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ISRIGHT -銀河英雄(志望の)伝説-  作者: Penjamin名島
motion02 赤の章
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Episode23 「親方、あんた責任者だろ!」



 全員が座る応接セット、最後に親方が入ってきてから無言の時が続いている。


 腕組みをして目を閉じている、への字口の親方。

 親方が来る前には空になっていたグラス。オリビエは口の中の氷をコリコリさせている。


 2人の出す負のオーラが、他の面々の口まで閉ざさせる。


 こう言う時にクララがいれば、リーノは脳天気な幼馴染みの顔を思い出す。


「おい小僧」


「んだよ親方、ご機嫌斜めだな」


 ラリーはこうなると予想していた。


 不器用な2人がまともに向き合いもしない空気を打破するには、誰かをクッションにしないと進めない。


「いやなんだ、お前らいったい何しに来た?」


「そいつは聞く相手を間違ってるぞ。なっ、オリビエ」


「うぐっ!」


 氷をガリッと噛み砕き、タイミング良く来た替えのリンゴジュースのストローをくわえて、息を吹いてブクブクさせる。


「はぁ~、お前が自ら来たって事は、かなり厄介なもんなんだな」


 目尻が下がり、親方は優しい口調でオリビエに聞く。


「う~、親方。これ見て」


「なんだこの図面? ところどころ何を意味してるか分からんところがあるな」


 オリビエのウイスクが投影する立体映像は重力波砲の回路図。


「一応、これを見本に図面を引き直してみたんだけど」


 取り出したノートにはまた違う手書きの図面。親方は興味津々で隅から隅までを目でなぞった。


「ほぉ、よくできてんじゃあねぇか。この図面だけでもかなりの高値で売れそうだ」


「そいつの売却先は評議会だ。と言いたいんだが、まだそいつもオリビエは納得して完成品とは呼ばないんだよ」


「こっちの古代技術の解析をしないと完成させられない。親方、手伝って」


 立体に見る図面は8枚からなっている。


 一枚一枚を分析し、8枚がどんな組み合わせなのかも読み解き、それと全員が振り回されて手に入れた、例の三つのユニットが、どんな作用をするのかも考えないといけない。


「こりゃお前、いくら時間が掛かるかも分からねぇぞ」


 オルボルトも図面を眺めるのは嫌いじゃあない。だがこれは片手間にできる仕事じゃあない。


「心配しないで、九割五分は理解できてるから、親方に見てほしいのは、こことここと、こっちと……」


 オリビエは数ヶ所にチェックを入れて、兄弟子のフンデにも見てもらう。


「実際に実験装置を作って、エネルギー伝達とかを確かめながら、データをまとめたいの」


「なるほどな。そのデータを俺達も一緒に分析しろと言いたいんだな」


「うん、親方お願い」


 そこまで大掛かりになると、ベルトリカでは作業ができない。


 それで工房に戻ってきたのだ。


「それじゃあこれで、俺はお役ご免だな。オリビエ、帰ってくる時に連絡しろな」


「バカ言え! お前は至急、ランベルト号を連れてこい。このトンでも兵器はあの赤いのに積むんだろ? あのオンボロ船は無理が祟ってやがる。フルメンテが必要だ」


 そんなのは通信ででも何でもすれば済む話だ。


 それをラリーに迎えに行けとは?


