Episode10 「がんばれよ、でこぼこトリオ!」
人型のガードロボットをクララは、警察機構で支給されるトンファーを改造した、ヴァラキュリアで次々と破壊した。
ロボットの扱いにもだいぶ慣れたリリアも張り合って前に出て、近接戦闘ルーチンを盛り込んだプログラムのサポートの元、それなりの結果を出している。
出番のないソアは残弾を温存する事ができた。
「大丈夫なの、クララ?」
格闘技の事はソアには全く分からないが、クララは防御が下手な事は分かる。
ヴァラキュリアを防具としても使ってはいたが、攻撃を優先してなのか、脛に填めたプロテクターは活用することなく足下は疎かで、打撃に対しては打たれるままにしていた。
「ああ、平気平気。私のイズライトは筋肉を防具並みに堅くできるから」
「筋肉操作能力については調べたわ。防具並みって、一言では片付けられないくらいに難しいんでしょ?」
「ううっ、あんまり思い出したくないけど、巡査長の特訓のお陰で警官になる前には、これくらいはできるようになれたから」
過去の過ちから、この力は完全に使いこなさないとならないと決心して、アポースの指導の元、文字通りに血反吐を吐いて制御を覚えた。
「まだ道半ばだけど、仕事に役立てられるくらいにはなったんだ」
それでも心配なソアだけど、セーフティーゾーンまではまだある。
次に出てきたのは4メートルある大きな人型ロボット。
「なによこれ、ガードロボットとして、こういうのアリなの?」
「落ち着きなさいリリア、って言いたいけど、本当に非常識だわ」
全身に武装が施されてはいるが、それがフィッツキャリバーから販売されたばかりの、建築用ワークロボットであることをソアは気付いている。
「ちょっとやそっと殴ったくらいじゃあ、壊れないよね。だったらいっぱい殴んなきゃ」
飛び道具の固まりのロボット相手に、さっきと同じ戦闘スタイルで戦おうとするクララの首根っ子を引っ掴んで、待ったを掛けたソアが対処する。
「きゃ!?」
いきなり襟首を引っ張られて、仰向けにすっ転ぶクララはぶつけた後頭部を押さえながら悶える。
「動かなくなっちゃった。ソア、何やったの?」
「まさか本当に効くとは思わなかったわ」
手に持っているのは小さな黒い何か。
「いたたたたっ、……ソアちゃん、それなんですか?」
「悪かったわね、大丈夫?」
「はい、平気です。それで?」
「ああ、うん。今回の話を聞いた時に、フィッツキャリバーの商品を見直してね、カタログに緊急停止装置って言うのがあったから、取り寄せてみたんだけど、まさかこんな所で使えるとは思ってなかったわ」
こんな事もあろうかとではないが、向かってきた三機全てが、本当に止まってしまうとは驚きだ。
「さっ、行きましょう。この先で休めるわ」
セーフティーゾーンで食事でも、ソアが準備をしていたら聞こえてきた寝息。
「あらら、怪我はないようだけど、ずっとイズライト使いっぱなしだと疲れるのかしらね」
クララの寝顔を見て、何か良い夢でも見ているのかと頬笑みが伝染してくるソアは、リリアに向いて、軽食を勧める。
「ありがとう、自分は食べないのに、私達の分を用意してくれて、ソアってお母さんみたいだね」
「誰がよ。いいから早く食べて」
寝ている子には後で摘める物を口に放り込むとして、ロボットから出てきた妖精は、好物のフルーツに手を伸ばす。
「グワンの実ないの?」
「贅沢言わない」
食べやすいサイズにカットされてはいるが、出されたお皿のフルーツ盛り合わせはその体のどこに収まるのかと思える食欲に、見ていてほっこりしてしまう。
「ねぇ、やっぱり一緒に食べようよ。そのロボットにはそう言う機能あるんでしょ?」
「勿体ないでしょ、会食で誤魔化すための機能なんだから、お腹に入れた後は捨てるだけなのよ」
「味は分かるんだよね。だったら全くの無駄じゃあないよ」
「勿体ないよ。……それじゃあ、これで我慢してね」
ソアロボットはバッテリーと、オイルを燃焼する発電のハイブリッドで電力稼働している。
バッテリーのみで動くリリアロボットと違い、口からの給油が可能だから形だけならお付き合いはできる。
「あまりゆっくりはできないわよ」
クララもゆっくり眠らせて上げたいが、もう10分もしたら起こさないとならない。
「クララ、すごい働きだった……」
「あなたも慣れないロボット操作にしては、十分な成果だと思うけど」
機能をうまく活用して、近接戦戦闘用に調整されていないロボットでよく頑張った。
「自分と人とを比べるのやめた方がいいよ」
「……人を好きになるって、ああ言う想いがあってなのかな」
