Episode24 「みんな元気でなによりだ!」
目を覚ましたオリビエは、その見慣れない天井を忘れてはいなかった。
「ここ、ファクトリーの医務室……」
まだ頭がボーッとして、なぜ自分がここで寝かされているのかが思い出せない。
『よっ! 目ぇ覚めたか?』
「ラリー!?」
オリビエは慌てた。
医療カプセルの中は治療液で満たされており、酸素マスク以外は何も身に着けていない状態。
と言っても外から見えるのは、使用者の顔だけだから問題はない。
普通ならば。
『どうした? 大した怪我はないから、目を覚ます頃には完全に治ってるって聞いたんだが、まだどっか痛いのか? 親方かフンデを呼ぶか?』
そんな心配はいらない。
ラリーが言うように怪我そのものは、本当に大したことはない。
しばらくカプセル内にいたお陰で、もうどこも痛くはない。
「治療完了のサインが出てるから心配はいらない。もう出るから部屋の外で待ってて」
『お、おお。そうか、分かった』
優しい笑顔を残して、ラリーは席を外す。
オリビエはちょっとしてから、カプセルを起き上がらせて、リキッドを抜いて治療器から出る。
シャワールームで治療液を流し、乾燥室に入り少し考え込む。
「はぁ~あ、せっかくお見舞いに来てくれたのに……」
更衣室の姿見に自分を映し、どんよりしてしまう。
無駄な脂肪のないと言えば聞こえはいいが、ただ単にメリハリのない体。
胸の膨らみは申し訳程度、腰もくびれている訳ではない、お尻も背中の延長みたいで出っ張っていない。
「16歳にもなって、まるで男の子みたい……」
なにより気にしているのが、小さくて垂れている目。
実用性とコンプレックスを隠す為に付けているゴーグル。
それなしでラリーに面会した事が、思い出すだけで恥ずかしい。
「そうだ、実験!?」
急いで服を着て、ゴーグルを付けると親方に連絡を入れる。
『おっ、起きたか。どうだ調子は?』
「もう問題ないよ親方」
『だったらさっさと研究室に来い!』
強く言われなくても実験がどうなったのか、今すぐにも知りたい。
「うん、わかった。すぐ行く」
オリビエが医務室を出る。
「よぉ」
そこで待っていたのはチームリーダー。
「本当に元気そうだな」
「えっ? う、うん。平気だよ」
ついさっき素顔を見られたばかりとあって、視線を合わせられない。
「どうした? 本当に大丈夫なのか?」
「本当に大丈夫だから、早く行こ」
俯いて足早に歩を進めるオリビエの後を、歩幅の広いラリーはゆっくりと付いていく。
重力波砲のユニットは結論から言えば、最後はオリビエ抜きで完成された。
オリビエが強引に電圧を上げたことでユニットは起動し、しかし安定しない重力波の制御にフンデは神経を削られたが、オリビエが研究室に顔を出す頃には安定していた。
事故を起こした時に着ていたアストロスーツは、絶縁も完璧で電磁波はオリビエの体まで届いていない。
だが爆発にも似た衝撃波は完全中和できず、宇宙空間で激しく飛ばされたオリビエの小さな体は、ファクトリーの外壁に勢いよく叩きつけられた。
フンデを始め、皆がオリビエの無事を喜ぶシーンに数分をおいて、重力波砲のドック入りしたランベルト号への設置が始まる。
「さてお前さんはこっちだ」
親方は一人、ミリーシャと個人工作室に場所を移す。
「ったく、お前さんはいつもいつも手間をかけさせよって」
「だからいつも言ってるでしょ。ちゃんとウチのクルーにメンテしてもらってるから、ここまで来る必要ないって」
「バカ言え、データ通りに部品さえ交換すればいいってモンじゃあねぇ。いつもそう言ってんだろ!」
「ああ、分かった分かった。ランベルト号の方が終わらないと、私だけでは逃げられないからね」
ミリーシャは海賊装束を脱ぐ。
「っておい、ジジイ」
「なんだジャジャ馬」
「なんだじゃあない。出てけ!!」
メンテナンスの為には服を全部脱がなくてはならない。
「俺はそいつの製造者だぞ」
「そっちも診られたかないが、私の体を見せる気はもっとないからな」
