Episode13 「まだ終わりじゃあないぜ!」
ガーディアンを破壊した事で奥の扉が開いた。
これで終わる事を願って進むが、その先は行き止まりだった。
目立った何かがあるわけではないが、そこには四つのベッドがあり、調理マシーンも使えるようになっている。
「ただの休憩室の様ですね」
ここでなら体を休める事ができるが、その他はどこをどう触っても、何か重要な物が置いてある様子もない。
「どういうことだよ。ノエル?」
「私が分かるとでも思いますか、パメラ」
ソアが調理用の端末を調べてみても、どことも繋がってないし、何も見つからない。
「これだけの大仕掛けで不発とか、あり得ないんだけど!」
リリアが大声を上げるが、納得のいく答えが返ってくるはずもなく。
「帰りましょう」
「ノエルさん?」
「エギンスさん、お疲れ様でした。ここで十分に休憩を取って帰りましょう。どのみち我々は、これ以上何かがあっても、対応できる状態ではありませんから」
全ての残弾がゼロ。剣や鞭を振るう体力も残っていない。パメラの背中で寝ているクララが起きる様子もない。
「マジですか、なんか灰になった気分ですね」
椅子に座り、背もたれに体重を預けるリーノが大きく息を吐き出す。
「何よそれ、何かあるはずでしょ」
駄々をこねるリリアに、お手上げポーズのソアがダメ押しをする。
「嘘でしょ、本当にこれで終わりなの?」
7人目の声に5人が一斉に入り口の方へ向く。
「ヘ、ヘレンさん!?」
「えっ、なになに!?」
リーノは驚きのあまり、勢いよく椅子を倒し、その物音に目を覚ましたクララが寝ぼけて暴れるもんだから、パメラが手を滑らせて、尻餅をついてさらに大きな声で痛がった。
「ヘレーナ=エデルートですか」
「はじめまして副キャプテンさん」
リーノ達と共に行動した清楚な装いとは一変して、ボディーラインがしっかり見て取れる赤いワンピースが金髪によく映える。
「髪の毛、染めたの?」
リリアが指摘したのは黒髪だったはずのストレートヘアを、ワンレングスにしているイメージチェンジについて。
「似合う?」
「真っ赤なルージュと合わせて、全く合ってない」
ばっさりと切り捨てるが、リリアにはまだ、あのヘレンと同一人物なのかと思えるほどの変化に戸惑いが残る。
リーノが一目で気付いた事が驚きでしかない。
「跡を付けてきたようですが、いったいどうやって我々の行動を知ったのですか?」
今日ここへ来たのはもちろん、海賊ショーの後もベルトリカチームと共に行動している事は非公開。
当然今回の情報についても、ヘレンが手に入れる事なんてできるはずがない。
「私、今ベルトリカの行動に注目してるから、リーノ君がおチビちゃん達とお出掛け、なんて知っちゃったら、追いかけて来たくなってもおかしくないじゃない」
フウマ族での生活から解放されて、一気に性格まで入れ換えた様なヘレンは生き生きとしたハイテンション、ハッキリ言って不気味だ。
リリアとソアが青ざめた表情をロボットに再現させる。
「それで、これ以上何かご用でも?」
見ての通り、ここには何もなかった。黙っていなくなる手もあっただろうに、わざわざ声を掛けてきた事に引っかかりを覚える。
「確かにあなた達がいなくなってから、手当たり次第に探ってみるってのも手だけれど、ここに入るための鍵やら情報やらを、貰っておいた方がいいと思ったの」
ヘレンの背後から4人の人影が姿を見せる。
リリアの姉のソニアル=フェアリアと、彼女を生きながらえさせるために用立てたベック=エデルート。
「クリミナルファイターのバシェット=バンドールとデルセン=マッティオまでいるのか」
「感動の再会でしょ?」
「最悪の気分だよ」
リーノはパメラのヒートソードをそのまま使わせてもらっている。
ヘレン目掛けて飛びかかり、躊躇なく斬りつける。
「活きがいいな少年」
「えっと、ベック=エデルート……か?」
「へぇ、俺を知っているのか?」
いや、実のベックもこの男も実際の所はよく知らないのだが、それはどうでもいいし、正直に答える義理もない。
「なかなかいい剣筋だ。だがまだまだだな」
流石と言うべきか、フウマの諜報員の実力の前に、付け焼き刃の剣術は通用しない。
