Episode16 「リーノ、アウトだ!」
チーム編成はこうだ。
第一チーム、ラリー & ソア & クララ。
第二チーム、カート & リリア & パメラ。
第三チーム、ミリーシャ & ノエル & リーノ。
手掛かりは設計図にあった。
それに一番に気付いたのは、意外なことにリーノだった。
気付いたのは直感と言うか、違和感だけ。
その言葉から違和感の場所を見つけたのはラリー。
ソアとノエルがじっくりと観察すると、直ぐに答えを見出して説明する。
「ほほぉ、確かに宙航図を回路図で表しているわね。やるじゃないボーヤ」
ミリーシャに褒められて悪い気がしないリーノだったが、今一つ分かっていない。
さて、これが地図だとして目的のものは何処に?
「これかしら?」
「何かあったか?」
ソアが眺める辺りに何があるのか、ラリーには全く分からない。
ちょっと待ってね。と言って黙り込む。
「……あっ、オリビエ。うんうんそう、見えるでしょ」
ソアは音声通話をオリビエと繋げ、ロボットの目に映る映像を送った。
「うんそう、これとこれとこれ。他にないよね。うんうん、分かった。ありがとう」
通話を終了し、咳払いを一つ、ソアは両手を腰に、胸を張って自信に満ち溢れた表情をする。
「この回路図は、航宙図に合わせて作られているのは間違いないわ」
「待って待って、ものすごく昔のお宝探してるんでしょ、なんで今の航宙図と古代兵器の図面が一致するの?」
リリアはようやく話の理解に追い付き、大きな疑問にぶつかった。
「簡単な話よ、重力兵器を大砲にしようと思いついたのが、これらを隠した人だからよ。図面を引いたのは、たかだか数年前って事ね」
ラリー達が見つけてきたユニットと、そこから生まれようとしている超兵器が、真犯人を浮かび上がらせる。
「すまないね。またウチのじいさんの、つまんない思いつきにつき合わせて」
「またって?」
「言葉のままだろう。ミリシャはいつもいつも、ギャレット老の退屈しのぎに、こうしてつき合わされてるってことだ」
リーノの疑問に答えるラリーは、まだ納得のいかない顔をしている後輩の肩を叩き、察しろと無言で伝える。
「それで何を見つけた?」
カートはずっと図面を眺めていたが、ソアとオリビエが見つけた何かが見えてこない。
「この回路図には様々な部品が使われているけど、重力波の制御板だけが三つなの。つまり、ここと、ここと、ここ」
それは中央評議会加盟の惑星の位置を示している。
「そうか、その三つの惑星に各々一つずつ隠されているって事だな」
「リーノ、正解。そして三つの制御板の図面がまたそれぞれ地図になっているって事よ」
そちらについてはまたこれから分析して、地図に起こさないとならないが、方向性は見えた。
場所を特定する前にバランスだけでチーム分けしたが、場所を考慮し、一部変更したところでまた一悶着があった。
「どうしてクララが、リーノのチームに入るのよ」
リリアのクレームはクララとノエルを交代した事で発生した。
「ミリシャが担当する方がいいからな、キリングパズールは」
フィッツキャリバーコーポレーションのお膝元、何かと融通が利きやすいので、本来なら元のチーム分けのままノエルが一緒の方がいいのだろう。
けれど何かと手続きの多い惑星ゆえに、公務員が一緒の方が都合がいい場合もあると、ラリーが判断して変更となった。
「だったらノエルさんじゃあなく、リーノを替えればいいじゃない」
もっともな意見だが、今後の事を考えると、一番厄介事が起こりやすいキリングパズールでの活動を、新米にやらせたいと言うのがラリーの考えだ。
ラリーのチームはノインクラッドへ、カートのチームはフェラーファへ。
それぞれの探索マップが完成したところで、全チームは別れて惑星に降り立った。
最後まで納得しようとしないリリアは、カートに引き摺られて行った。
出発が最後になったリーノ達もキリングパズールに到着する。
「仕事でもないのに、こんなに簡単にキリングパズールに入国できるなんて」
ミリーシャの入国はもとより、銀河評議会警察機構の特権は、コスモ・テイカーの1人を特別扱いにした。
「チーム変更の理由は、これだったんですね」
「まぁ、ラリーがここに来たがらなかったってのが、一番の理由だろうがな」
それは恐らくカートも同じ。
今回の件はできれば、ベテランにキリングパズールへ来て欲しいところだったのだが、ミリーシャがいればどうにかなるだろうと、きっぱりと拒否されてしまった。
