 こうしてオリビエはメイク方法もメイク道具も手に入れた。


 ミリーシャは今来ているワンピースの他にも20着ほどを渡した。


「それじゃあ、お披露目も兼ねて、ブリーフィングに入ろうかね」


「えっ、このまま行くの?」


「当たり前だろ。何のために急いで仕上げたと思ってるんだい?」


「それは分かってるけど、今じゃなくていいでしょ」


「なに言ってんだい。事件が起きるかどうかは分からないけど、その時になってからじゃあ遅いだろ。あんたの事はノエルに預けるけど、自分の事は自分で守れるのが一番なんだから」


 義体を着けたオリビエがどれくらい動けるものなのか、前突入部隊長エルディーの評価も欲しい。


「みんな驚くだろうね。そんなに恥ずかしいならボクじゃあなく、アタシとか言っちゃうとかね」


「からかわないでよ、キャプテン」


 恥じらう少女は、年相応のかわいい笑顔を見せた。

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