「ったくぎゃーぎゃーとやかましい事をいいやがる」
ぶつぶつと言いながら出ていくオルボルト。ミリーシャは扉にロックを掛けた。
持ってきたアタッシュケースを開ける。
実家で付けていた義手と義足が填まったハンガーが展開し、キャプテン・ミリーの義体姿で前に立つ。
ミリーシャの義体は、裸になっても見た目は健常者そのもの。
「本当にすごい、いつ見ても思うけど、本当に感謝だよ」
最初はキャプテン用にも、実家の開発室で作ってもらった義手義足を使っていた。
それでも普段の生活は全く支障もなく、それで満足もしていた。
それが5年前、22歳の誕生日にギャレット老からプレゼントされたこの義体は、目も眩むほどの高級品だったが、その精度ももちろんのこと、見た目の美しさに感動もした。
それまでの物のように手足だけを伸ばすのでは、服で隠せるとは言っても、やはりバランスが悪い。
そこでおへその位置が実際より低い位置にあり、重心を安定させる為にお尻は義体のお腹の位置に、作り物のお尻に少しだけ残った、本当の太腿を突っ込ませた。
お尻を大きくした分、胸も太股もボリュームを持たせた結果、ナイスバディーな女海賊として生まれ変わることができた。
その後、実身長用の義手義足もこの工房で作ってもらい、親方とも以来のつき合いが続いている。
「これはもう私のもう一つの体だからね。あの爺さんに裸を見られているみたいで、いい気はしないんだよね」
とは言えオルボルトに調整してもらった後は、調子が格段にいいことを実感しているだけに、このメンテナンスの重要性も理解はしている。
フィッツキャリバーから連れてきた技術者の腕も悪くはないが、親方は別格なのだ。
「やっと開いたか。おーら、はじめるぞ! ってなんだこりゃ?」
「なんだじゃあないよ。別にメンテナンスに必要ないんだ。問題ないだろう」
「なに言ってる!? この義体はデリケートなんだ。ちゃんと隅々までだな」
「本音は?」
「これっくらいの楽しみはあってもいいだろう。って、なに言わせやがる」
「マジでか?」
「バカやろう! 中身がなくて何を楽しめってんだ。仕事だ仕事」
胸に張ったテープを剥ぎ取られ、他の箇所のも剥いてニヤつく親方の顔は憎たらしい。
しかし調整がデリケートなのは本当のこと。
黙って受け入れるしかないと諦めかけるが、そこに助手として入ってきたオリビエが、親方の代わりに興味津々で義体を眺めてくる。
「そんなに珍しい物でもないだろう。ソア=ブロンクと一緒にロボット作ってるんだから」
「うん、だけど人とリンクするシステムは扱ったことがない」
「そうか、それを覚えてくれれば、お前に診てもらえるようになるのにな」
「でもその部分だけなら、キャリバーの担当者さんでもできるんじゃあないの?」
「馬鹿たれ、そこが一番難しいんだろうが、やるぞジャジャ馬」
「ちょっと待て、あれを他のヤツがいるところでやるのか?」
調整の名目で、ミリーシャと神経をリンクした状態で義体中を弄繰り回られる。
肌に直接触れられている感覚があって、中々の羞恥プレーとなる。
「お前さんが、俺にさせねぇって言うから、わざわざこいつを呼んだんだろうが!」
義体は感覚センサーの塊で、海賊業をする為には欠かせない、痛覚や触覚の神経回路を調整するのに、中途半端な技術者には任せられない。
「お前さんは俺が来いと言ったって、簡単には来ねぇからな。今後はこいつが面倒診れるように詰め込んでやるよ」
それはミリーシャにとっては願ってもない配慮だが、オリビエの緊張が半端ではない。
「ボク、この一回で完全にマスターしないといけないってことだよね?」
「なぁに、お前なら問題ない。なんせここで修行させた奴らの中でお前だけだからな。俺の技術を全て吸収しやがったのはよ」
豪快に笑うオルボルト。
この日より数日後、改めて引き直した図面を元に、フンデ達が重力波砲の廉価版を完成させるよりは早く、オリビエはミリーシャの義体を調整する技術を習得した。