「ここではボサリーノ、あんたは私らの後ろに下がってるんだよ」
わざわざクララを警察機構の礼服に着替えさせたのは、キリングパズールでは有名なフィッツキャリバーコーポレーション令嬢、ミリーシャ=キャリバーの護衛という立場にするため。
リーノもまた護衛という立ち位置に添えられた。
「確かにそう言う事なら、英雄が一緒の方が良かったですよね」
「あんたの実力は私も認めてるよ。当てにさせてもらうから、気合い入れておくれよ」
いつもの海賊装束ではない、艶やかな衣装を普段着だと言うミリーシャは、本家に顔を出すというので、リーノもまた着替えさせられた。
「こなれてない感じが丸出しね。でも……似合ってるよ」
「それ、褒め言葉になってませんよ」
リーノだってスーツを着た事くらいはあるが、この姿でテイカーの仕事をこなせと言われたら、違約金を払う覚悟が先にできるかもしれない。
「そんなものは直ぐに慣れるから、なぁ、巡査さん。ボサリーノに感想を聞かせてやりなよ」
新品のブランドスーツ一式を身に纏ったリーノは、確かに畏まった紳士に見えなくもない。
「は、はい。……とっても似合っている。と、思い、ます」
顔を赤くするクララにからかわれている気分になるリーノは、鼻を鳴らして腕組みをする。
「そうだ、2人とも。もう一着ずつ衣装を揃えるからね」
シャトルステーションからは、キャリバー家の高級車に乗せられ、一件のハイブランドショップに立ち寄り、今夜キャリバー邸にて過ごすための衣装を見繕う。
流石に今からオーダーはできないので、プレタポルテの一揃えを購入する。
「こんな高価な服を2着も頂けませんよ」
「いいからいいから、さあ、クララリカはアクセサリーもだね」
なんとも楽しそうなミリーシャに引っ張り回され、朝一番にシャトルステーション入りしたはずが、キャリバー邸に着いたのはお昼を過ぎた頃だった。
「それじゃあクララリカは私と私の部屋に、ボサリ-ノはレリックに君の寝床へ連れて行ってもらいな」
執事のレリックに連れて来られたのは客室。
1人で寝泊まりするには広すぎる部屋には、扉とは反対の壁際に置かれた、1人で寝るには広すぎるベッド、見た事もない高級そうな応接セット、とにかく目に映る物全てが煌びやかだった。
渡されたスーツに着替え、居心地悪くソファーに腰を落とす。
「モーニングコートって言うんだっけ」
どうにも落ち着かない。
着替えを終えたとほぼ同時にメイドさんが入ってきた。入れてもらった紅茶に手を伸ばし、舌を軽く火傷しながら一気に飲み干すと、また手持ちぶさたとなる。
5杯目の紅茶を飲み終えた辺りでノックがして、待っていた2人がようやく顔を見せてくれた。
「お待たせ、少し時間が掛かっちゃったね。おや、なかなか凛々しいじゃあないか」
真っ赤なドレスの女性、リーノは目を白黒させている。
「その声は、キャプテンさんですか?」
金髪を縦ロールにセットして、メイクもしているようだけど、かなり抑えめのナチュラルな感じだ。
なによりリーノの知っている吊り上がった鋭い眼光も、どちらかと言えば目尻の垂れ下がった、大人しい印象をしている。
「髪の毛がなんで金色に?」
キャプテン・ミリーと言えば鮮やかな赤髪。
「ファイバーウイッグを使っていますから。女はお化粧で化けるものでしょ」
いやいや、そんな簡単な言葉では説明の付かない変身に動揺が隠せない。
ファイバーウイッグは定番のおしゃれアイテム、身に付ければ髪の色を自在に変えることが出来る。
しかし身長まで変わるというはどう説明するのか。
「わたくしの事はいいから、感想を述べるべきはこちらでしょう」
衣装替えというか変身したミリーシャの隣に立つのは、真新しい淡いオレンジ色のドレスを身に纏い、地毛よりも少し長目の紫や黄色の付け髪と、こちらも自然な感じのメイクをしたクララだった。
「ああ、えっと、本当に女の人の印象って、化粧一つでこんなに変わるものなんですね」
こちらは一目でクララ本人だと分かる。
だがそのモジモジとした佇まいに、頑張って堪えはしたものの、リーノは思わず吹き出しそうになってしまう。
「それで、感想は?」
「えーっと、そうですね。そんな動きにくそうな格好で、本当に任務が勤まるのかが、気になりますね」
照れ隠しであったとしても最低以下の回答に、ミリーシャは頭を抱え、クララは涙ぐみながらリーノの足を思いっきり踏みつけたのだった。