「やっぱり気にしてたんだ。それを聞きたいなら他に当たって、私そう言うのしらないから、まだ幼女だから」
今さら子供ぶっても、リリアはソアを自分と同年代以上に見ている。
経験はなくても知識は持っていそうだからと食い下がる。
「あなたがそう言うのを気にしているって事は、リーノをクララに、他の誰かに取られるのが嫌だからでしょ」
目的を果たすためにくっついてきたとリリアは嘯く。
本当にそれだけなら、リーノと誰が仲良くしてても気にはならないのではと言われ、胸に手を当ててみてれば確かに心当たりに行きつく。
「リーノってノインクラッドの宇宙港管制官の女の人と仲良いの。ドック入りするまでの案内なんて、もう機械任せで関係ないのに、何時までもどうでもいい話を続けちゃってさ」
その後も何人もの女性との、ソアが聞いていて、どうでもいいような薄い関係に歯を剥き出しにしている。
グチグチ良いながらフルーツを食らい尽くす。
「なんでこれで自覚ないのかしら」
溜め息を一つ、ソアはクララを起こして、軽く食事を摂らせた。
マップによれば残るはあと2ブロック。
目的地の少し手前で向こうのチームと合流できるようだが、奥に進むにつれ深くなり、通路も広くなっている。
徐々に大きくなるガードロボット。
軽食を取る前の4メートルのロボットも、大概非常識だったと言うのに。
「推定10メートルって所かしら」
「今からモビール取ってくるのって、ダメなのかな」
ガードロボットは迷宮が完成した後に運び込まれている様子がある。
つまり通路とは別に搬入経路があるはずだが、それを探すのも、ましてや今から戻って取りに行くなんて時間があるはずがない。
「流石に足にしか手が届かないよ。殴り倒す?」
エアブースターの付いたアンクルを使って飛び上がっても、腰まで届くかどうかと言ったところ、ここまで活躍を続けていたクララは手を上げて、ヴァラキリアの仕込み銃で援護する立ち位置に着く。
「う~ん、フィッツキャリバーの軍用ロボットがハリボテなはずないもんね。私も牽制しかできないわ」
ソアは目の前に現れたロボットのカタログスペックにも目を通しているから分かる。
こんな事ならもっと違う武装を用意してくるのにと、少し反省する。
「リリアのロボットも基本、私のとさほど変わらないけど……」
敵機に使われている火薬やビーム出力は火傷程度だが、防御力は本物、負けないかもしれないが、勝ち目も見えない。
「うーん、ちょっと二人だけで時間を稼いでくれない?」
後ろに下がるソアを狙わせないように、クララが前に出る。
「やっぱ私、前に出るから援護お願い」
おまけ程度の銃器では効果はない。
陸上戦用ロボットの足というのは全自重を支え、アクションの衝撃も吸収しないとならない。
バランスを取るためにも重量があり、装甲もかなり厚く作られている。
殴り倒すって言葉を実行するなら、狙い目はやはりセンサー部や中央制御装置のある頭部。
「上手く跳べるか分からないけど、やってみるからちょっとでも気を引いて」
「あんたが指図してんじゃあないわよ。けど今は手伝って上げる」
リリアは出し惜しみ無し、火力は足りないと分かっているが、ミサイルを大量に放出する。
熱源に反応してガードロボットが弾幕を張る。
両者からのミサイルの煙に紛れて飛び込んだクララ、ブーストアンクルで体を持ち上げる。
「なによ、全然届いてないじゃない」
「まだ、ここから!」
クララは体を捻り、右足を蹴り上げるタイミングでエアーブーストを噴かし、今度は左足、宙を駆け上がって、ロボットの頭部に手が届く位置まで跳び上がる。
「いっちゃえ!」
リリアが気合いを上乗せする。
けれどヒットの寸前、ガードロボットは右腕を振り回し、クララを叩き落とした。
「ちょ、ちょっと!?」
派手に床に叩き付けられるのを見て、リリアは慌てて駆け寄ろうとするが、クララは即座に立ち上がって無事であると指を立てる。
先に当てられるのは向こうだと察知して、ガードを固めたお陰でダメージは最小限。
最小限ではあるが、足下がふらつくくらいにはダメージは通ってる。
クララの攻撃は届く事は立証できたが、狙いを絞っている事がばれてしまっては、同じ手は通用しない。
それでも攻撃を止めないガードロボットを前に、防戦一方になるわけにはいかない。
「おっまたせぇー」
ソアがおいしい場面で割って入ってきて、閃光弾がガードロボットのモニターカメラ前で弾ける。
「作戦を立てたから言う事を聞いてね」
ここはそのプランに乗るしかない。二人は首を縦に振る。
「それじゃあリリア、脱いで!」
「はい?」