「あの行き遅れのヤンチャ娘には、とっくに伝えてある。なぁに、レディーのエスコートなんて仕事、英雄様なら朝飯前だろう?」


 オーバーホールが必要だと、再三言ってもミリーシャは聞こうとしない。


 言う事を聞かせるには、ラリーを使うのが一番なのだ。


 何故かオルボルトも知っているミリーシャの胸の内。情報源は警察機構のクレマンテ=アポース巡査長である。






 ファクトリーに残ったソア、リリア、そしてリーノ。


 ソアは解析の役に立つので、オリビエと一緒に工房に入っている。


 しかしリーノとリリアにできる仕事はない。ラリーと一緒に帰ろうとして、オリビエに止められた。


 言われるままに従ったもののやることがない。


 暇を持て余し歩き回る小惑星、狭いファクトリーの中を見学するが、見る場所自体がそんなにない。


 フンデがゲームを用意してくれなければ、リリアが大暴れするところだったが、それももう飽き始めている。


「俺達いつまでボケーっと、待機しているだけなんですか?」


 2人が暇そうにしているのを見掛けると、次々と何か時間つぶしを持ってくるフンデに聞いてみた。


「いや、あれバーチャルシミュレーターはお気に召さなかったのかい?」


「あれはリリアがものすごく気に入っているけど、そうじゃあなくてさ」


 しどろもどろ口籠もるフンデの様子は、お願いだから察してください。と、大きな口を開いて言っているようなもの。


 未だにコスモ・テイカーの心得を教え込まれているリーノでも、気付かないフリすらできやしない。


「はぁ、わるい。俺の口からは何も言えないんだ。けどこれは親方と、あんたのところのリーダー決めた事なんだ」


「ラリーさんも?」


 と言う事はリーノの役目はここにある。


 それが何かはいずれ分かる。今はただ黙って時を待つ他ないと言う事か。


「……まぁ、いいか」


 リーノの言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろすフンデ。


 とは言え、どうリリアを説得しようかと悩むところだが、バーチャルシミュレーターに夢中な内は放っておいても大丈夫だろう。リーノは自然と溜息を零していた。


 なんてやり取りが裏で行われている間に、オリビエ達は試作器の組み立てを、ようやく終えようとしていた。


「ふぅ、意外と時間がかかっちまったな」


 開発室いっぱいになる大きさの試作器、実験をするにも物が物だから、こんな狭い場所で電源を入れるのも問題がある。


「外に出して動かすしかないな」


「そっか、それじゃあリーノとリリアにお願いしよう」


 シミュレーターで遊んでいた2人は、研究開発室に呼ばれた。


「おお、なんかすごいですね。これ!」


 ギャレット=キャリバーから貰い受けた、三つの古代ユニットは。

 モビールサイズの全く同じ形をしたユニットは、そもそもが評議会の保管庫や、ましてや妖精族が預かれるような代物ではなかった。


「へぇ、分かるのかい?」


「いえ、雰囲気で」


 冷や汗を流すフンデはリーノとリリアに内容を説明した。


「まだ仮組の状態だからな、慎重に運び出せよ」


 二人のモビール。シュピナーグとリリアーナは試作器と連結され、ソアの指示の元で小惑星の外へ出した。


 シュピナーグの10倍のサイズはある試作器を、指定の場所に移動させた。


『それじゃあ、実験を開始するよ』


 仮設置の外付け動力に電力を流し、試作器はニュートラル状態に入る。


『リリア、右の方に回り込んで』


 アストラスーツを着て、宇宙空間にでるオリビエは、動き出した試作器の観察を開始する。


 姿勢制御は自分でもできるが、直ぐに夢中になり、色んな事が疎かになるオリビエを、支える役目が必要となる。


『ありがとう、ここでいいよ。親方、聞こえてる?』


「おう、ちゃんと見てるぞ」


『三番のラインと八番のラインの数値なんだけど』


「そうだな、どちらかが変換不良を起こしてるようだが……」


『バイパスになってるのが例のユニットだから、この数値じゃあ何が妨げになっているのか分からないね』


 こういった機械的な話は、データ整理のお手伝いをしているソアにも全く分からない。


『ニィーニ、もう少し動力の回転数上げて』


「いいのか、そんな事して?」


 同じようにモニターで熱分布を観察しているフンデは、熱量がまばらすぎるのを気にしている。


『大丈夫、高いと言っても想定の範囲内だから』


 電力の流れがスムーズでない部分を見つけられれば、問題解決に繋がるかもしれない。


「それじゃあ少しずつ上げていくから、少しでもおかしかったら、直ぐに言うんだぞ」


『うん』


 フンデは注意深く電力を上げていく。


『ニィーニ、遅いよ。それじゃあ変化が読みにくい』


「そう言ったって、状況が分からないんだ。慎重に様子をみるべきだろ」


 技術者として正しいのはフンデだが、開発者として思い切りがいいのはオリビエだ。


『もういい』


 果たしてどちらが正しかったかは後の課題として、未然に防げた事故は起きてしまった。

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