Episode19 「面倒ごとばかりだな!」
今は評議会事務所の職員が、保管品消失問題の状況確認が終わるのを待っている状態。
待機場所はノインクラッド制宙権にある宇宙船ドッグ、ベルトリカの中。
職員は言葉を濁していたが、ソアが評議会の回線に潜入して、すでに何があったのかは分かっている。
「回収するはずだったユニットが、横流しにあった形跡があるのか」
「三流なやり方よね。改竄された書類が三枚あるわ。いずれも保管係のピリウス=ゾヴォーグという男が携わっている」
ピリウスは議会事務所から既に姿を消している。保管品が横流しされて直ぐのことだ。
「ピリウスが保管室に転属されたのが一月前で、あら? ……妙ね」
評議会の接収物保管庫の係員に選ばれる男が、窓口係半年の経験のみというのは、ソアの言う通り妙な違和感を感じてしまう。
「そもそもギャレット様がお預けになった品が、接収物扱いにされてしまっているなんて」
ノエルは強い嫌悪感を隠すことなく顔に出すが。
「んなもん、珍しい事じゃあないぜ。どうせ爺さんの事だ。評議会の保管庫を倉庫代わりにしてんだろうぜ」
「確かに考えられる話ではありますがラリー、ギャレット老からの預かり物をそんな簡単に横流しなど」
「そうだよな。あの爺は特権階級の待遇を受けている。他の物品と一緒に保管されるわきゃないだろうし」
「取りあえず、気になるデータを全部そっちに回すわ」
アンリッサはソアが吸い上げた資料を、片っ端から確認していく。
「やはりすごいですね。ベルトリカのクルーは」
「お前さんだって、並の船乗りなんか足下にも及ばんだろう」
「お褒め頂きありがとうございます。ですがミスター、それ嫌味にしか聞こえませんよ」
ノエルはアンリッサが確認を終えたデータを、手持ちのタブレットへ保存していく。
「俺からすればみんな凄すぎて、お前さんがどの部分を嫌味に取ったのかが分からん」
3人の作業が一区切りを迎えた頃になって、評議会からの回答があり、手続き物品が紛失されていることを報告された。
ベルトリカの調査対象は、とっくに次の段階に進んでいる。
「どうやって潜り込めたのかは分かんないけど、ピリウス=ゾヴォーグなんて人間はノインクラッド居住者の中にはいないみたい」
「偽名にしたって、登録された住所はあるだろう?」
「あっ、なるほどね。ちょっと待って……、あった!」
ソアが行き着いたのは、バラウンケット・テクノロジーの独身宿舎。
「ここの職員なら評議会のデータベースに、個人情報が無くてもおかしくない。……か」
銀河評議会の登録未登録に関係なく、製造ラインを銀河中に持ち、技術者や作業員の行き来が頻繁に行われている多目的製造会社。
そのため各地域の役所に入所届けを出せば、評議会への報告は義務付けられてはいない。
「ガキんちょ、バラウンケットか役所に、潜り込むことはできるか?」
「ああ、うん……。無理みたい」
重要データが元から無いのか、回線に繋がっていないのか?
バラウンケットはおろか、役場のオンラインサーバーにも繋がらない。
「幅広い企業は専用ラインを使ってて当然だし、この会社が工場を設けているのは田舎ばかりだもんね」
「未だに紙の書類がメインの田舎役場か。こんな手の込んだ事のできる人間がいるとは思えない。これ以上は追えないって事か」
足取りが断たれた。
さて他のルートで犯人に辿り着くためには、一体どうするか?
