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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode25 「なんか俺らのチームが便利屋にされてねぇか!?」



 試射のためにランベルト号が向かったのは、公式航路から大きく外れた、常に磁気嵐が荒れ狂う宙域。


 どんな形でも足を踏み入れようものなら、帰ってくることのできない、宇宙船の墓場と名高い暗黒空間。


 宙航図を確認するノエルが顔を上げる。


「キャプテン、間もなく進入禁止宙域です」


 完成した重力波砲はまだ試射をしていない。誰もいないこの宙域を選んでやってきた。


「ちゃんと見えてるわよ。機関フル回転するよ。メインエンジン50%カット、閃光防御フィルターダウン」


 キャプテンの指示を受けて、ブリッジクルーが復唱しながら手順を踏んでいく。


 一つ一つ確認をしながら、発射準備が整っていくのをノエルがチェックする。


「ターゲットロック、重力レンズ展開、ハッチオープン」


 ミリーシャがトリガーを握る。


「重力バレル接続良し!」


「グラビティーバレット装填、最終セーフィティー解除します」


 機関長の合図と副長のゴーサインを受けて、握ったトリガーの指に力を入れる。


「メガロ・スマッシャー、ブラスト!」


 空間が歪み光が乱反射する。


 煌めきは一瞬で過ぎ去り、航海長からの報告が入る。


「磁気嵐の消滅を確認しました」


 自然現象で巻き起こる磁気嵐だから、しばらくすればまた磁場が狂い出すのだろう。


 だが今はまるで凪のように静か、ランベルト号から撃ち放たれた重力波砲が、磁気嵐を吹き飛ばしたのは間違いない。


「これは成功でいいのか?」


「キャプテンにはそれ以外の何に見えるの?」


 立会人のオリビエは小さく拳を握り、データの纏めに入る。


「ねぇ、ミラージュ。キャリバー海賊団に……」


「だから何度も断ってる。どんなにお金積まれてもないから」


 ミリーシャの義体のメンテナンスを、ファクトリーと同じ金額で請け負う約束をした時から、事ある毎に勧誘され続けているけど、受ける気は毛頭ない。


「20%の出力だったけど、試射は成功。今のデータを持って、ボクはまたファクトリーに戻るから」


 廉価版の重力兵器の組み立ては間もなく完了するはず。


 メガロ・スマッシャーを100として、廉価版が5の威力を超えられるか、それはオリビエの最終調整に掛かっている。


「そんじゃあ」


「ちょっと待ちな」


 リーノが待つエアーロックへ向かおうとするオリビエを呼び止めた。


「なに?」


「全力全開を見てみたい」


「……そんなの自分達だけで確かめてよ」


「いやいや、お前がいるうちにだよ」


「……僕がじゃあなくて、でしょ?」


 オリベエはリーノに連絡を入れる。


「もう終わった。かえろー」


「ちょ、ちょっと!?」


「いきなりフル回転なんてあり得ないから、しかも古代ユニットまで全力で回すだなんて」


 注意を受け、渋々と引き下がるキャプテン・ミリー。


「それじゃあ、何かあったらAIのティンクか、アンリを通してね」


 ノエルに2、3言残して、オリビエはブリッジを出て行った。






 ランベルト号は重力波砲の第二射を試すことなく、輸送の仕事に取り組んでいた。


 今回の荷物は評議会直通の荷、ゲートウェイを利用することを禁じられたレアメタル。


 発掘されたのはまだまだ調査が残されているエルガンド。


 銀河評議会が監視はしているが、加盟登録までは多くの課題を抱えた惑星からの出土品。


 また評議会本部のあるノインクラッドまでは、一般的な輸送船で航行すれば、1年はかかってしまう。


 ランベルト号でももちろん、超空間を利用する方が当然早く輸送できる。


 しかし全く別理論で、超高速航行を可能としている古代遺産の復刻船は、ゲートウェイを利用せずとも、5倍ほどの時間をかければ同じ距離を踏破できる。


「悪いね。早速来てもらってさ」


「いいよ。今回はどう考えても親方が悪いんだし」


 連絡を受けてランベルト号へ来たオリビエは、これからもこうして呼ばれるのだろうと考え、ベルトリカ搭載のシャトルを突貫で改造した。


