Episode09 「飲むんなら俺も交ぜろぉ~!」
最初のワンブロックは、リーノの銃撃だけで簡単に攻略できた。
次のブロックは人型がゾロゾロ出てきたので、パメラの鞭が道を切り開いた。
順調に進む三人の前に、4メートル越えのロボットが全身武装で現れた。
「これって本社の新製品じゃあないの?」
「そうですね。と言う事はこの迷宮は定期的に、設備を更新されていると言う事ですね」
パメラは鞭をたたんで銃を抜く。
ロボットは元々建築用に作られた人型だが、オプションアームが4本有り、6本の腕はそれぞれに武器を持ち、ローラー走行もできる二足にも後付けのミサイルポッド、頭部には360度回転させる事ができるカメラの上に、レーザー銃が付いている。
「ノエル、あんたも剣を抜きなよ」
「いいえ、私はここで分析を続けるので。大丈夫です、これのスペックならお二人で十分相手できるでしょう?」
「いや、なんか知らんけど三体も出てきたからさ」
「おやおや、それでもお二人でどうにかしてくださいね」
名うての海賊団の副長の使うのは剣、その興味深い情報にリーノもわくわくしているが、どうやらここでノエルが動く事はなさそうだ。
防御はリーノが担当した。
イズライトを使って分かる、相手の攻撃を撃ち落とすのは簡単な作業だ。
「敵にすると厄介な能力だが、味方にすれば本当に心強いな」
「それより残弾がある内にパメラさん、早くあいつらを動けないようにしてください」
敵はマシンガンも装備していて、それらの連続攻撃を凌いでみせる離れ業、本当にリーノの能力は超感覚なのだろうか?
相手の攻撃がスローモーションに見え、それへの対処を可能にする時間が生まれる。
「面白い能力ですよね。時間があれば調査するのもいいかもしれませんが……」
興味深くもあるが、そこまで探りたくなるかと言えばそうでもない。
ノエルはガードロボットのスペックデータを呼び出し、ここでの仕様を推測し、弱点を推察する。
「パメラ、ガードロボットの首の下、胴体との付け根を狙いなさい」
言われるままにピンポイントで撃ち抜く。
「おお、止まった!」
動きを止めたロボットはしかし、しばらくすると再起動して乱射を再開する。
「パメラ、狙いが甘いですよ」
「指示がいい加減だからだ」
「俺に任せてください」
エネルギーパックが市販の物に比べてかなり特殊で、容量としては8倍ほど長く使えるが、今のこのペースではいつまで使えるものか、リーノはそんな事は全く考えずに撃ち続けた。
「ノエルさん、もしかしてあそこ?」
連射の中の一発を、ガードロボットの首元のエンブレムに狙いを絞って撃ち込む。
「止まった」
「今度は本当に止められたみたいですね。さすがですエギンスさん」
「やるじゃないのルーキー。私の鞭が届いていれば、一撃でしとめたんだけど、次はもっといいところを見せてみせるよ」
肩に手を回され抱え込まれるリーノ、目線で気付いていたがパメラは自分より頭一つ分大きい。
「パメラ、喜ぶのは早いですよ。エギンスさん、ガードロボットは後二体、お願いしますね」
「いっ!」
パメラも右手親指を立てて満面の笑み、これは奮起するほかない。
少年はその期待に応え、三人はセーフティーゾーンへ足を踏み入れる。
「残弾はどうですか?」
「はい、半分切っちゃってます」
「エギンスさんは銃以外の武器は、所持してないのですか?」
その銃を針の穴に糸を通すくらいの精度で扱えるのだから、本来ならそれだけで十分なのだが、今の状況では他の武器がないのは好ましくない。
「なに言ってんだ。ここまで頑張ってくれたんだから、そん時は私らが頑張ればいいことだろうよ」
「もちろんそうですよパメラ、それでも確認は必要な事です」
即答しようと思っていたのに、パメラの乱入でタイミングを失ったリーノは、既に手に取ってあるナイフを改めて二人に見せた。
「これですか?」
「はい、ラリーさんにこれくらいは持っておけと言われたので、それからずっと携帯しています」
これくらいを真に受けて、それしか持っていないとは、経験値が低いのは分かるが、少しこの業界というのを、今の内に知っておく必要があるようだ。
今のやり取りはミリーシャからラリーに伝えてもらうとして、ここまででようやく半分、そろそろノエルも戦闘に参加する覚悟を決める。
「おおリーノ、いい飲みっぷりじゃあないか!」