狭い部屋を出てガーディアンと戦ったエリアまで戻り、広い場所で思いきり何度となく剣を振っても、全てを受け流されてしまう。
「加勢します、エギンスさん」
一人の手で足りないなら、もう一人。
これならばと、一気に攻めようとするが、援護がいるのは向こうも同じ。
スピードを付けて割り込んでくるデルセン=マッティオに掻き回されて、二人は連携が取れない。
向こうではバシェット=バンドールの筋肉肥大化にクララが筋肉操作で対抗するが、力比べでは勝ち目がない巡査は格闘術を駆使するも、結論から言って警察の格闘術はフウマに劣っている。
力任せの攻撃しか知らない男だが、バシェットは自分を如何に扱えば、最大の効果を発揮できるかを知っている。
リリアはソニア相手に舌戦中。
パメラの鞭捌きは冴えきっているが、フウマの諜報員であっても非戦闘員に近いヘレンに、掠らせる事もできない。
「やばいわね。押されている訳じゃあないけど、決定打が足りない」
残弾ゼロのソアは手も足も出せずに後ろに下がっているが、状況は至って不利。
みんなに疲れが溜まっていなければ、或いは弾薬が残っていれば、退けられない相手ではないのだが、今の状態で待ったを聞いてくれる相手でもない。
「リーノ!」
「ノエルさん、ここお願いします」
ソアに呼ばれて、下がるリーノと焦るノエル。
「ちょ、エギンスさん!?」
二人でどうにか押さえていたベック=エデルートを一人でどうにかしろと言われても。
「きゃあ!?」
力で押され、技で翻弄され、ノエルは後ろ向きに転んでしまう。
だけど時間は稼いでくれた。
ソアが充電してくれていた、リーノの二丁の愛銃、そのカートリッジを受け取る。
「ノエルさん、頭下げて!」
スピードに乗ったデルセンを撃ち、ベックの刀も弾いた。
押された状況から、百発百中のリーノの銃撃で逆転を図る。
クララを上から押さえつけようとするバシェットの左肩を撃ち、ソニアの事はリリアに任せるしかない。
最後にヘレンを狙い、隙をついて撤退をするつもりだったが、もし使えたのが実弾だったなら。
「連続使用が過ぎたみたいね。焼き付いた銃口じゃあ、私のシールドコートを抜けなかったみたい」
エネルギー粒子を磁界で分散させる、特殊コーティングのワンピースを抜くには、クデントもエガンテも限界を超えていた。
デルセンはまだ立ち上がれずにいるが、バシェットは回復し、気を抜いていたクララを殴り倒して、パメラに襲いかかっていく。
「でっかい体して、なんてすばっしこいの?」
振るう鞭の無軌道な攻撃を最小限の回避で距離を詰めてくるバシェット、パメラは左手に剣を持って、牽制の手数を増やす。
「ここんところ私の自信を削ぐ相手が出てきすぎだろ」
体力の限界寸前、パメラはボディーブローを食らってしまう。
相手の勢いを削ぐ事はできず、落とした刀を拾い上げたベックがノエルを追い込んでいく。
銃撃のダメージではなく、転んだ拍子の打撲で動けなかったデルセンも参戦しようとするが、走り出したところを撃てば、今のリーノの銃でも倒す事はできる。
しかし反撃はここまで、完全に打つ手がなくなった。一同はフロアのコーナーへ追いやられる。
「勝負あったわね。それじゃああなた達の情報を渡してもらおうかな」
「情報と言っても、ここまで来るのに必要だった物しかありませんよ」
ノエルは何ならどうぞと、タブレットを差し出すが。
「そんな簡単に騙されると思ってる?」
素直に差し出されたタブレットを受け取りながら、他にもあるでしょと、ヘレンは手で合図をする。
「私達が近付いているのに気付いて、そっちのおチビさんと一緒に隠したデータ」
そう、ここでのミッションは無事にコンプリートしていたのだが、仲間にも黙って守ろうとした物を、敵は見逃してはくれなかった。
この状況で大きな怪我をする者のいないことで良しとするべきか、悩んだところでこちらにとれる手段は一つだけ。
「しょうがないですね」
「ノエルさん!?」
「私達の負けですよ、エギンスさん」
ノエルの手にはデータカード、そこに苦労の結晶が入っている。
「まだ降伏するのは早いぞ」
不敵な笑みを浮かべるヘレンは、自分に向けて飛ばされる小刀を振り向きざまに払いのけ、入口に面倒な相手を確認し、苦虫を噛み潰したような表情に変えた。