 資材格納室に簡易工作室を造り、ティンクをベースにして作成したAIに制御を任せられるようにした。


 ベルトリカでエルガンドまで送ってもらい、そこからランベルト号まではシャトルに搭載したAIの“ベル”が連れてきてくれた。


「ベルトリカにあの三機のモビール以外に、こんなのも積んでいたんだね」


 シャトルはランベルト号の船底に、上下裏返しの状態で接舷してある。


「ここに来るついでにニィーニも拾ってきたから、直ぐに機関室に行くね」


「そいつは助かる。それで本当に機関を焚いたままで作業ができるのかい?」


「大丈夫、元々そのつもりで、親方はユニットを勝手に改造したみたいだから」


 重力波砲のエネルギーを推力に用いる事は可能だと思うと、確かにオリビエは親方に話した。


 ただ絶対の安全に太鼓判は押せなかったので、オリビエは実行しなかったのに、こんな勝手な事をしてくれるとは。


 しかもキャプテンに、こっちが知らないうちに喋っちゃっているし。


「どう、ニィーニ?」


「おっ、来たか。そうだな、流石オヤジって言いたいところだけど、お前の言う通り保証はない。ぶっつけ本番でやってみるしかないな」


 頭領として、父として尊敬と信頼を傾けてはいるが、頑固者で技術者としての自信が強過ぎて、人の警告を聞き入れようとしない欠点は如何ともし難い。


「ここに来る前に図面を一通り見てきたけど、無駄がなさ過ぎて、正直不安が残ってる」


「うん、ニィーニの言いたい事分かる。親方は間違いなく超一流の名匠だけど、新しい物も簡単に受け入れるの怖い所だもんね」


 ウイスクに回してもらった図面にオリビエも目を通し、深い深い溜め息を零した。


「これがキャプテンの義体……」


「って、そっち?」


「ああ、うぅうん。ちゃんとそっちも見たよ。たぶんあれって、親方が僕の図面見た時から考えてたんだろうね。もし問題点が残ってたとしても、機関に繋げて運転してみないと分からないね」


 絶対の自信を持っている頑固者は絶対現場までは来てくれない。


 2人の愛弟子は、ゼロではない不安を吹き飛ばすようにグータッチする。


「それじゃあ機関室の方は俺が担当するよ」


「うん、僕はブリッジでモニタリング。慎重なニィーニにエネルギー制御任せるからお願いね」


 ファクトリーでの失敗を気にして……ではない。冷静な判断で、担当を振り分けて作業開始。


 ランベルト号は既に超高速航行を始めている。


 このままでも三日後には目的地に到着できるところを、運転中に手を加えて動けなくなれば、名前に傷が付くのはキャリバー海賊団。


 それでもワンボック・ファクトリーを信頼して任せてくれている。


 元々このランベルト号は、古代超文明技術の寄せ集めの塊である。


 フィッツ・キャリバーの技術者が、相性を探り探り組み上げた赤い船に、ファクトリーで新造したユニットが噛み合うかは2人の腕にかかっている。


『それじゃあ重力ユニットを起動するよ』


「はぁい、お願い」


 緊張の瞬間。モニターで状況を確認している乗組員。


 全く動揺していないのはキャプテンと副長、前現2人の突入部隊長と機関長の計5人だけ。


「……よし!」


『どうだい、オリビエ?』


「大丈夫! 変換されたエネルギーに機関は拒絶反応はない。このままエンジンに回すよ」


『いいぞ』


 緊張の瞬間だが、機関長が表情一つ変えることなく操舵士にサインを送り、ランベルト号はスピードを上げる。


「おおー!」


 どこからともなく歓声が上がり、先ずは第一段階をクリアしたことを全員が喜ぶ。


「それじゃあニィーニ、徐々にレベルを上げていって」


 先ずはメガロ・スマッシャーの試射で充填したのと同じ、20%まで回転数をあげる。


「ほぉ、これほどとは」


「ボフソン、どんな感じなの?」


 機関長のボフソン=ベルベロスは、エンジンの出力が3%も増したことに感嘆の声を上げ、ミリーシャはその結果を聞いて満足げに笑う。


「それじゃあ、ノインクラッドまで様子を見ながら、時間短縮できる限りフォローするよ」


「ああ、頼んだよミラージュ」


 赤のガレオン船は更に加速する。

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