「はぁ!?」
少し目を離した瞬間に、一番恐れていた事態が起きてしまった。
「ちょっとパメラ、エギンスさんはまだ16歳なんですよ」
「成人してるんだろ、何の問題もないじゃないか」
パメラには飲み物を運ぶようにお願いしておいたが、取り出したのはまさかのラガー、もしかしたらと思い鞄を覗き込むと。
「半分ラガーじゃないですか」
「三割はウイスキーだよ」
「あなたって人は……。エギンスさんはノインクラッド人ですから、20歳までは飲酒は許されてませんよ」
「あっ、大丈夫ですよ。俺、いくら飲んでもアルコール検出されないんで、ラリーさんと飲んだ時に「お前は面白くない」って、一回こっきりで誘われなくなりました」
ベルトリカは独自の法律の下で運用されていた。
「んだよ、酔わないって、そんなの面白くないって言われてもしょうがないじゃん」
「あなたはそんなに強くないんですから、ほどほどにしてくださいよ」
「飲みっぷりは豪快でいいのにさ。そうだ、ここにある酒じゃあ全然足りないんでしょうから、今度ウチの船で飲み明かそう。本当に酔わないのか検証しないといけないものねぇ」
小休止だと言うのに三本目を開けたパメラ、今は無駄に消費するのも勿体ないからと、リーノには二本目はお茶を渡した。
「しょうがないですね。三十分だけですよ」
ノエルも最近はまっているハーブティーを取り出し、軽食も出して体力の回復を図る。
「酒のアテにはもう一つだなぁ。そうだリーノ、お前の話をアテにするから」
「はい?」
出されたお弁当に舌鼓を打っていたリーノが顔を上げる。
「向こうのチームの三人、どの子が本命なの?」
「はい!?」
お酒のアテに面白い話をご所望のパメラ、内容に面食らうリーノに、黙ってこっそり聞き耳を立てるノエル。
「本命って……」
「想われているんだろ?」
「そんな、ソアはそんな素振りもありませんし、リリアだって目的は他にあってその……」
慌てふためくリーノを見て、ラガーをまた一本開ける。
「小さいのはまぁ、そうかもね。でも妖精さんは意思表示もしているんだろう?」
「意思表示ですか?」
言葉の上ではプロポーズを受けた、婚約者になったと言ってはいるが、その真意をちゃんと確認した事はない。
「それじゃあ婦警さんは?」
クララの名前が挙がり、リーノの表情が少し曇る。
「パメラ、やめなさい。エギンスさんお困りじゃあないですか」
「あ、いや、その……。ちょっと話しにくいのは、……いえ、聞いて頂けますか?」
少年は葛藤の中で、二人を信用できる大人と認めて口を開く。
「俺、8歳以前の記憶がないんです。頭に強い刺激を受けて、当時は直ぐに回復するだろうとも言われてましたけど、結局」
少女への想いで口が重くなっているのだと思っていたパメラは、思った以上の地雷を踏んだ事に後悔の色をノエルに見せるが、そんな顔をされても困るのは一緒、だからやめて置けと言ったのにと表情で抗議する。
「ああ、なんかすみません。けどこれ言わないと、この先話せないんで」
クララとの出会いと懐かしい時間、事件の顛末を説明し終わった頃には、パメラも緑茶に手を伸ばして酔いを醒まそうとしていた。
「この辺は後から親に聞いたんですけど、一命を取り留めて目を覚ました俺に、渡された手紙や写真で色々知って、そのほとんどが嘘だって事を母親は教えてくれました」
涙の滲んだ跡の残る便箋、紙のメールなんてあるんだと、初めて知ったツールには、書かれた文字以上に伝わる感情が詰まっていた。
「再会した彼女はその手紙とは全く違う印象で……、戸惑いましたよ。俺のメモリーには写真データも残っている。記憶はなくても直ぐ気付く自信あったんです」
勝手な想像だが、初めてあった幼馴染みはハイテンションで、違和感がありすぎて驚いて、しばらく一緒にいる時間があって、過去を思い出させて無理をさせたんじゃあないかと感じて、不器用なりにでも普通に接する事が一番だと考えた。
「そうか、大事にしてやんなよ」
「いや、だから……」
「ああ、パメラあなた、またアルコールを!?」
いつの間にか緑茶はウイスキーに変わっていて、これ以上は任務に支障を来すと、ノエルは出発を促した。
ここからは今まで以上に過酷になると予想される。
剣を抜いたノエル、久し振りの戦闘で自分が足手まといになってはならないと、気合いを入れ直した。