「ピリウス=ゾヴォーグが評議会に顔を出さなくなったのは、いつ頃だ?」
「それなら、……五日前ね」
「その日の配送伝票を当たったりできないか?」
「全ての会社のですか?」
「さすがにそれは……」
アンリッサもノエルも厳しい表情をしている。
「やれるんじゃあない?」
ソアは事も無げに言ってのけると、評議会に出入りする運送会社を割り出した。
「だいぶ絞れたけど、これを当たるってことですか?」
「頼むぞアンリ」
「なに言ってんの、ラリーでもできることあるんだから、人ごとじゃあないわよ」
限定した作業だったが、ソアに捕まり渋々手伝うラリーを入れても、流石に確認にはかなりの時間を要し、全てを纏め終えたのは明朝のことだった。
カート達がフェラーファに到着したのはラリーとソアが大衆食堂で食事中、アンリッサとノエルが合流した頃だった。
「へぇ、ここが妖精族の里かぁ」
パメラは見渡す限りの草原に目を奪われた。
夜叉丸の中はあまり広くもなく、リリアはロボットをベルトリカに置いてきている。
ランベルト号の突撃艇は少し大きめで、惑星に降下する許可サイズを超えていた。
自然豊かな惑星の、特別保護区画は危険な巨大生物も生息している。
それらをあまり刺激しないための条約があるため、パメラがカートの前に座り込むと、もう1人が乗り込めないのだ。
「ランベルト号にはモビールが搭載されていないんだな」
「ウチのキャプテンの方針だ。それにあたしも操縦が苦手だしな」
苦手というか、まったく扱えないので、こうして連れてきてもらうしかない。
適当な高台に着陸し、3人は外に出る。
「道案内を頼んだぞ。リリアス」
「……やっぱり止めない?」
ここへ来るまでもずっと浮かない顔だったリリア。
それもそのはず、リリアは家出同然でリーノにくっ付いて、星を出て行ったきりだったのだから。
「そう言えば、俺はまだ、お前がベルトリカに来るまでの経緯を、ちゃんと聞いていなかったな」
カートは別に無関心なわけではなく、話したがらないうちは様子を見るという、ラリーの方針に従っていた。だが事ここに至っては。
「あのね……」
リリアがゆっくりと話し出した内容は、掻い摘んでこんな事。
上の娘が駆け落ちをして出て行った両親は、当然の如く猛反対。
せめてソニアのようにフェニーナとなってくれれば、それと所在をハッキリとしてさえいてくれればと、頭ごなしの説得を受けた。
「それを振り切って、リーノに付いてきたのか?」
「居場所はちゃんと分かるんだから、いいでしょって言っても、全然取り合ってくれないんだもん。だから自室に逃げ込んで書置きを残して……」
ユニット獲得の条件を果たしに、フェラーファ族長に会いに来たカート達。
面会の条件がリリアを連れてくる事。
カートの説得に、仕事として割り切ったはずなのだけれど……。
リリアの今の状態を見て、このまま真っ直ぐに向かうという訳にもいかない。
カートは目的の集落と隣接する、別の集落の村長を訪ねた。
「リリアじゃあないか!?」
村長は族長の妹婿で、フェアリアに仲間入りしたパスパード人である。
人間ではあるが、フェラーファ人の族長である、義兄のブランカ=フェアリアの苦悩もよく理解している。
「久し振り叔父さん。その……」
「元気がなさそうだな。その様子だと、まだ義兄さん達に会ってないと言うことか」
「うん……」
「帰ってきて、ここで生きていけば、お前もお前が見初めた者も、安心して生きていける」
フェニーナと人間が住む、この村でなら、配偶者から生命力を奪われることはない。この星にはそんな不思議な力が働いている。
「だから俺も義兄さんの……」
「叔父さんまで、父さんや母さんみたいな事を言わないで!」
「す、すまん。だがな……、あっ!」
嫌になるほど両親に言われ、最後まで理解を得られることはなかった。
帰りを遅らせてくれていたリーノも限界時間がきて、リリアは決心して家出をした。
「リリアス!? 頼むパメラ=ビオフェルマ」
飛び出していってしまうリリアを、パメラに追いかけてもらい、カートは村長の影に隠れる気配に声を掛けた。
「彼女の事は今しばらく、俺達に任せてもらう話だったはずですが?」
「お初にお目にかかる、カート殿」
「族長ですね」
村長の後ろから出てきた、10歳にも満たない顔立ちの妖精。見た目に反した風格あるオーラを放ち、羽を煌めかせ目の前に姿を現す。
「フェアリアの一族に生まれた女は必ずフェニーナとなる。その唯一の例外が、一族同士の婚姻と出産。フェニーナの呪い、それもこの星にいれば最悪の結果だけは免れることができる」
「それが分かっていても、譲れないものがある。あなたの2人の娘は試練の道を選んだ」
ソニアのことはカートには分からない。
だがリリアがベルトリカに残る理由は同じでも、想いは船に来た頃と違う。
「ご息女がもしフェニーナになったなら、その相手も連れて、あなた方の元へ届けよう。だから今はまだ我々に任せて欲しい」
カートはブランカ族長からの依頼を受け取る。
このチームに出されたギャレット=キャリバーからの課題、『フェラーファ族長の役に立て!』ミッションスタートだ。




